胸から伝わるっ。
ピーチ・ジョンがふくらんでいく物語。

 
第12回 仕事を教えてくれた人。


野口 たまたま、そこの会社に、
ナガイさんというADがいたんですけど、
その時、何歳だっけ?
佐藤 26歳か27歳。
わたしと同い年だったんですよ。
糸井 その時、野口さんが19歳とかでしょ。
野口 はい、そのくらいです。
その人は、わたしを最初から
かわいがってくれたんです。
糸井 そんな会社の中にも、
そういう人が、ちゃんといたんだ。
よかったねえ。
野口 その人とリンダだけが、
かわいがってくれたんです。
なんでか知らないけど、
すごく目をかけてくれて、
近いうちにナガイさんが独立する時にも、
呼んでくれることになっていました。

ミカ坊と言われてたんだけど、
「ミカ坊、アシスタントで
 ついてきてくれる?」
って、プロポーズされてて。
佐藤 そうだったよね(泣)。
野口 すごく大事にしてくれて、
お金がない時とか、
ごはんごちそうしてくれた。
糸井 あなたの話って、
「ホロリもの」が多いね。
野口 (笑)そうですか?
そんなこと言ったら、
この話は、そのあと
もっと泣けるんですけど。
糸井 え? どうぞ。
野口 ……え? わたしが言うの?
佐藤 じゃあ言います。
……死んじゃったんです。
糸井 え?
佐藤 JALの123便が、
御巣鷹山に落ちたじゃないですか。
あの時に、坂本九さんたちと一緒に、
ナガイくん、
あちらの世界にいっちゃったんです。

大阪の会社のカタログをつくっていて、
ナガイくんもわたしも、
月の半分くらいは、
大阪に行ったりしていて。

その会社は大阪にも事務所があって、
彼は関西に住みながら、
東京と行ったり来たりしていたんです。

たまたま夏休みでこちらに来ていて、
いつもは、朝の便で帰るのに、
なぜかその日だけ、夕方に帰った。

飛行機が落ちて、
彼がいなくなって、
ミカちゃんもわたしも、
永遠に彼と一緒に仕事することが
できなくなっちゃった。
糸井 まだ、そこに勤めている時?
野口 わたしはその会社をやめて、
2カ月か3カ月ぐらい、経った時かな。
糸井 日航機の事故、夏だったよね。
佐藤 夏です。
8月12日でした。
糸井 じゃあ野口さんは、
逆算すると、5月ぐらいの、
人が会社を辞めそうな時期にやめたんだ。
野口 あまりにも麻のスーツ着てる人に、
いろいろ言われたので。
糸井 かなわんなと思ったんだ?
野口 ほんとに、
なんでこんなことまで
毎日言われなきゃならないんだろう?って。
糸井 でも、辞めた時は、
まだ、絵を描くつもりだったんだよね。
野口 ナガイさんから、
「君はイラストレーターになって
 食べていったほうがいい」
と、言われて。
糸井 さっきのアートディレクターの人から。
野口 「イラストレーターなんか、
 家で仕事できる」
って言ってくれて、
仕事の取りかた、やりかた、
請求書の書きかたから
細かいことも含めて、
ぜんぶ教えてくれたんです。
仕事を紹介してくれたりもしました。
それで、
「独立したら一緒にきてくれる?」
とずっと言われてたのも、うれしかった。
佐藤 その時に、ナガイくんが
ミカちゃんに教えたことが、
そのあとの仕事の基本でしょう。
撮影にも一緒に入っていたから。

何年かあと、ミカちゃんは通販をやり、
最初のカタログをひとりでつくっちゃう、
という、偉業を成しとげました。

その時のことがなかったら、
カタログのつくりかたなんて、
わからなかったでしょ?
野口 ぜんぶ、ナガイさんが、
やりかたを教えてくれて。
糸井 なるほど。
「じゃあ、ナガイさんのぶんまで
 がんばらなきゃ」
みたいな、少年漫画っぽい話だね。
野口 そうなんです。

昔って、写植だったから、
レタリングとかも
やってたじゃないですか?
実は、彼が使ってたレタリング辞典を、
今でも持ってるんです。
糸井 ホロリとさせるねえ。


(つづきます)

2001-10-02-TUE
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