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最新の記事 2007/06/01
 
 
第47次南極観測隊の斎藤健さん、
1年半の観測活動を終了して
無事、日本に帰国されました。

奥様の亜希子さんと
「ほぼ日」に立ち寄ってくださり、
いろいろなお話を伺ったので
本日より4回にわけて、南極での活動の様子や、
みなさんからいただいていた質問に答えていただきます!


帰国しました!
まずは100万年前の氷の話。

ほぼ日 お帰りなさい!
1年半の南極生活はいかがでしたか。
斎藤 行っていると長いんだけどね。
戻ってみると短かったですね。

活動の計画を持っていって、
どんどんその計画をこなしていくから、
数ヵ月後にこれを、って準備をしてると、
行ってるあいだはやっぱり長いなって感じます。



ほぼ日 今回は100万年前の氷を
堀りあてられたんですよね!
砂粒の話も、すごく印象に残っています。
斎藤 氷を掘っていて、
氷の下には大陸があるということは
わかっていますよね。
でもその境目がどうなってるかというのは
だれもわからないで掘ってるんです。
予想はしてるんですけどね。

水が出てくるだろうか、
それとも、もっといっぺんに
グチャグチャになるのかな、
もしくは、突然岩盤に突き当たるのかな。
いくつかの予想を考えてはいるんだけど、
実際には何が上がってくるかわからない。

ドリルで氷を取っていくんですが、
原理は釣竿と同じで、
ドリルをワイヤーで吊って、
直径1メートルぐらいの大きなリールで
ワイヤーを巻いて上げたり、
緩めて下ろしたりしていくんです。

氷の厚さが3800メートルぐらいあるので、
ワイヤーが下りるまで時間かかる。
そして、上げるのにも時間かかる。
そういう時間が長いの。

一昨年掘っていたときは
深さが1000〜2000メートルぐらいだったので
ドリルが30〜50分ぐらいで下りていくから
どんどん掘って、
どんどん上げて掘削できたんです。

でも深くなれば深くなるほど
掘って、上げる時間が長い。
実際に掘ってるときは
数分から数十分という時間なんですよね。


掘削孔。
青いフタをあけると3000mの底に繋がっています。

ほぼ日 掘削したものが上がってくるまで、
何が出てくるかはわからない、というのは
ドキドキしますね。
斎藤 目的地である大陸の岩盤より上は
ずーっと氷なんです。
掘っても、掘っても
しばらくは氷が上がってくることが
わかっているから、
ルーティン的な作業でできるんですが、
底のほうになると
次で上がってくるかなとか考えましたね(笑)。

深くなればなるほど
上がってくる氷が変わっていくんです。
見た目はさほど変わらないのですが
温度が変わると氷が柔らかくなってくるの。

大体深さ2000メートルぐらいまでは
氷の温度がマイナス50度ぐらいなんですが
それが過ぎると地熱の影響が出てきて
氷の温度が急激に上がる。

3000メートルあたりだと
氷がマイナス1桁台になるんです。
ほぼ日 マイナス50度とマイナス1桁って
プラスに置き換えて考えてみると
ずいぶん違うことがわかりますよね!
この氷の下の大陸を掘り当てることが
今回の47次観測隊の達成すべき、
大きな仕事だったんですか。
斎藤 そうですね。
氷の中から砂が出てきたことによって。
大きな目標は達していると思います。

氷を掘っていると削りくずが出てくるんですが
最後の方は中に何が入っているかわからないから
削りくずごと全部回収して持ってきていました。

それを日本に輸送して研究所で
さらなる研究をしています。
まだこれから微生物とかいろいろと
出てくるかもしれません。

前回、南極に行ったのは12年前なんですが
その頃の研究は、氷は氷、化石は化石と、
専門分野でそれぞれが研究していたんです。

それが今はもっともっとグローバルになっていて、
まったく違う分野の人たちと接点を持って、
いろいろ地球のことを
調べようという動きになっている。

そういう意味では12年前に掘った氷は、
純粋に雪氷の研究者が
その氷をほしくて掘ったんだけど、
今は微生物の研究者など他の分野の専門家も
その氷の中に何か入ってるんじゃないかって
研究をしているんです。

掘ってきた氷の中の微生物や
そのDNAを解析すると、
微生物の活動や進化が研究できます。
ほかにもたとえば花粉があったり。

地球は赤道付近が暖かく、南極と北極は寒いから
空気の循環があるんです。
だから、暖かいところの花粉が南極に届く。
それで氷の中に入っているんですね。

氷の年代がわかると、
その花粉が
大体その頃の花粉だというのがわかってくる。
そうすると、その時代にどんな植物があったか
わかってくるんです。

だんだん雪や氷の研究ばっかりじゃなくて、
生物とかいろいろ研究も同時進行でやってます。
これから何が起こるかわかんないんですよ。
ほぼ日 氷を研究している斎藤さんから見ると、
南極の氷はやはり違うものなんですか。
斎藤 違いますね。
水に入れると気泡が出てきて、
パチパチパチパチって音が聞こえたり。
何十万年前の空気が出てるんですよね。
でも昭和基地では、
普通の氷が贅沢なものなんです(笑)。

普通の四角い氷は
雪や氷山の氷を一度溶かしてまた凍らせる。
だから贅沢な氷(笑)。

かえって氷山の氷はそのまま飲めるので、
普通に使っていました。
1ヶ月に1回ぐらい、雪上車で
氷山に氷を取りに行くんですよ。
ほぼ日 あのあたりの氷はいいぞ、
というようなスポットはあるんですか(笑)。
斎藤 そうそう、あるんです。
場所によって氷が違うんです。

南極大陸の氷は、雪が降って圧力がかかるので
圧力で雪から氷へ変化しているんですね。
だから氷そのものが圧縮されていて
密度が高いんです。
この氷の中に空気が入っている場合は
一度に溶かすとはじけてしまう。

昭和基地の周りには
いろんな氷山があるんだけど、
ひっくり返っている氷山だと
下のほうの氷が取れるんです。
氷の下に行けば行くほど
圧力が高いからよくはじけるので、
それを取ってくるのがいいんです。

味は同じでも氷の質というか音色がちがうんです。
あまり深くないところを取ってくると、
あまり音がしないので飲みながら、
「ちょっと音が悪いな。
 だれが取ってきたんだ」(笑)。
なんてことを言っていました。

(つづきます)

<次回の更新予定は6月4日です>

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