
アジオ |
‥‥紛れもない傑作ですね、博士。 |

アジコ |
ええ。
作品全体に味が染み渡って、
逆にどこから指摘すればいいのか
不安になるほど‥‥ |

博士 |
慌てることはない。
落ち着いてひとつひとつ味わっていこうか。 |

アジオ |
ホラ、見てごらん。
この赤ちゃんの安らかな寝顔を‥‥ |

アジコ |
それに比べておじいさんのこの表情。
明らかに憔悴してるわよね。 |

博士 |
ひょっとすると孫じゃないのかもしれないね。
この赤ちゃん。 |

アジオ |
実はボクもそう思ったんだ。
だっておじいさんの表情が深刻すぎるんだもの。
途方に暮れているといってもいい。 |

アジコ |
そうね。
自分から可愛い孫を抱いてるという
雰囲気じゃないわね。
むしろなんらかの事件に巻き込まれた結果が
こうなんだって感じよね。 |

博士 |
うん、確かに取り返しのつかない事態に
直面している表情だね。
手近にパイプ椅子があったことだけが
唯一の救いでした‥‥みたいな。 |

アジオ |
ここはいったん腰を下ろして冷静に‥‥
そう自分に言い聞かせているみたい。 |

アジコ |
どこかで歯車が狂ったんでしょうね。
その原因を探るため、懸命に記憶の糸を
たぐり寄せてる最中じゃないかしら。 |

博士 |
ゴム長を履いてパイプ椅子に腰掛け、
見ず知らずの赤ん坊を抱いている自分に
いまだ整理がつかない作業着の老人。
しかも後ろでは平屋の新築工事が
急ピッチで進行中‥‥
第一印象から受ける静寂とは裏腹に、
ここでは私たちの理解を超えた
混沌のドラマが繰り広げられていたんだね。 |

アジオ |
それにしても多過ぎやしませんか?
屋根の上の大工さんたちが。 |

アジコ |
いくらなんでもあんなに大勢いらないわ。
屋根板の取り付けくらい
2、3人で充分だと思うけど。 |

アジオ |
真ん中に集まってる人たちはともかく、
端っこに座ってるふたりには
今すぐ降りて欲しいよね。 |

アジコ |
全くよ!
赤ちゃんのお守はたったひとりだというのに。 |

アジオ |
なぜ誰も助け船を出そうとしないのかな?
おじいさんひとりで
あんなに困ってるというのに! |

博士 |
深い事情を考えずにはいられないね。
しかしあまり深入りするのは危険だよ。
事実、私なんかこの味写作品を研究中に
重いノイローゼを煩ってね、
半年ほどまともな社会生活が
送れなかったほどなんだ。 |

アジオ |
ノイローゼ! |

アジコ |
この味写で! |

博士 |
いま思えば新しく開かれた可能性に
気負いすぎてたというべきか‥‥
この作品に少しでも近づきたかったんだろうね。
赤ちゃん代わりにお中元のハムを抱いて
毎晩神社の境内で
受け身の練習をしていたみたいなんだ。
全く記憶にないけどね。 |

アジオ |
恐い‥‥ |

アジコ |
結局答えは見つかったんですか? |

博士 |
諦めた。いや諦められたというべきか‥‥
片思いでいいと思ったんだ、
この作品に対してはね。
成就する愛より叶わぬ恋が
逆に人を豊かにさせる場合もあるからね‥‥ |

アジコ |
深いなあ‥‥味写って。 |

アジオ |
もうこれ以上の詮索は止めにしましょう。
事態はいずれ好転するわ。 |

博士 |
この赤ちゃんがいる限りね。
さあ諸君、今日の味写はいかがだったかな? |

アジオ |
面白かった!
千葉の大型テーマパークよりも。 |

アジコ |
温まったわ。鬼怒川の天然温泉よりも。 |

博士 |
来週からはいよいよ
読者のみなさんから送られた
味写作品を発表するよ。
全国から寄せられた珍味を思う存分
味わっていこうじゃないか! |


アジオ&アジコ |
やったあ~!!
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