
博士 |
‥‥いやあ、申し訳ない。
しばし呆然としてしまって。 |

アジオ |
博士の気持ち分かります。
ホラ、ボクも手に汗がびっしょり‥‥ |

アジコ |
私だっていまやっと
胸のつかえが取れた気分よ。
正直苦しかったもの‥‥
この写真がポケットの中にあること自体が。 |

博士 |
よく辛抱したね、アジコさん。
しかしどうだろう‥‥
この画面全体から漂う緊迫感は! |

アジオ |
周りのみんなが席をはずした理由も、
なんとなく察しがつきますね。 |

アジコ |
それにしてもこのおばあさん‥‥
気の毒よね。 |

アジオ |
もうなんか殺気立ってるよね。
憎しみのあまり‥‥ |

博士 |
‥‥いや、ひょっとして今、
君たちがこのおばあさんに
同情や憐れみの念を抱いているとしたら
それは大きな間違いかもしれないね。 |

アジコ |
どうして? 博士には見えないの?
左に見切れてる仲居さんの背中に回った
男の人の腕が。 |

アジオ |
これはきっとこのおばあさんの
旦那さんなんだよ。
だからこんなに哀しそうに‥‥ |

博士 |
もちろん私もそう感じたよ、最初はね‥‥
でもふたりとも、
もう一度よくこのおばあさんの顔を見てごらん。
ネットの前のみなさんは
どうぞ作品をクリックして、
彼女の表情を再確認してくださいな。 |

アジオ |
やっぱり怒ってる! |

アジコ |
いや! 笑ってる! |

博士 |
強いて言えば‥‥超えている。
私はそう感じたね。
嫉妬、羨望、自嘲‥‥
あらゆる感情を超えて解脱した者だけに許さる、
まさに仏の表情だよ。 |

アジオ |
そう言われてみれば、
この全てを見透かしたような
真っすぐな目線‥‥ |

アジコ |
まるで力みを感じない自然体の佇まい‥‥
私たちとはステージが違うのね、 |

博士 |
まったくいらぬ気遣いで
このおばあさんに同情した自分たちを
恥じ入るばかりだよ。 |

アジコ |
勘弁してね! おばあさん。
私たち勝手に誤解して‥‥え~ん! |

アジオ |
気が済むまでぶってください!
手加減なしで! え~ん! |

博士 |
さあ、ふたりとも涙をお拭き。
味写とは誤解の積み重ねなんだからね。
それに仲居さんに手を回している男性が
おばあさんの旦那さんだってこと自体が
そもそも私たちの誤解かもしれないんだから。 |

アジコ |
誤解かあ、そうね。
これは親戚のおばさんにもらった写真だけど、
映ってる人が全然知らない人だと
ついついこちらが勝手に
解釈してしまうものなのね。 |

博士 |
そこが味写の醍醐味でもあるんだけどね。
どうせ誤解するなら
楽しく誤解したいじゃないか。 |

アジオ |
それってなんだか恋に似てますね。博士! |

博士 |
ずいぶんおませだね、アジオ君は。
よし、じゃあ今年も
大いに恋をしようじゃないか。
素晴らしい味写作品たちにね! |


アジオ&アジコ |
はい! 博士!
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