相田さん、だいじょぶか?
「なんとかスタン方面」からの現場報告。

レポート#18
そんなこと今から考えるな、何とかなるから。


11/7 晴れ

今日も午前中はイボットとドライブ。 
ブハラ・ハーン国最後のハーン、アリムが作らせた夏の宮殿
「ストライ・マヒ・ホサ」へ向かう。
イタリアとロシアの建築家に設計させた、
東西折衷様式の贅沢きまわりない宮殿だ。
宮殿の裏手にはハーレムと水浴用の池がある。
「ハーンは水浴びをするヤングレディスを
 テラスから眺めて、気に入った娘にりんごを投げて
 その夜のお相手に呼んだのだよ。」
「それは知ってる。ガイドブックに書いてあった。」
志村けんの演ずるバカ殿にやらせてみたいような所業だ。
「そのアリムってのはどんなハーンだったんだい?
 その時代はもうロシアに併合されていたんだろ?
 こんなものに大金を使っているぐらいだから
 ろくなモンじゃないだろうけれど。」
「若い頃はロシアに留学していてね、
 ツァーリ(ロシア皇帝)とはうまくやっていたんだ。
 ところがロシア革命が起きただろ、
 共産主義者がここを見てごらん?
 すぐに追い出されたのさ。」
結局この豪華なハーレムは
7年間しか使われなかったそうだ。


検問所(沢山あります)

ストレイ・マヒ・ホサには一度来ている。
「そのころより公開部分が増えてキレイになっているよ。」
とイボットにいわれて来てみたのだが、
どうやらそれは勘違いのようだった。
「この池、木の葉が浮いていて
 ずいぶんと汚い感じがするなあ。
 高い入場料を取るくせにケシカラン。
 それとも予算が足りないのかねえ?」
「一昨年だったかな、アラブが補修費用に
 大金を寄付するってニュースで見たよ。
 たしかトルコもお金を出してくれてるはずだ。」
その金は何処にいったのだろうか?
口に出すのもはばかれるヤボな質問だ。
言えるのは、この国の民衆は昔も今も
良き指導者には恵まれていない、ということだけだ。
「もう帰ろうか、昼飯でもどうだい?」
「いや、また病院にいかなきゃならないんだ。
 食事とか着替えを持ってね。」
昼飯時から飲んでいたウオッカもやめているそうだ。
「ガールフレンドはどうした? たくさんいただろ。」と
冷やかしてみた。
「そうだったなあ、あの頃は。トシ、僕は家族を愛してる。
 いまはそれで十分なんだ。」

そんなわけで一人旧市街地の迷路を歩いていた。
すると旅行代理店の看板が目入った。
ビザが10日までだからキルギス行きのチケットを
買っておいたほうが良いかも知れない。
そう思ってそのオフィスに入った。
僕の希望する11日には
ウズベキスタン航空はフライトが無かったが、
キルギス航空にはあるそうだ。
「空港の窓口に電話しておきました。
 すぐ行ってください。」
当初はそのオフィスでサッとチケットを買い、
午後いっぱいを街歩きに費やそうと思っていたのだが、
こうなってはしかたがない。

オフィスの若い男と一緒に出かけることになった。
「あのオフィスではどれぐらい働いてるの?」
「半年ぐらいですね、まだ学生なんですよ。」
「コットンキャンペーンには行かなかったのかい。」
ウズベクでは綿花の収穫に学生達の手を借りる。
これをコットンキャンペーンという。
時には2ヶ月に渡って厳しい環境のもと、
辛い合宿生活を強いられるのである。
ブハラではサマルカンドよりも終わりが遅く、
学校の授業がようやく再開される頃なのだ。
「僕はうまく逃げました。」
「どうやって?」
「担当者に賄賂をつかませたんですよ。
 50ドルの予算を立ててたんですけど、
 ティーセットとミキサーを要求されたので
 25ドルですみました。
 去年は友達の親父がブハラの情報局長官だったので
 タダだったんですがね。」
要領のいい奴はどこにでもいるものだ。


チャイハナにて

バスがなかなか来ないので、
タクシーに乗って空港に行った。
ところが、結局その日にはフライトが無いことが判明する。
まったくの無駄足だった。これも旅だ。
のんびり街を歩く時間は無くなってしまった。
失敗の原因は、先行きを心配してしまったことにある。
心のどこかで
「そんなこと今から考えるな、何とかなるから。」と
ささやく声が聞こえたのだが。
マダマダ甘い。
直感を信じきれないときにこうゆうコトが起きる。
K君とは5時に待ち合わせていたのだが、
3時前にはハウズを通りかかるとばったり出会う。
カモ、いや、救うべき孤独な旅人を探しているのだ。
しかしこのご時世に旅行者などはめったにいない。
最悪の客である僕を又しつこく家に誘う。
いい奴なんですけどね。
最近稼ぎがないので、
奥さんに尻をたたかれているんだろうな。

待ち合わせの時刻にリャビハウズに戻り、
まずムザファールの家に立ち寄った。
写真のお礼にと、習作をもらう。
「この中から2枚好きなのを持っていってよ。」と
選ばせてくれる。


ムザファールの家族

彼本来の作品はとても重く、はっきりいって暗い。
ブハラは長い歴史を持つ古い都だ。
歴史の中に血は流れ、
さまざまな念が土地に染み付いている。
その歴史の澱を作品に塗りこめ、
ブハラの空気を浄化するのが
彼の仕事であるようにも思える。
ぼくはすでにそのような作品を一枚もらっていたので、
今回は違った作風の絵を選ばせたもらった。

相変わらず外で待っていたK君とヤニスの家へ急ぐ。
ヤニス家には先客がいた。
インツーリストの通訳として長く働いたのち、
独立して旅行会社を経営しているローザという女性だ。
「奥さんのサウダには以前お世話になったことがあってね、
 彼女のから通訳に来てと頼まれたの。
 もちろん喜んで駆けつけたのよ。
 ホントにいい人だから。」
「あなたは運のいい人ね、
 今日はヤニスとサウダにとって特別な日なの。
 20年目の結婚記念日なのよ。」


ヤニス家の食卓

2001-12-30-SUN

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