糸井 |
リンダから見て、上京したての
野口さんは、どういう人だった? |
佐藤 |
笑っちゃうけど、
最初に会った時のミカちゃんは、
ぜんぜん、いけてなかったですよね。 |
糸井 |
あはは(笑)。 |
佐藤 |
(笑)なまってるし。
でも、捨ておけないタイプというか。
すごい「変」だった。
制作プロダクションの
アルバイトだったんですよ。 |
野口 |
雇われかたとしては、
時給じゃなくて、給料だったかな?
7万円だったかなあ。 |
佐藤 |
わたしはもうその時には、
フリーのコピーライターに
なっていたんですけども。 |
糸井 |
リンダは、自立した女だったんだ。 |
佐藤 |
わたしは
不動産関係のコピーを書いたり、
ファッションカタログの
コピーをつくっていたり
してたところでした。
その頃、湯村輝彦さんの
取材に行ったことがあって。
わたしは湯村さんを
すごく好きだったんですが、
話をしていたら、どうも、
ミカちゃんもファンらしかったんです。
「あの人、ボタンが嫌いなんですよね」
とか、詳しいの。
それで、もらったばっかりの名刺を、
ミカちゃんに、あげたりして。 |
野口 |
そうそう、
湯村さんの直筆の
イラスト入りの名刺、もらったんです。
そういう話で、仲良くなったんだよね。 |
佐藤 |
とてもよろこんでくれた。
人がよろこんでくれると、
調子に乗っちゃうじゃないですか。
「もっとよろこばしてやる」と思っちゃった。
ミカちゃんの顔を見るたびに、
よろこばそう、って。 |
糸井 |
「あいつをよろこばせたい」って。 |
佐藤 |
うん、いなかっぺだったから(笑)。
その会社、ほかには、
そういう人いなかったし。
おなじように、田舎から出てきた
女のコがいたんですけど、
その人はかなり気取ってた。 |
野口 |
そうそう。 |
佐藤 |
その前に、そのジーンズを
何とかしなさい、みたいな。 |
野口 |
わたしは上京したてで、
ほんとに素直だったので、
「制作プロダクションの人たちは、
裏方仕事で
着る物とかは、かまわないんだ」
と思っていたんですけど。 |
糸井 |
ふふふ。
なんか、雰囲気伝わってきたよ。
何人ぐらい、いた会社なんですか? |
野口 |
10人ぐらい。 |
糸井 |
小さくはないね。 |
佐藤 |
ある日、ミカちゃんが、
会社を休んでいたんですよ。
「ミカちゃん、今日休みだ。具合でも悪いの?」
「うん? ちょっとわからないけど」
みたいな話を、会社でしてたんですけど。
そうしたら、夕方近くに、
ジャーンと現れたんです。お母さんと一緒に。
しかも
「お母さんと宝塚行ってきた」
と言うんです。
ほかのメンバーの常識でいえば、
バイトが会社を休むという場合には、
「ちょっと具合悪いんで、
休ませてください」
などと言って、
ありもしない病気を言ってみたり、
ありもしない用を言うじゃないですか。
それを、
「お母さんが田舎から来たんで、
宝塚に、今日、行ってきたんで。
お母さんが
挨拶したいと言うので連れてきた」 |
野口 |
(笑) |
佐藤 |
びっくりしちゃって、
そう言った習慣って、ないじゃないですか。
正直なところ。 |
糸井 |
(笑)そういう人たちを、
受けとめたことがなかったんだ。 |
佐藤 |
はい。
というか、
わたしは、そういうことしたら
怒られると思ってましたよ。世の中。 |
野口 |
確かね、ビールか何か、
買って持ってったの。 |
佐藤 |
割とみんな、ドキドキしてたんですよ。 |
糸井 |
(笑)イイね!その状態。 |
野口 |
いや、それは母が
「ご挨拶いかないと」と言って。
おとなの言うことだから、
そういうものなのかな、と思って
言いなりになって
行っただけのことなの。 |
糸井 |
でも、受け止めたほうが
ショックだったんだ。 |
佐藤 |
みんな、だから逆にもう、
これはこっちの親子が正しいんだろう、
ぐらいの状況に、
追いこまれましたよ(笑)。 |
野口 |
ビール持って
「いつも娘がお世話になってます」
とか言って。 |
佐藤 |
なんか、一瞬みんな、
ゴクンと息を飲み込んだの。
「ああ、どうもお母さん、
はじめまして。何とかです」
みたいになって……。
ミカちゃんがドジするたびに
「仙台、帰るか?」って
「おまえなんか、仙台に帰っちゃえよ」
みたいに、言ってた
CD(クリエイティブディレクター)さえも、
そのCDさえも、
「あ、どうもどうも」とか言って、
あたまのへんを、なでたりとかして。
それで、あぁもう、
ミカちゃんの勝ち、という感じ。
ミカちゃんってヘンな人だなあ、
とわたしは思った。
まあ、ほかにも、びっくりさせられる、
捨ておけない事実の数々がありますよ。 |
野口 |
ぜんぶ言うな(笑)。
……だって、その時は、親が、
「挨拶、いかないと」とか言うんだもん。
わたしは仙台なんですけど、
そんな、ドイナカでもなかったんです。 |
糸井 |
仙台って、ふつうの都会だよね。 |
野口 |
単に、親がそういう人だったんですよ。
|