山田かおりさま |
これは、ご自身が執筆されたものが 出版社から発行されることになった、 ということですね。 ちょっと変わったご相談かもしれないのですが‥‥ |
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私も同じような境遇になったことがありますので、 これについては、よくわかります。 |
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あ、『株式会社 家族』の1巻目が 出たときのことですね。 かおり姉さんも、当時、まわりから いろいろ言われたりしたのでしょうか? |
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いや、両親は基本的に無関心でした。 けれども、父はとにかく 「警戒しろ」ばかり言っていました。 つねに「東京は悪い」と思ってますので。 |
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東京は悪い? |
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はい。悪がはびこる暗黒街だと思っていますので。 出版業界も「怪しい」と考えているようです。 「いい話は、基本、警戒しろ」 「契約金取られるぞ」 そういうことばかり案じていました。 まぁ、私のことだけでなく、 父はなんでも警戒するんですけどね。 雪がちらちら降ってるのを見て 私が「きれいなぁ」と言えば、 「雪は、次の日が危ない」 |
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わはははは。 |
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発想がネガティブなんです。 手放しで「よかった」と言うことは めったにありません。 まぁ、「つねに用心しとけよ」という 姿勢なんでしょう。 私は幼少期から 「人を見たらまず泥棒と思え」という 英才教育を受けてきました。 父がこうなったのはおそらく、 父がはじめて買った車を見た近所のおっちゃんが、 「ちょっと乗せてや」と言って乗ったまま、 いまも帰ってこないからだと思います。 この相談者の方のまわりのみなさんも、 私の父と同じように 「詐欺にあったらどうするんだ」と 心配してくれているんだと思います。 本を出すときの契約金というものは 書いた人が払うことはありませんので、 おかしなお金を出していない限りは 大丈夫だと思います。 出版社が判断して本を出すぶんには、 べつに売れなくても金銭的に影響はありません。 |
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そのあたりの全体をうまく説明する方法、 あるんでしょうか。 |
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ご両親に? |
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うーん‥‥親御さんの「はいはい」というのが どうも気になるんですよ。 「なんかまた言うてるわ」という、流す感じ‥‥。 |
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これ‥‥ほんまに妄想とか? |
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‥‥‥‥。 |
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‥‥‥‥‥‥‥。 |
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自費出版ということも、ありえますし。 |
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自費出版。 ああ、「あなたの本が出ます」という謳い文句で おすすめされるやつですね。 |
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自分が出資することになっていたり 出版した本を買い取らなきゃいけない話には 要注意ですね。 |
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お金持ちのおじいちゃんが『俺史』とかを 自費出版で納得ずくで出すならいいけども‥‥。 |
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まず、この方には、 「なんらかのかたちで お金を出せと言われてませんか?」 という確認が必要ですね。 |
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必要ですね。
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つまり、道上洋三さんのラジオに 出ることができれば‥‥。 |
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そうなんです。 |
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(心の中で:道上洋三さん、ご連絡ください。 お待ちしています) |
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おそらく、くろべーさんのご両親は まじめな方々なんでしょうね。 出版とか、芸能界とか、よくわからないし 心配なんだと思います。 一か八かの世界、そんなイメージなんでしょう。 そのうえ、そういう世界が、 お好きではないんでしょうね。 うちの親も苦手です。 私は服屋を生業にしていますが、 服についてもだめでした。 「ファッションとか、わけのわからんことを」 と親はいまでも思っているでしょう。 そういう人たちは、やはり 「きちんとコツコツとやる仕事」が 好きなんでしょうね。 例えば、めっちゃ悪そうなパーマかかった友達でも 「○○さん会社員やねんで」と言うと 「ほう、えらいやっちゃな」とかね。 そんなもんです。 |
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くろべーさんの「本」って、内容は なんの本でしょうね? ダイエット本とか‥‥? 漫画という線も‥‥。 |
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もしかしたらほんとに怪しい出版社で、 怪しい本かもしれないですね。 |
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‥‥‥‥‥。 |
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私らも、自分勝手に このくろべーさんを 信用してないモードに入っていますね‥‥。 |
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ぜんぜんそんなことないかもしれないのに、 すみません。 つい、自分と同じように考えてしまって。 |
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すみません。 |
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でもね、人は得意なことで 食べていけばいいと私は思います。 でもそれは、両親には 一生わかってもらえないと思う。 だから、くろべーさん、 もし私のような状態であっても それはそれで、いいと思いますよ。 そして、そういう親は、 権力に弱い傾向があります。 権力というのはつまり 「NHKに出た」とか、「紅白に出た」とか、 そういうことです。 だから、紅白に出ればいいんです。 私は、親と喧嘩したとき 「絶対紅白出たるからな!」と 言ったことがあります。 出る根拠はもちろんないですけど(笑)。 親は新聞にも弱いですから、 新聞に連載を持つのもいいでしょう。 「ほぼ日刊イトイ新聞」では あまりわからないかもしれないので、 紙の新聞です。 それがだめなら、 親は「県」や「市」に弱いので、 市や公共機関が開催するイベントに 出てみるのはいかがでしょう。 どんなしょうもないイベントでもかまいません、 テープカットでもなんでも、やったらいいんです。 「作家のくろべーさんがいらっしゃいました」 と司会の人に言ってもらえば親はイチコロです。 親に認めてほしいのであれば、 あらゆる手を使って 親のツボを押さえることが肝要です。 そうだ、いちばんいいのは、 朝の連続テレビ小説の原作です。 それを書きましょう。 そしたら、紅白に出られます。 |
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なかなか大きな話になってきました。 |
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そうですね。いや‥‥むしろもっと ハードルは低く考えていいでしょう。 とてもハードルの低い私の話をしますと、 今年の、元旦から10日間、 近所の駅前で市がやってる 七福神バスのチケットを売る アルバイトをしました。 父に「バイト行くねん」と報告すると 予想どおり「ろくでもないバイトやろ」と 言ってきました。 そこで妹がフォローを入れてくれました。 「でも、お姉ちゃんは市の 面接に行ったんやで。 市に選ばれたんやで」 ‥‥いや、市に選ばれたわけじゃないし、 ただのバイトなんですが、それでも 親は喜んだようです。 「市に選ばれたから、たいしたもんや」 と言ってました。 依然として本はほめてもらってないのに、 そっちは評価するんや、と思いました。 私はそのバイトを10日間やりました。 その職場には商工会にいるような お年寄りばかりがいらっしゃいました。 私はその中では当然、若かったので、 「若いっていいなぁ」 とみなさん盛り上がってくださいました。 そして、来年のバイトのメンバーにも 入れてもらったんです。 そこで、父に、 「選ばれただけじゃなくて、 来年のメンバーにも入れてもらった」 と報告したら、 しばらく言葉がないぐらいパニックになって 「ほほう、そらおまえ、たいしたもんやぞ」 とつぶやいていました。 そんなことなんです。 そんなしょうもないことで、そうなるんです。 そういうわけで、「市」がねらい目です。 NHKのバイトもいいと思います。 |
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でも、くろべーさんは、 本でほめてもらいたいわけでしょう? |
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それは、あきらめたほうがいいですね。 NHKのバイトをやって 認めてもらってからの、本でしょう。 コツコツと積み上げていかなくてはなりません。 「だって、いままでの人生が」 ということだと思います。 |
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NHKとか市とか、そういうことばかり 重ねていくわけですね。 |
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そこではじめて「本」といえば 「ほーっ」「あいつも変わったな」 ということになります。 そうでないと「怪しい臭」は 下手したら、一生抜けません。 もう私は、抜けません。 |
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はははは。 |
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でも、さっき言ったように その七福神のバイトで ちょっとマシになりました。 「そっちなんや」「こんなしょーもないことで」 という意外なところで、 くろべーさんも絶対にほめてもらえると思います。 ‥‥なんか、ここまでの相談で 思ったんですけれどもね。 |
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はい。 |
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「認めてほしい」という気持ちが、 なんだかたくさんある気がしますね。 |
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そうですね。 『株式会社 家族』の2巻目のサブタイトルも 「〜私も父さんに認めてもらいたい篇〜」 ですからね。 |
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そうなんです。 もしかしたら普遍的な悩みなのかなぁ。 |
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今週も、ありがとうございました。 それでは、まとめをお願いいたします。 |
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わかりました。 |