糸井 |
『アナライズ・ミー』について安部さんと対談、
というのは上手いキャスティングだと思ったんですよ。
安部さんは元の職業がおありになる方で(笑)、
肩書きのある時代の職業がずばり、デ・ニーロなわけで。
他にこういう場所に出てきてくれる、そういう職業の
人って、あまりいないし(笑)。
この映画は「人生が二度あれば」ということですよね。
「男を売る」商売の人って一貫性があって……、 |
安部 |
僕が14のときにね、最初の親分に、
「お前そんなバカなけんかばっかりしてないで、
男を売る稼業を修行してみないか」
って言われたんですよ。
あのときに、「おまえヤクザやんないか」とか
「ゴロツキになんないか」とか言われてたら、
「結構です」って言ったと思うよ。
「男を売る」なんて素敵な言葉は、最初の親分に続いて
糸井重里が2人目だよ。 |
糸井 |
うわぁ(笑)。 |
安部 |
いや、昔ね、関西の警察に捕まってさ。
留置所にたたき込まれると「職業」の欄に、
関東だとせいぜい良くて「無職」って、
それか「ヤクザ」なんて書かれる。 |
糸井 |
職業だと無職になるんですね。 |
安部 |
それが、はじめて大阪の堂島警察に捕まった時にね、
「勝負人」って書いてくれたんですよ! |
糸井 |
ほほう。 |
安部 |
これはもう、うれしくってさ。
警察から葉書いっぱい貰って、友達に
「上方で捕まれ。職業“勝負人”って書いてくれる!!」
って。うれしかったよ。
「男を売る稼業」も「勝負人」も「渡世人」も、
みんな素晴らしい日本語があるのに、
うちのお袋は最期まで僕の事を
「ならずもの」って言ってたな(笑)。 |
|
糸井 |
「ならず業」だったら良かった(笑)?
安部さんとしてみれば、男を売る商売っていうのは
「曲がっちゃいけない」ってところがあるじゃないですか。
とにかくまっすぐ行く。
家があったらその真ん中抜けていく、みたいな。 |
安部 |
縦のものを横にしたりして(笑)。 |
糸井 |
そう。とにかく「曲がったら負け」っていうところが
ありますよね。
向こうからもそういう奴が来たら、肩がぶつかるみたいな
生き方ですよね。それを横に曲げることなく、
下りるか上がるかしてまたまっすぐ行くっていう、
そういうイメージがあるんですよ(笑)。
横にはどかなかったけど、縦にどく。
つまり、やっぱり二本線路が走ってるっていう
気がするんですね。乗り換えしてるというか。
まっすぐは同じで。
で、この映画の主人公も、ラスト・シーンの「その後」も
男を売る生き方をするんだと思うんですよ。 |
安部 |
18ヶ月の懲役が終わって出てくるとね。
あのね、とにかくね、ハリウッド映画の面白さっていうのは
一言で言えば脚本の良さだと思うんですよ。
『アナライズ・ミー』の脚本でもね。
それから、つくづく思うのは、
ハリウッドの役者たちっていうのは端役、
子役に至るまでなんとうまいことか!
日本映画のつまんないところは、脚本が精緻ではないのと、
俳優の持ってる魅力の足りなさだよ。
この若衆頭を演った男(ボディガードのジェリー役:
ジョー・ヴィテレッリ)なんて、うまいうまい。 |
糸井 |
もう、そいつを面白がれ、というのはわかってるんだけど、
やっぱり笑わされちゃいますよね。
計算通りについてっちゃう(笑)。 |
安部 |
ハリウッドの映画っていうのは、時代に沿った銃だったり
手榴弾だったり車だったり、あのへんの考証が
綿密ですごいよね。 |
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糸井 |
見えないところで働いている人の数が
想像できるんですよね。 |
安部 |
そうそう。ベトナム戦争の前の手榴弾は
「パイナップル」っていう刻みのついた手榴弾で、
ベトナム戦争以後からちゃんと丸い手榴弾を
ヤクザが投げるもんね。 |
糸井 |
なるほどねぇ。 |
安部 |
ギャングが相手をさらう、つまり車で拉致するシーンでは
拉致したやつを3人がけの車のバックシートの
真ん中に座らせて、2人ギャングがついて、
前に運転手がいるでしょ。
そうするとね、窓を開けるんですよ。そうすると、
真ん中にいたさらわれてきた奴が
「撃たないでくれ!!」って叫ぶ。
というのは、閉じ込められた車内っていう空間で
大きな拳銃をズドンってやったら
運転している奴も一瞬両耳が聞こえなくなるし、
車ん中にいた奴は皆ひどいことになるわけよ。
だから殺す前に窓を開けるわけ。
たったその2、3秒のシーンがあるだけで断然、違う! |
糸井 |
なるほど。 |
安部 |
日本映画だと狭い電話ボックスの中で、
こぉーんなおっきな拳銃ドンなんて撃って、
撃った方も平気だしさ。 |
糸井 |
せめてこう、耳栓するシーンとかあればいいのにね。 |
安部 |
ギャング映画も、戦争映画も、ホームドラマも、
綿密に作られてるよ。 |
糸井 |
安部さんみたいなプロやってた人が見て、
そういう細かい所がものすごく良く出来てるっていうのは
ありますね、きっと。 |
安部 |
ある! うわーって思うところあるもん。 |
糸井 |
だからその若頭が、笑っちゃうシーンやっても映える、
っていう仕組みですよね。 |
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安部 |
あのアナライザーがコンシリオーリになって
あそこに座る、あんな可笑しいシーンはないよ! |
糸井 |
あんなん日本だったらどうなりますかねぇ。 |
安部 |
日本で、あれが出来た役者さんはね、
三木のり平さんが生きてたら出来るくらいだよ。
若衆頭がピシャンピシャン殴られるとこ、
あの可笑しさったら……。
あれを日本のギャング役者が殴られたって
ちっとも可笑しかないよ。ねぇ。 |
糸井 |
表現をすることに慣れてる世界だって気がしますね。
つまり、怒鳴りつけても見えないけど
殴ることで表現できますよね。 |
安部 |
オーバーアクトでお客を笑わせなくても、
ああいう精神分析医がコンシリオーリに化けるために
生まれつき叩き上げのヤクザがぶたれて我慢するシーン。
その可笑しさが演じてる役者にもわかる。
あれ日本のつまんない役者にやらせたら
大袈裟に演ってみせたりなんかするわけじゃない。 |
糸井 |
安部さん、じゃああの役なんか演りたい? |
安部 |
いやいやいや。
俺さ、これは絶対どっかが買いに来るなんていう
原作書いてるときにはさぁ、マル書いてさぁ、
「この役は俺」なんて書くの(笑)。
そしたらね、この頃マネージメントが
「あなたもう俳優の才能がないんだからやめなさい」
と(笑)。それやると原作が売りにくくなるからと。
だからこの頃誰が買いに来ても俺じいっと我慢してるよ。 |
糸井 |
我慢してるんだ。 |
安部 |
我慢してるんだよ。
それがストレスになって酔っぱらうの(笑)。 |
糸井 |
そこまでは僕も責任持てない(笑)。
(つづく) |