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豪華だぞう!
『アナライズ・ミー』をめぐっての特別対談。
なんとゲストは安部譲二さんだぜ。


日経新聞を購読している人は、一部分お読みになった
かもしれないのですが。
広告タイアップで、安部譲二さんと対談をしたんですよ。
ところが、それ、やっぱり、紙面に限りがあるでしょ。
ほんとにおもしろい無駄話の部分は、
消えてなくなっちゃうわけですよ。

そこで、「ほぼ日」がまたまた地味に水子救出。
横道寄り道だらけの対談を、全文掲載。
安部さんも、「ほぼ日」のことをご存じなかったのですが、
こころよくOKしてくださって、実現です!
ベリーありがとうございました。
(小さい声で)
『安部譲二さん、
こんどはいつか連載小説やってくれないかなぁ・・・』

また、長い対談なので、5回に分けてお届けします。



5

安部 政治でも経済界でも、自動的に時代にあった
コレクションをしてるんだと思うの、
アメリカっていう国は。
日本だとそれがきかないんじゃないかと思う。
だから、日本映画で深作の『仁義なき戦い』っていうのが
あるんだけど、長い歴史で見るとヤクザ対かたぎの世界の
関係を、あるべき姿っていうのか、実情に沿った方向に
戻した映画だと思うんですよ。
糸井 よりリアルにしましたよね。
安部 それ以後、岩下志麻さんものになると
また現実からはずいぶん離れた世界になっちゃって。
糸井 劇画っぽくなりましたよね。
安部 きっとアメリカでもこういうことはないんだろうけど、
これがギャングたちを怒らせないアメリカっていうのは、
いいなぁ。
『ア・フュー・グッドメン』なんて映画が撮れるんだもん。
糸井 結局大きく言うと組織の物語ですよね。
だから会社員であれヤクザであれ、
組織としてみんなこうアナロジーして
楽しんでるんですよね。
安部 俺はとりあえずアメリカン・ボーイよ。
糸井 そうですよねー。
キャディラックだっていうところまで
いくとは思わなかった。
安部 俺英語で文章が書けたらもうこんなとこいないよ(笑)。
だって、今の俺アメリカ行ったらさ、
美智子と一緒にカルフォルニアの農場で
グレープフルーツを摘むかさ、
さもなきゃよっぽど辺鄙なネブラスカあたりで
安い給料でシェリフを引き受けるとかさ。
そのくらいしか食いようがないもん。
面白い話があるんだよ。
アメリカでね、1960年くらいまではね
「銀行強盗やるならサンフランシスコでやれ、
 ロサンゼルスでやるな」っていう格言があったの。
それは何故かっていうとね、
アメリカの自治体警察はみんな西部劇時代の
伝統があって、まだその頃まではサンフランシスコでは
お巡りの拳銃の弾が自前だったんだよ。
自分の給料から弾買って、つめる。
糸井 ボランティアが入ってるわけですね。
安部 そうそう。
だから、ゲイリー・クーパーのセリフは
「拳銃も弾も馬も自分持ちよ!」って。
糸井 あんまり撃ちたくないんだ。
安部 だから、銀行強盗やったって、
申し訳程度にポンと撃つだけだけど、
ロサンゼルスは早くから弾は官給だったから
みんな射撃場に横流ししたりなんかしてんだよ。
それだからもう、ぼんぼんぼんぼん撃つから。
銀行強盗も死亡率が高いわけだよ。
糸井 多羅尾伴内は気前が良かったってことですね。
安部 多羅尾伴内はクリップをかえずに
撃つこと撃つこと(笑)。
……それにしても、僕たちもあれだけ
映画館のある町に住んでて、映画を観なくなった。
僕はね、地方の映画館の3本立週2回代わりだから、
週に6本映画をかける映画館の
用心棒をしていたことがあるんです。
糸井 地味な用心棒ですね(笑)。
安部 昔『トム・ドーリー』っていう映画があったの覚えてる?
糸井 あの、歌のトム・ドーリーですか。
安部 そうそう。あのギターの弾き語りで、
トム・ドーリーがどうして恋人を
刺しちゃわなきゃいけなかったかと唄うんです。
あれはね、浪花節映画の手法なんですよ。
親分の次郎長がいない留守に手紙が届く。山で喧嘩だって。
そうすると清水二十八人衆は、荒神山へ行って
仁吉を助けろって。そうすると、ずっと海岸ぞいの
松林なんかを波打ち際に二十八人衆がタッタッタッタっと
歩いていくところを足を撮って、
清水二十八人衆は親分の留守に荒神山まで喧嘩に
行くんだって事を浪花節で唄う。
でないと、どういうことが起こるかっていうと、
それがなくて場面が荒神山になるとお客は
「どうしてこうなったんだろう?」とわかんない。
だから、トム・ドーリーが来た時に、
日本の浪花節映画の手法を西部劇もやってると思った。
だから、あえていうけど知能程度の低い、
理解力の低い観客には何かの手段で、浪花節なり歌なりで
何故こうなったのかっていうのを
やらなじゃならないわけじゃない。
僕はほんの20才ちょっとすぎた頃用心棒やってて、
これは都会のお客が感心して見る映画を作る人は
大変だなと思ったんですよ。
でも今この映画を映画館でかけたら
「あれ? どうしてそうなったんだろ?」
だとかザワザワしちゃって大変だよ。
糸井 ザワザワ(笑)。
ヘラルド アメリカはすごくはっきりしてるんで、
そういう本当に隅々までわかるための映画っていうのが
年に何本かあって。
あと、こういうふうに、わかる人が面白がる、
っていうのがあって。
で、ヒットの場合ももちろんあるし。
それぞれ層があるんですけど、
今回は本当にその中でも思わぬリピーターが
沢山来てしまって、その上の層の、興行収入的には
「多きパイ」の方に食い込んじゃったんですよ。
安部 分極化してるんだ。
アメリカのコストの安い映画の知恵を使った作り方って
……あのシルベスター・スタローンが『ロッキー』を
撮ったあとで、僕フィラデルフィアへ行って見て来たよ。
糸井 あれ、起業家ですよね。
安部 あのときあいつポルノをやって儲けたとかいわれて。
それでも一万ドルつくって。
あの一万ドルは殆どが生フィルム代などに消えた。
だから、オールロケなんだよ。
糸井 再出発ですよね、あれだって。思えばね。
安部 だからさ、知恵を使えばさ、映画っていうのは、
昔のATGの1000万円映画じゃないけども、
脚本の段階でプロデューサーと話し合えば
コストなんてずいぶんセーブできるのさ。
糸井 日本の役者は、映画に嫌気がさしていて、
みんな舞台やりたがってますよね。
安部 この映画の中で誰よりも素敵だったのはこの男だよね
(ジェリー役のジョー・ヴィテレッリ)。
上手かったよね。
糸井 うん、上手かった。
安部 コミカルな芝居しないところがいいよ。
コミカルな芝居をしないから可笑しいんだよ。
糸井 他にも何か出てるんですか?
ヘラルド ジェリーですか?
私が覚えている限りではウッディ・アレンの
『ブロードウェイと銃弾』とか、
糸井 ああ、そうですよね。
女の人 1930年代のギャングを演って、皆で本物じゃない?
とか当時は云っていたんですけど、
そのあと結構映画にいくつか出て来て。
糸井 お客さんの感想は「この人もいい」って
必ず一行書きますね。
「あっ云い忘れそうだ」みたいなかんじで
慌てて書いてますね。
これは役者同士からしたらオイシイ役ですよね。
「いいなー太ってて(笑)」みたいな。

(つづく)

1999-11-16-TUE

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