
博士 |
目が‥‥
完全にイっとるな! |

板谷 |
あ~コレね!
町内の祭りでヤキソバ作ったときの!
確かこの10分後、親父は救急車で運ばれたんだよ! |

博士 |
えっ!?
ケンちゃんの身になにが!? |

板谷 |
脱水状態だって。
ヤキソバの作りすぎで。
昼間から休み無しで
8時間くらい鉄板の前にいたからな。 |

博士 |
命がけかい!
ヤキソバくらい楽しく焼こうよ! |

板谷 |
そういうこと出来ないみたいね、ウチの親父は。
特にヤキソバには
人一倍こだわりがあるみてえだし。 |

博士 |
と、言うと? |

板谷 |
自分で編み出した技があるんだよ。
秘技「アゲハチョウ」って言うんだけど。
こうヤキソバをひっくり返すときに、
コテ持った両手をアゲハチョウの羽みたいに
大きく広げるんだよ。
それが近所のオバチャンたちに評判良くてさ。 |

博士 |
それ、カッコイイっていうか‥‥ |

板谷 |
モチロン失笑だよ。
実際動きは派手だけど、
ヤキソバの半分は鉄板から飛び出して
食いモンになんねえもん。
でも親父の野郎、みんなが笑うもんだから
ウケてるって勘違いしやがってさ、
延々その「アゲハチョウ」を
繰り出してた挙げ句‥‥ |

博士 |
遂に力尽きたんじゃな。
そしてその直前の表情が‥‥ |

板谷 |
見てくれよ‥‥
この恍惚に包まれた無垢な天使を‥‥
親が完全なトランス状態で写ってる写真なんて
そうあるもんじゃねえぜ。 |

博士 |
確かに‥‥コメント無用のピュアスマイルじゃな。
灼熱の鉄板を前に8時間
ヤキソバを焼き続けた者だけが辿り着ける
究極の境地じゃ! |

板谷 |
おだてるとスグ調子に乗るんだよ。
誰の期待に応えてるんだか常に体鍛えてるしな。
つーか、サービス精神と無駄な筋肉が合体すると
周りが迷惑するだけなんだよ! |

博士 |
なかなかどうして
貴重な存在だと思うがな。 |

板谷 |
まあ、バカは平和の象徴だからな。
案外目には見えない部分で親父のバカが
立川の平和を守ってるのかもしれねえな。 |

博士 |
世の中のバランスって、
こういう人たちで保たれてるんじゃぞい! |

板谷 |
その分、シワ寄せはゼ~ンブ
家族に来るんだっつーの!! |

博士 |
ごめんなさ~い!!
|