相田さん、だいじょぶか?
「なんとかスタン方面」からの現場報告。

レポート#2
タシケントホテルの金髪オイロケ姉さん


10/24 晴れ

寒くて夜中に眼がさめた。
Tシャツに毛布一枚では夜は冷える、
ちょうどいまの横浜の気候と同じようなものだ。
一枚上に着てまた寝た。
一夜明けるとすばらしい青空が広がっていた。
黄色く色づいた街路樹が少し散り始めている。



昨夜は夕食を軽く済ませていたので、
起きてすぐにチケットを持って朝食に向かう。
玄関ホールから続くレストランは予想外に薄暗く、
込み合っていて労働者の安酒場といった風情だ。
「こりゃイケテル」と思っていたら
ウエイトレスに「おまえはあっちだ」と追い出される。
追われたさきは教会のごとく天井の高い、
真っ白なテーブルクロスつきの高級れすとらんだ。
しかも客は僕一人。
さっきの場末ちっくな方が好きだなあ。
ところが、ウエイトレスはミニスカートで愛想も良い。
「やっぱりこっちでヨカッタ」
臨機応変は旅の基本である。



デジカメで撮った写真を見せて遊んでいたら、
マネージャーらしきオヤジが現れた。
僕には愛想良く接したが、あとから女の子たちを呼んで
カミナリを落としている。
いけすかない奴だ。
こーいう権力をかさにきたいじめっこオヤジに
お仕置きをする正義のテロリスト集団はないものだろうか。
まてよ、タリバンさえも
もとは腐敗への改革運動だったはずだ。
やっぱり水戸黄門しかいないのかなあ、正義の味方って。

食後に本日のテーマである
インターネットへの接続に取り組む。
悪戦苦闘しているところへ、
新顔のメイドさんがあらわれた。
ぱっと見40才ぐらいの、
金髪で妙にイロケのある姉さんだ。
「お茶をもってきましょうか?」などと愛想がいい。
「いや、今は結構」などと相手をしていたら
「じゃあビールは」「マサージサービスもあるわよ」
ついには
「今夜は私が当番なの、おつきあいするわ」ときた。
すまんがいまちょっと忙しいから、とお引取り願う。
こっちはそれどころじゃない。
日本にいたときから、
一度の接続テストも成功していないのだ。
それで外国にきてのぶっつけ本番で
いきなり上手く行くハズが無い。

むろんさっさとあきらめて、
パソコンを抱えてタクシー乗った。
目的はデキル奴を探すことで、
市内にあるはずのプロバイダーがねらい目だ。
まずは日本大使館に行ってみる。
受付で少々の問答の後パソコンに詳しいと評判の
大使館員に登場していただき、話を聞く。
やはり日本のプロバイダーからの
ローミングはだめなようで、
彼もしかたなくウズベクのプロバイダーと
契約しているそうだ。
早速その会社の住所を教えてもらった。
すでに昼めし時なので、一度宿にもどり、
パソコンを部屋に置き昼食に出る。

ホテルのすぐ裏を路面電車がはしっており、
それに乗ってバザールへと向かった。
ところが、電車は僕が乗ったとたんに止まってしまい、
男の乗客が総出で押すはめになる。
いままでバスやトラック、ネパールでは
クマリの乗った山車なんかを押したことはあるが、
まさか電車を押すとは思わなかった。
ともあれ2、30メートルも押すと復活してくれたので、
再び乗って先に向かう。



タシケント一由緒あるというチョルスー・バザールは
想像していたよりも大きなバザールだった。
ざっと見て回ろうにも時間が足りないので、
果物売り場等をちょいとのぞいて
シャシリク屋(*)で昼飯を食べて引き返した。
ホテルから、パソコンを持ってプロバイダーに向かう。
プライスリストを見せてもらうとドルで表示されており、
やたらに高い。
文句を言うと、支払いはウズベクスムで良いという。
しかもオフィシャルレート計算だから
リストのやく半額になる。
納得して手続きを済ませ、
ついでに必要な設定を全部やってもらう。
やっと一安心である。

早速部屋に戻ってなげてみるが上手くいかない。
どうやら部屋の電話回線が原因のようだ。
部屋を変えてもらうか?
それよりホテルを変えたほうが早そうだ。
メイドの姉さんのこともある。
廊下ですれ違うたびに、
こちらをみて妖艶にほほえむのだ。
よく考えてみれば、テキは合鍵を持っているではないか。
こりゃ貞操の危機というやつだ。
とりあえずパソコン関係の機材を持って
オルズーホテルへいってみることにした。

運良く一部屋空いてたのでとってしまった。
宿代の2重払いはチトもったいないがいたしかたない。
カギをもらって部屋に入り
パソコンを早速ネットにつなげてみる。
なんだ、簡単につながるではないか。
ほっとして、付属のカフェへお茶を飲みに行く。

たまたまカウンターで隣になったのが、
ヒンディスタンタイムズのベテラン記者アーナンドだ。
彼は、パキスタンから取材を始めて、
タジクからアフガンに入り、その後ウズベクに来て
テルメスを覗いてきたところだという。
テルメスとは、デルタフォースが入った
ハバナード空軍基地のちかくである。
「アフガニスタンはどうだった?」
「アフガニスタン イズ グッド」
「僕の知人もきょうあたり
 テルメスに行ってるはずなんだ」
「あそこには何も無い」
「でも彼はアフガンに入るといってたぜ」
「そりゃあまだ少し先の話しだ。
 2週間後には雪が降り始める。
 米軍はその直前にマザリシャリフを落とす予定らしい。
 それから、ジャーナリストたちを飛行機に乗せて
 連れて行き戦果を喧伝するという算段だ。
 今そのリストを大使館で作ってる。
 おまえはいかないのか?
 ホレこの番号に電話してみろ、
 担当者の名前も書いておくからな」
と親切にもなにやら書き付けた紙を僕に渡した。

残念ながら当方はいそがしいので、
アフガン方面へ顔を出している暇はない。
ウズベクオヤジの靴下の穴の数はいくつか?などといった
重要事項の調査が残っているのだ。
しかし、おかげでかねてからの疑問は解けた。
テグー君がなぜテルメスに向かい、
その後パキスタンでに行って同僚を引き継ぎ、
またテルメスに戻ってくるなどといった
複雑な予定を負わされているのかを
不思議に思っていたのだ。

すっきりした気分で僕は新しい部屋に帰って
パソコンに向かった。
ところが、カフェで飲んだビールが回ってきて
不覚にもすぐに意識を失ってしまったのであった。

(*)シャシリク
羊の肉のかたまりや、ミンチに香辛料混ぜたつくねなんかを
3、40センチぐらいのくしに刺して炭火で焼いたもの

2001-11-06-TUE

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