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----------ROUND.3----------
１月２７日水曜日。
午後４時半を少しまわった頃、だったろうか。
「あの、コーサカですけど」。
うわっ、その声は。
我らがＴＫじゃありませんか。
今、どこ？
「いや、あの、今、恵比寿にいるんすけど、
ちょっと行ってもいいすか？」
いいすよ、もちろん。いいっすいいっす。
「ほな、行きますんで」。
いやあ、懐かしいなあ。この感じ。
コーサカはいつも、こうやっていきなり電話をかけてきて
「これから行きますんで」って言って、
しばらくすると、ほんとにやって来たもんだった。
アメリカに行っちゃってこういう電話がかからなくなって、
糸井事務所は、すっかり寂しくなったんだ。
それから１５分後。
近所のコンビニまで来たって顔をしたツヨシが、来た。
いやぁ、武道館の試合はめっちゃ感動したよぉぉ！！
すごかったねえ！
「そっすか」。
いや、もう、田村選手の赤いパンツが
ふわっと宙に舞ったかと思うと、
その次の瞬間にはカンカンカンって鳴ってて、
何がなんだかわからないうちに、ただ泣けたんだよぅぅ。
「そっすか」。
だからさ、もっと、こう、あれはどうだったとか、教えて。
「いや、どうもこうも、ないっすよ」。
いや〜ん、そう言わずに、もっとぉぉぉ。
「だから、十字がきまって、」
それで？
「それでって、それだけやて。」
田村さん、試合中に勝てる気がしなかったって言ったとか？
「ふ〜ん」。
ふ〜ん、かぁ。くぅぅ。。。
ところで、アタマとか顔とかは、だいじょぶですか？
「いや、だいじょぶっす。なんともないっす」。
でも、まぶたの上にまだ生々しい傷が。
「これはね、８日のバスのときの。
あと、これはモーリスとのスパーリングの」。
ふーん。じゃ、おおむね元気ってこと？
「だから、めちゃ元気やちゅーに。しばらく休みやし」。
そうそう、ＴＫはここ１ヶ月の間に試合が３つも続いて、
ちょっとダメージの蓄積があるんで、
このあと３ヶ月くらい休んでしっかり身体を治す、
ってことになっていたんです。
武道館の試合の前から、そう決まってたんだよね。
「そ。休みね。休みますよ。
いや、もう、自分だけじゃなくって、
田村さんもそうとうダメージたまってるし、
ちゃんと治さないと、選手全員まずいっすよ。
シャレになんない」。
でもさ、武道館で田村さんに勝って、
これでリングスのランキング１位でしょ。
ここで休まれちゃ痛いって、言われたりした？
「うん。言われた。言われたけど、
休ませてください、って言ったから。こっちも。
だから、休みます。
ま、勝ち逃げ、っていう見方もあるんやけどね（笑）、
ここで休んどかないと、あとが続かないから」。
勝ってもおごらず。負けても尾をひかず。
ほんと、いつもいさぎよいのだ、ＴＫは。
そういえば、ＴＫいよいよハリウッドデビューか！？ って
話があるけど、それはほんと？
「ははははは。誰に聞いたんですか？ ってゆーか、
それ、自分が言ってるんやけども」。
ウワサじゃ、スティーブン・セガールの新作の、敵役の
なぞの東洋人ってことで、もう決まったとかなんとか？
なんでもこないだのＵＦＣのテレビ中継を見ていた
ハリウッドの関係者が、ＴＫのあまりに独自な風貌に
「わたしが探していたのは、これだ！」ってことになって、
さっそく電話がかかってきた、って聞いたけど。
「いや、違いますよ。ぜんぜん。話が１００倍ですよ。
あんね、ＵＦＣのとき、試合が終わったあとで
ＰＰＶのテレビ局から取材を受けたんですよ。
そのことをフランク（フランク・シャムロック＝格闘家）
に言ったら、自分も前に、試合のあとで、その取材を
受けたって言うんです。そしたらその後そこのドラマの
出演が決まったって。
だからおまえも、そのテレビ局から声がかかるに
違いないって言うんですよ。
フランクがそう言ったってだけなんですけど、
なんや自分、すっかりその気になってきて、
こりゃ、ハリウッドやなあ、って。
おいおい、スクリーンデビューかい、って。
でも、自分ね、前田さんからこないだ、日本刀を
いただいたんですよ。なんで、この次の試合には、
その日本刀をかついで入場しようかな、って思ってる。
で、バサッとこう、見せるとね、やつらびびるでしょ。
ね？ 日本人やし、先祖はサムライやし、その刀も
家に代々伝わる家宝のなんとか、とかって適当に言って。
どうせわかりゃしないんやから」。
「でもなぁ、思えば日本刀振り回すって、危ないな（笑）。
バサッてやったとたんに、足の指をプスッて。
シャレにならへん。試合やる前から流血やっちゅーの」。
久しぶりの日本って、どうですか？
「いや、もう、すぐ帰るんですわ。
いったん帰って、また２月に来ますから、
そんときにゆっくり。実家にも帰ろうと思ってます。
もう、こっちに来てからええもんばっか食ってるんで、
口の中に口内炎出来ちゃって。
かたいもん、食えないんですわ。
あ、でも、せんべえとかあったら、ください。
まんじゅう？ いただきます。ください。めちゃ腹減った」
あっちじゃ、そんなに「ええもん」は食べてないの？
「毎日、鍋ばっか食ってますから」。
あっそう。じゃ、おせんべいでも、食べてください。
  
「この前ここに来たときに『ＴＫレボリューション』の
Ｔシャツつくりたいんですけど、
ＴＭレボリューションの西川さんになんとか連絡を
とってもらえないだろうか、って言ってたでしょ。
でも、すでにいるんですって。
ＳＭレボリューション（笑）っていうのがね、
みちのくプロレスにいるんですって。
んで、もろにあの字体でつくったＴシャツ売ってるって。
パクリのパクリになっちゃうんで、もう無理ですわ。
たぶん、ノーコンタクトでやってると思いますよ。
そんなの絶対に、本人がいいって言わへんもんね。
いうたらなんやけど、なんちゅーの？ モラルの問題やね。
で、今、考えてるのはね、『ＴＫエボリューション』。
「進化」っちゅー意味やね。
ね、ええ感じでしょ？
あと、なにやったかな、もひとつあったんやけどな、
あ、そうそう『ＴＫレゾリューション』。
レゾリューション、ってなんやったっけな？
なんか、意味とかぜんぜん違ってきちゃうんですけどね。
しかもＴＫエボリューションって、
英語的にはおかしいらしいんですよ。
ＴＫ’ｓエボリューション、が正しいらしいんですよ。
むこうで売るとなると、なめられたくないから、
ちゃんとした言葉でやりたいし。
ＴＫレボリューションはあれでいいらしいですよ、
ただ、エボリューションだとＴＫ’ｓ、になるんです。
こっちでいうたら、「おめでとう」の字が、
「おててとう」とか「おぬでとう」になってるのと
同じような感じになるんですわ。
それはちょっと、よろしくないから。
それをいまね、考案中。
なんとかしていいのをね。
アメリカ人にも日本人にも受けるのを。
受けるＴシャツづくりに、今、専念してるってとこです。
「ＢＡＤＢＯＹＳ（＝今日着てるＴシャツ）」はね、
いちお自分のスポンサーになってくれてるんですけど、
衣装提供だけしてくれてるって感じなんで、
一緒にＴシャツのデザイン考えて、自分とこで
つくります、って感じじゃないんですよね。
けっこう有名なスポーツウェアのブランドですよ。
いろんなスポーツ選手に衣装提供してくれてて。
モノはいいんですけどね。
こないだ武道館で履いてたパンツもね。
あれ、ここのなんですわ。
あれも、もらったやつなんです。
あういうのとか、すっごいいいです。履きやすいです。
しかもあれはまだだれも履いてない。新型。
ＢＡＤＢＯＹＳ使ってるやつは多いんですけど、
あのパンツは、まだ世に出てないパンツです。
みんなが履きだしたら、自分は履かないように
してるんです。おもろないじゃないですか。
そんな、お揃いって、ねぇ。
むこうでも、一日中、鍋ばっか食ってますよ。
夜に作っとくんですよ、そしたら、一日食えるから。
夜つくって、まず夜に食べるでしょ、で、残りを
次の日の昼に食うんです。一日かけてカラにする。
朝？ 朝はね、うんと、ベ、ベ、なんやったかな、ベ、」
ベルギーワッフル？
「あ、そう。ベルギーワッフル。 ん？
じゃなくて、あ、ベーグル。ベーグルですわ。
ベーグルがね、シアトルはあるんです、いっぱい種類が。
で、自分がいちばん好きなのは、
あのブルーベリー。
ブルーベリーベルギーワッフル。ちゃうわ、
なんやったっけ、ブルーべルーベーグル？
ブルーベリーベーグルや（笑）。似すぎやで」。
ごはん食べるときは家に帰るの？
「昼も夜も一回ずつ家に帰りますよ。
モーリスのジムから、クルマで、２、３０分。
でも、引っ越しするんです。来月します。
こんどはね、一軒家。
いや、ひとりでは住まへん。
みんなで借りて、シェアして。
自分のほかは、全員アメリカ人で。
そういうふうにしないと、言葉をいつまでたっても
覚えないから。
自分はけっこうね、窮地に追い込まれると
なにかと出来るタイプなんで、そういうふうにしないと。
話をしなきゃしょうがないでしょ。そういうふうに
したほうがぜったい覚えるの早いもん、自分は。
ロープ上ってて、下に画鋲置かれたら
絶対降りてこないですから」。
す、すごい例えだ（笑）。
「高校のときに、よくあったんですよ。
トレーニングで、ロープ登りの練習してて、柔道部のね、
下に画鋲をおきよるんですよ、先輩が。
それで１０分がまんしたら、画鋲どけてやるって
言われて、ほんとは１０分もがまんできないのに、
あったら、降りていかないもん。
あと、ベンチプレスとかでね、
サポートしてくれるヤツがいたら上がらないものでも、
誰もいなくて、誰も助けてくれないとなったら、
上がったりするんですよ。
一般的に、ま、火事場のバカぢからってやつですか？」
「新しい家はね、４ＬＤＫ。
んで、ほのかな２階建て（笑）、なんですよ。
中２階建て、っていうんですか？
ここが、こう、こう、なってて、ここが盛り上がってて、
ここに玄関があってね、わかります？ ここに階段が、
こう、こうなってて、ここに小さな階段が、
こう、わかります？
ぜいたくな使いかたをしてるんですわ。
一緒に住むのは、モーリスのジムのインストラクターとか
なんですけど。
みんなで見にいって、ほんならこれにしよかって。
湖に近いし、モーリスのジムにも近いですし。
ただし、そこは、ちょっと上層なひとたちが
住むとこなんです。
ベルビューっていうんですけど、ベルギーワッフルじゃ
ないですよ（笑）、ベルビューっていう街です。
モーリスのジムもベルビューにあって、
でも、モーリスはシアトルに住んでるんです。
モーリスは、そんな、「天狗なやつら」が住んでるような
成金のところには俺は住みたくない、っていって、
シアトルに住んでるんですよ。お金もいっぱいあるのに。
で、自分が来月ベルビューに引っ越すんだぁって言ったら
えろなったのぉ、おまえも、って。
ああ、変わってしもたんやなあ、ほ〜〜〜〜〜ん、って。
毎日毎日言われてますよ。
おれは悲しいよって。俺の知ってるＴＫは
もっと素朴ないいやつだったのに、って。
でも、モーリスは一生こないでしょうね。
ほんとにそこに住むのはいやだって、
本気で言ってますから。
ちょっとおまえ天狗になってるっていうから、
ほんならおまえはＢＭの革張りシートに、ポルシェに、
ＭＤもクルマにつけて、むこうじゃ
クルマにＭＤつけてるひとなんていないですから、
おまえこそ天狗になってるじゃないかって言ったら、
でも俺はシアトルに住んでるって。
人間、住むところこそすべてだって。
勝てないね、クチじゃ。まだ勝てない（笑）。
引っ越ししたら、そこにコンピュータ買います。
もう、コンピュータ買うお金も、ちゃんと用意して
あるんです。
それ入れて、電話もちゃんとつないでもらって。
ただ、一緒に住むのが全員アメリカ人やから、
説明聞いてもわからへんのとちゃうか。
だから、最初は日本人でパソコン使えるひとに
きてもらって、教えてもらって。
いや、むこうはね、パソコン使わない日本人って、
自分知らないっす。全員やります。
メールとかもそうやし、ほら、大学で勉強してるでしょ、
就職情報とか、もし日本に帰った場合でもアメリカでも、
ネットじゃないと入ってこないらしいんですよね。
郵便とかじゃ話にならないっすよね。だからね、みんな。
１００％使うって。
教えてくれれば、わしもね。うん、やりますよ。
むこうからって、やっぱりローマ字でしか送れへんの？
日本語ソフト、あ、ほんま？
ああ、持ってるって言ってた。
それ入れさせてもらえば、日本語で打てるんだ。
ローマ字で打ったら日本語に変わるん？
じゃあ、Ｍ、Ｏ、って打ったら「も」ってなるんや。
ふ〜〜〜〜〜ん。「も」。・・・なんで「も」なんや？」
「あ、カワハギ釣り？ 行きましょう。
強力な酔い止め飲んでね。
アメリカのクスリってね、すんごい効くんですよ。
風邪ぐすりにしても。
アメリカで、酔いどめのクスリ買って帰ってきたら
いいんですね。
アメリカってね、いっぱいクスリの種類があるんですよ。
おもしろいのがあって、肝臓の機能が低下してるひとの
ために肝臓回復薬があるんですよ。
レバーなんとかかんとかってのが。
それ飲むと、すっごい生き返ったように
肝臓がよくなるんですよ。
血がきれいになって、活性化するらしいんですよ。
ただし、「肝臓の弱いかたは飲まないでください」って
書いてあるんですよ（笑）。意味がわからないでしょ。
誰が飲むねん？意味不明なんですよ。
そうやってしとかないと、後で訴えられたりするから
なんでしょうけどね。
酔いどめもね、『船に酔うかたは飲まないでください』
とかって、書いてそうですね。
『目がまわってるときは飲まないでください』とかね」。
２月に帰ってきたら、釣りも行こうぜぃ。
「北浦、行きますよ。
自分ね、まえに一瞬だけ、北浦ですっごいよかったんで。
システム手帳に全部、自分が釣りにいった日の日記が
書いてあるんですよ。
最近ひまなときにそれみてて、おととしね、２月に
霞に行った日があったでしょ。糸井さんたちと。
２月の後半だったんですよ。
で、その次の週から、自分は毎週北浦に通ったんですよ。
そしたら、一日だけめちゃめちゃ釣れた日があって、
それからヘビキャロ投げるようになったんですけど。
それがたしか、３月の中頃より前だったと思うんだけど。
いちばん早いスポーニングだったんですね。
それからまた釣れなくなって。
え？ あれって半月にいっぺんなの？ あ、そっか。それだ。
ってことは、それを調べていけば、
別に一週間泊まり込む必要はないんだ。
いや、マジでテント張ってやろうかな、って
思ってたんですよ。あの寒いなかで。
またひとつ神話が生まれるとこやった（笑）。
２ｍ８０ｃｍくらいの大男が。
『なんか炊いて食ってましたよ』って。
『パチパチいわしながらなんか焼いてましたよ』（笑）。
カモもシーズンやし。ヘビキャロでカモ直撃してね。
カモとか、カモ以外のものとか、ね。
なにを食うてんねん、って。
あのうわさで合ってるのは、
『８フィートのロッド』ってとこだけですよね。
あと、ヘビキャロと。
あと、『赤の四駆を乗り回し、』っていうところね。
あとは間違ってたけどね。
向こう岸に届いて根がかって、
『おーい、外してくれるぅ？』って。
そんなのほんとだったら、恐いでしょう。
じゃ、また来ますんで。カワハギ、行きましょう」。
ほな。って言って、ＴＫは帰っていった。
そのおっきい背中に、こころのなかで声をかけた。
がんばれ、ＴＫエボリューション！
また来いよ、ＴＫレゾリューション！！
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