安部 |
政治でも経済界でも、自動的に時代にあった
コレクションをしてるんだと思うの、
アメリカっていう国は。
日本だとそれがきかないんじゃないかと思う。
だから、日本映画で深作の『仁義なき戦い』っていうのが
あるんだけど、長い歴史で見るとヤクザ対かたぎの世界の
関係を、あるべき姿っていうのか、実情に沿った方向に
戻した映画だと思うんですよ。 |
糸井 |
よりリアルにしましたよね。 |
安部 |
それ以後、岩下志麻さんものになると
また現実からはずいぶん離れた世界になっちゃって。 |
糸井 |
劇画っぽくなりましたよね。 |
安部 |
きっとアメリカでもこういうことはないんだろうけど、
これがギャングたちを怒らせないアメリカっていうのは、
いいなぁ。
『ア・フュー・グッドメン』なんて映画が撮れるんだもん。 |
糸井 |
結局大きく言うと組織の物語ですよね。
だから会社員であれヤクザであれ、
組織としてみんなこうアナロジーして
楽しんでるんですよね。 |
安部 |
俺はとりあえずアメリカン・ボーイよ。 |
糸井 |
そうですよねー。
キャディラックだっていうところまで
いくとは思わなかった。 |
安部 |
俺英語で文章が書けたらもうこんなとこいないよ(笑)。
だって、今の俺アメリカ行ったらさ、
美智子と一緒にカルフォルニアの農場で
グレープフルーツを摘むかさ、
さもなきゃよっぽど辺鄙なネブラスカあたりで
安い給料でシェリフを引き受けるとかさ。
そのくらいしか食いようがないもん。
面白い話があるんだよ。
アメリカでね、1960年くらいまではね
「銀行強盗やるならサンフランシスコでやれ、
ロサンゼルスでやるな」っていう格言があったの。
それは何故かっていうとね、
アメリカの自治体警察はみんな西部劇時代の
伝統があって、まだその頃まではサンフランシスコでは
お巡りの拳銃の弾が自前だったんだよ。
自分の給料から弾買って、つめる。 |
糸井 |
ボランティアが入ってるわけですね。 |
安部 |
そうそう。
だから、ゲイリー・クーパーのセリフは
「拳銃も弾も馬も自分持ちよ!」って。 |
糸井 |
あんまり撃ちたくないんだ。 |
安部 |
だから、銀行強盗やったって、
申し訳程度にポンと撃つだけだけど、
ロサンゼルスは早くから弾は官給だったから
みんな射撃場に横流ししたりなんかしてんだよ。
それだからもう、ぼんぼんぼんぼん撃つから。
銀行強盗も死亡率が高いわけだよ。 |
糸井 |
多羅尾伴内は気前が良かったってことですね。 |
安部 |
多羅尾伴内はクリップをかえずに
撃つこと撃つこと(笑)。
……それにしても、僕たちもあれだけ
映画館のある町に住んでて、映画を観なくなった。
僕はね、地方の映画館の3本立週2回代わりだから、
週に6本映画をかける映画館の
用心棒をしていたことがあるんです。 |
糸井 |
地味な用心棒ですね(笑)。 |
安部 |
昔『トム・ドーリー』っていう映画があったの覚えてる? |
糸井 |
あの、歌のトム・ドーリーですか。 |
安部 |
そうそう。あのギターの弾き語りで、
トム・ドーリーがどうして恋人を
刺しちゃわなきゃいけなかったかと唄うんです。
あれはね、浪花節映画の手法なんですよ。
親分の次郎長がいない留守に手紙が届く。山で喧嘩だって。
そうすると清水二十八人衆は、荒神山へ行って
仁吉を助けろって。そうすると、ずっと海岸ぞいの
松林なんかを波打ち際に二十八人衆がタッタッタッタっと
歩いていくところを足を撮って、
清水二十八人衆は親分の留守に荒神山まで喧嘩に
行くんだって事を浪花節で唄う。
でないと、どういうことが起こるかっていうと、
それがなくて場面が荒神山になるとお客は
「どうしてこうなったんだろう?」とわかんない。
だから、トム・ドーリーが来た時に、
日本の浪花節映画の手法を西部劇もやってると思った。
だから、あえていうけど知能程度の低い、
理解力の低い観客には何かの手段で、浪花節なり歌なりで
何故こうなったのかっていうのを
やらなじゃならないわけじゃない。
僕はほんの20才ちょっとすぎた頃用心棒やってて、
これは都会のお客が感心して見る映画を作る人は
大変だなと思ったんですよ。
でも今この映画を映画館でかけたら
「あれ? どうしてそうなったんだろ?」
だとかザワザワしちゃって大変だよ。 |
|
糸井 |
ザワザワ(笑)。 |
ヘラルド |
アメリカはすごくはっきりしてるんで、
そういう本当に隅々までわかるための映画っていうのが
年に何本かあって。
あと、こういうふうに、わかる人が面白がる、
っていうのがあって。
で、ヒットの場合ももちろんあるし。
それぞれ層があるんですけど、
今回は本当にその中でも思わぬリピーターが
沢山来てしまって、その上の層の、興行収入的には
「多きパイ」の方に食い込んじゃったんですよ。 |
安部 |
分極化してるんだ。
アメリカのコストの安い映画の知恵を使った作り方って
……あのシルベスター・スタローンが『ロッキー』を
撮ったあとで、僕フィラデルフィアへ行って見て来たよ。 |
糸井 |
あれ、起業家ですよね。 |
安部 |
あのときあいつポルノをやって儲けたとかいわれて。
それでも一万ドルつくって。
あの一万ドルは殆どが生フィルム代などに消えた。
だから、オールロケなんだよ。 |
糸井 |
再出発ですよね、あれだって。思えばね。 |
安部 |
だからさ、知恵を使えばさ、映画っていうのは、
昔のATGの1000万円映画じゃないけども、
脚本の段階でプロデューサーと話し合えば
コストなんてずいぶんセーブできるのさ。 |
糸井 |
日本の役者は、映画に嫌気がさしていて、
みんな舞台やりたがってますよね。 |
安部 |
この映画の中で誰よりも素敵だったのはこの男だよね
(ジェリー役のジョー・ヴィテレッリ)。
上手かったよね。 |
糸井 |
うん、上手かった。 |
安部 |
コミカルな芝居しないところがいいよ。
コミカルな芝居をしないから可笑しいんだよ。 |
糸井 |
他にも何か出てるんですか? |
ヘラルド |
ジェリーですか?
私が覚えている限りではウッディ・アレンの
『ブロードウェイと銃弾』とか、 |
糸井 |
ああ、そうですよね。 |
女の人 |
1930年代のギャングを演って、皆で本物じゃない?
とか当時は云っていたんですけど、
そのあと結構映画にいくつか出て来て。 |
糸井 |
お客さんの感想は「この人もいい」って
必ず一行書きますね。
「あっ云い忘れそうだ」みたいなかんじで
慌てて書いてますね。
これは役者同士からしたらオイシイ役ですよね。
「いいなー太ってて(笑)」みたいな。
(つづく) |