相田さん、だいじょぶか?
「なんとかスタン方面」からの現場報告。

レポート#7 僕は今、いるべきところにいる

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今日もシェルホンが付き合ってくれるというので
一緒に街に出た。

「トシ、今日のプランはどうなってるんだ?」
「ノーアイディアだ。さてどうしたものやら。」
「何も計画が無いだって、シンジラレナーイ。
 いったい君は何のためにここへきたんだい」
「あのなあ、するべきことがすべて判ってたら
 こんなとこまで来やしないよ。」
「えっ、それってどういうことなんだい。」
「実をいうとな、いったい自分が何をしに来たのか、
 それをまず探さなきゃいけないんだ。」
「ある日突然に地名か国名かが
 頭に浮かんで離れなくなって、旅に出る。そして
 『僕がこの地へ来たのは
  ここで何かするべきことがあるからに違いない。
  それっていったいなんだろう。』
 てな具合にその目的を探すことから始めるのさ。
 いつもそうなんだ。」

自分でもイッタイナニイッテルンダロとは思うが
正直な話だからどうしょうもない。
シェルホン君は不思議そうな眼で僕を見ている。

そういえば、サマルカンドに着いてから
やろうと決めていたことが一つだけあった。
1993年に撮影して、
送る約束をしながら果たせなかった写真を、
できるだけその人にあげることだ。
2ヶ月間に沢山の人と出会ったので、
帰ってから手帳を見ても
誰が誰やらまったくわからなかったのである。
無論、解読不能なキリル文字で書かれていたのも
原因の一つである。
僕なりに写真を配る方法も考えてあった。
『旧市街の裏道の白壁に写真を張り出して、
 シャボン玉をぷかぷか吹く。
 すると子供や暇人がワンサカ集まる。
 その中には当時のハナタレ小僧やパンツマンが
 まじっているはずだから、
 これは俺だとかあれはあそこのおばちゃんだとか
 大騒ぎになるハズで、
 写真は飛ぶようにさばけてしまう。』
という作戦である。

だがこの寒さではその手はちょっと難しそうだ。
とりあえずシェルホン君にそれを見せてみる。
「この中に君の友達や親戚が写っていないかい。」
「知り合いはいないが、
 この売り子が写ったそこのチャイハナは知っている。」
というのでそこに行ってみた。
聞いてみると、
「こいつはまだここで働いてる。
 今はいないが2、3日で帰ってくるよ。」
まず一枚はさばけたようだ。

ついでにそこで昼飯を済ませようと、
サムサとチャイをもらう。
するとサムサ屋のオヤジはヒマらしく席に話をしにきた。
「ところでどうだい、商売の方は?」
「いまは儲からないね」
「でも8年前よりは良いんじゃないのかい。」
「とんでもない。そのころが一番良かったのさ。」
「ホントかい?だって今、街は綺麗になったし、
 人々もいい服を着ているじゃあないか」
「ところがみんな金が無いんだ。
 物価がすごく上がってるから
 ここに飯を食いに来る人もずいぶん減ったよ。」
再開発が進む街を見て、てっきり
人々も豊かになってきてるんだろうなあと思っていたが、
どうやら少し違う様である。

チャイハナを出てシャーヒジィンダ廟に向かう。
ここでも以前は写真をとった。
祈りの時間にボーイソプラノで歌い始めた少年と
入り口の番をしていたオジサンである。
聞いてみるとその少年は近くに住んでいるという。
誰かが呼びに行ってくれた。
遭ってみればいまや背も伸び、がっちりしてしる。
高校ではレスリング部の選手だそうだ。

シェルホンはレストランでアルバイトがあるというので、
シャーヒズィンダを後にして、
僕はひとりでアフラシャブの丘をめざした。
アフラシャブの丘とは、
かつてのサマルカンドの街の跡である。
チンギスハーンよって徹底的に破壊されてしまい、
現在はほとんど痕跡をとどめていない。
そこから今日の夕日を見たいと思ったのだ。

ゆるい上り坂をあがり、アフラシャブのふもとに着く。
かなり広い範囲にわたっているので、
どこから入ろうかなどと考えてると、
羊を追っているおじさんがどこからかやってきた。
遠くで眼が会うと、こっちへ来いと手招きをする。
タバコなんぞをふかしながらしばらく話をしていると、
「どこに泊まってるんだ、良かったら家に泊まりに来いよ」
と誘われる。
悪い奴ではないことがわかっていたので、
せっかくだからと彼の家に向かう。
ビジネス・アズ・ユージョアル、
僕の旅はいつもこういうことになる。


羊を追って家路を急ぐ


羊を追ってたおじさん
−ウルマス・アモルソフさん


7頭の羊を追って国道を渡り、
クネクネデコボコの旧市街地に入った。
子供達が道に遊んでいる。
家の前に腰をかけている老人は、
杖を手にどこか遠くを見つめている。
羊のひずめの音。
どこかで犬がほえている。
僕は今、いるべきところにいるのだ。

2001-11-18-SUN

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