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豪華だぞう!
『アナライズ・ミー』をめぐっての特別対談。
なんとゲストは安部譲二さんだぜ。


日経新聞を購読している人は、一部分お読みになった
かもしれないのですが。
広告タイアップで、安部譲二さんと対談をしたんですよ。
ところが、それ、やっぱり、紙面に限りがあるでしょ。
ほんとにおもしろい無駄話の部分は、
消えてなくなっちゃうわけですよ。

そこで、「ほぼ日」がまたまた地味に水子救出。
横道寄り道だらけの対談を、全文掲載。
安部さんも、「ほぼ日」のことをご存じなかったのですが、
こころよくOKしてくださって、実現です!
ベリーありがとうございました。
(小さい声で)
『安部譲二さん、
こんどはいつか連載小説やってくれないかなぁ・・・』

また、長い対談なので、5回に分けてお届けします。



4

糸井 今フランスが面白いらしいですね。
もともとネイティブでフランスにいた白人たちと、
前からいた外国人と、最近の外国人が
3分の1ずつなんですって。
だから文化が、どこもイニシアテイブを取れなくて
混交してて物凄く面白いらしい。
安部 面白いでしょうね。
糸井 俺もそれ賛成なんですよ。
不安はもちろん増えるんだけど、
その分だけ毎日その逆転劇があるような、
野球の試合みたいな。
短い人生じゃないですか、っていう気がするんですよね。
リセットも早くしちゃった方が早い。
例えば安部さんも男を売る商売から作家っていう、
まぁどっちも半端な商売だとは思うんだけど、
言っちゃ悪いけど、まぁ社会のメインじゃない
ところですよね。
僕らはかげろうのような商売をずっとしてるわけですよ。
だけど、かげろうなりに血を入れ替えてるんですよ。
同じにやってたら生きていけないんです。
実は小さいリセットボタンをしょっちゅう押して。
5年前の俺と今の俺とはもう違うんですよね。
安部 今度リセットボタン押すときにはさ、
釣ってまずい魚じゃなくてさ、
鯛だとかヒラメだとか旨いやつにリセットした方がいいよ。
糸井 現代人、疲れてるのは確かだけど、
疲れてるって言ってられない人もどんどん増えてますよね。
そっちの人のほうが、逆により疲れてるんですよ。
「疲れてる」ってやたらに言う人はサボってますね。
この間、僕はアメリカの広告代理店の人と仕事してて
「日本人は働き蜂だとかいうけど、
 なんて働かないんだ!!」って驚かれたもん。
それはもう露骨ですよね。
で、僕はその人に負けないってつもりがあるんで
「いや、それはいろいろなんだよ」って言ったけど、
「会社員の人たちがよく新橋で酒飲んでられるな」って。
「忙しいさなかじゃないか」って。
疲れてるってそんなに言うなよって気分はありますね。
流しちゃうってところがあるんで。
上手に休みをとるのも仕事のうちですからね。
この映画では、職業変えちゃうって、
大どんでん返しですよね。
マフィアのボスやってる限りは
この悩みは解決しないんですよ。
そういったときにもう1枚ゲームボードを
出してきたわけです。
こういうことが今日本人に非常に求められてると思う。
「やめるんならやめれば」みたいな。
そこまで含めて気分がいいんじゃないかなぁと思います。
安部 正直言ってアメリカのシンジゲートのことは
僕は一般的な知識しかないけれども、
日本で言えばね、皆が不満を持って
満たされない世の中っていうのは
暗黒街のものは逆にチャンスなんですよ。
糸井 ほうほう。
安部 みんな鬱々と楽しまない抑圧された状態、
不満が内向している状態の時の方が
ビジネスチャンスが多いんです。
糸井 そうか、ベンチャーなんですね。
安部 日本の場合はおそらくアメリカのシンジゲートの連中とは
全然違うでしょうね。
糸井 パイが小さいっていうことなんでしょうかね。
安部 堅気の人たち側に状態の解決力がないんですよ。
糸井 なるほどなぁ。
アメリカの暗黒街って暗黒じゃない部分まで含めて
暗黒じゃないですか(笑)。
普通のピザ屋だったりとか。
安部 みんな表通りにはいないんですよ。隠れ蓑を持ってる。
日本だと、たとえば僕の場合、14才の時に、
野球の選手になるには足がノロすぎるし、
学者になるには頭が悪すぎるし、というように
将来が見えないときに
「男を売る稼業を修行してみないか」
っていわれて、ぽーっとなるでしょ。
ほとんどね、その段階なんですよ、みんな。
僕もね、なってみてもう20才の前には
「ああ国定忠治も清水次郎長も現代にはいない」っ
てわかってしまった。仁侠ってものは、
絶滅した日本狼なんですよ。
糸井 職業というエリアじゃない世界だったんですね。
信仰のエリアだったんだ。
安部 だから子母澤寛さんのお書きになった
『駿河遊侠伝』なんての読んでると、
子母澤さんという人は仁侠がとっても好きな人だったから
なおさら美化して書いてあるけれど、なんていうのかな、
歌舞伎の役者に次ぐスターなんですよね、日本では。
糸井 そうか、伝統芸能みたいな。
安部 けどね、時代がかわったって思うよ。
この映画にしてもね。
最初にあのエリオット・ネスをテレビでやった時に
マフィアが怒ったんだそうです。
エリオット・ネスは、マフィアが怒って
アメリカにいられなくなっちゃったんだから。
糸井 この映画は出来ちゃうんですもんね。
安部 時代は変わったよ。
あのテレビ映画の『アンタッチャブル』から30年経った?
40年? もうこれが撮れるんだもんね。
これ 40年前だったらマフィアは
エリオット・ネスを怒るより
このプロデューサーをきっと酷い目にあわせたよね。
糸井 もっと溶けてるんでしょうね、きっと。
境界線がないんでしょうね。
安部 アメリカの方が事態のコレクションがあるんですよ。
日本じゃどんな事態になっても、
自浄作用っていうのが効かない。
どんづまりまでいっちゃう社会だよ。
もうこれだけドンを描いてもアメリカのヤクザたちは
見てアハハなんて笑ってるかもしれないわけだ。
糸井 医者の映画を医者が見るみたいにね。
安部 そうそう。
糸井 「違うよ」なんつってね(笑)。

(つづく)

1999-11-14-SUN

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