糸井 |
今フランスが面白いらしいですね。
もともとネイティブでフランスにいた白人たちと、
前からいた外国人と、最近の外国人が
3分の1ずつなんですって。
だから文化が、どこもイニシアテイブを取れなくて
混交してて物凄く面白いらしい。 |
安部 |
面白いでしょうね。 |
糸井 |
俺もそれ賛成なんですよ。
不安はもちろん増えるんだけど、
その分だけ毎日その逆転劇があるような、
野球の試合みたいな。
短い人生じゃないですか、っていう気がするんですよね。
リセットも早くしちゃった方が早い。
例えば安部さんも男を売る商売から作家っていう、
まぁどっちも半端な商売だとは思うんだけど、
言っちゃ悪いけど、まぁ社会のメインじゃない
ところですよね。
僕らはかげろうのような商売をずっとしてるわけですよ。
だけど、かげろうなりに血を入れ替えてるんですよ。
同じにやってたら生きていけないんです。
実は小さいリセットボタンをしょっちゅう押して。
5年前の俺と今の俺とはもう違うんですよね。 |
安部 |
今度リセットボタン押すときにはさ、
釣ってまずい魚じゃなくてさ、
鯛だとかヒラメだとか旨いやつにリセットした方がいいよ。 |
糸井 |
現代人、疲れてるのは確かだけど、
疲れてるって言ってられない人もどんどん増えてますよね。
そっちの人のほうが、逆により疲れてるんですよ。
「疲れてる」ってやたらに言う人はサボってますね。
この間、僕はアメリカの広告代理店の人と仕事してて
「日本人は働き蜂だとかいうけど、
なんて働かないんだ!!」って驚かれたもん。
それはもう露骨ですよね。
で、僕はその人に負けないってつもりがあるんで
「いや、それはいろいろなんだよ」って言ったけど、
「会社員の人たちがよく新橋で酒飲んでられるな」って。
「忙しいさなかじゃないか」って。
疲れてるってそんなに言うなよって気分はありますね。
流しちゃうってところがあるんで。
上手に休みをとるのも仕事のうちですからね。
この映画では、職業変えちゃうって、
大どんでん返しですよね。
マフィアのボスやってる限りは
この悩みは解決しないんですよ。
そういったときにもう1枚ゲームボードを
出してきたわけです。
こういうことが今日本人に非常に求められてると思う。
「やめるんならやめれば」みたいな。
そこまで含めて気分がいいんじゃないかなぁと思います。 |
|
安部 |
正直言ってアメリカのシンジゲートのことは
僕は一般的な知識しかないけれども、
日本で言えばね、皆が不満を持って
満たされない世の中っていうのは
暗黒街のものは逆にチャンスなんですよ。 |
糸井 |
ほうほう。 |
安部 |
みんな鬱々と楽しまない抑圧された状態、
不満が内向している状態の時の方が
ビジネスチャンスが多いんです。 |
糸井 |
そうか、ベンチャーなんですね。 |
安部 |
日本の場合はおそらくアメリカのシンジゲートの連中とは
全然違うでしょうね。 |
糸井 |
パイが小さいっていうことなんでしょうかね。 |
安部 |
堅気の人たち側に状態の解決力がないんですよ。 |
糸井 |
なるほどなぁ。
アメリカの暗黒街って暗黒じゃない部分まで含めて
暗黒じゃないですか(笑)。
普通のピザ屋だったりとか。 |
安部 |
みんな表通りにはいないんですよ。隠れ蓑を持ってる。
日本だと、たとえば僕の場合、14才の時に、
野球の選手になるには足がノロすぎるし、
学者になるには頭が悪すぎるし、というように
将来が見えないときに
「男を売る稼業を修行してみないか」
っていわれて、ぽーっとなるでしょ。
ほとんどね、その段階なんですよ、みんな。
僕もね、なってみてもう20才の前には
「ああ国定忠治も清水次郎長も現代にはいない」っ
てわかってしまった。仁侠ってものは、
絶滅した日本狼なんですよ。 |
糸井 |
職業というエリアじゃない世界だったんですね。
信仰のエリアだったんだ。 |
安部 |
だから子母澤寛さんのお書きになった
『駿河遊侠伝』なんての読んでると、
子母澤さんという人は仁侠がとっても好きな人だったから
なおさら美化して書いてあるけれど、なんていうのかな、
歌舞伎の役者に次ぐスターなんですよね、日本では。 |
糸井 |
そうか、伝統芸能みたいな。 |
安部 |
けどね、時代がかわったって思うよ。
この映画にしてもね。
最初にあのエリオット・ネスをテレビでやった時に
マフィアが怒ったんだそうです。
エリオット・ネスは、マフィアが怒って
アメリカにいられなくなっちゃったんだから。 |
糸井 |
この映画は出来ちゃうんですもんね。 |
安部 |
時代は変わったよ。
あのテレビ映画の『アンタッチャブル』から30年経った?
40年? もうこれが撮れるんだもんね。
これ 40年前だったらマフィアは
エリオット・ネスを怒るより
このプロデューサーをきっと酷い目にあわせたよね。 |
糸井 |
もっと溶けてるんでしょうね、きっと。
境界線がないんでしょうね。 |
安部 |
アメリカの方が事態のコレクションがあるんですよ。
日本じゃどんな事態になっても、
自浄作用っていうのが効かない。
どんづまりまでいっちゃう社会だよ。
もうこれだけドンを描いてもアメリカのヤクザたちは
見てアハハなんて笑ってるかもしれないわけだ。 |
糸井 |
医者の映画を医者が見るみたいにね。 |
安部 |
そうそう。 |
糸井 |
「違うよ」なんつってね(笑)。
(つづく) |