Vol.3 ニューオリンズでの音楽生活−1
地元バンドのセッションに飛び入る |
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車の運転にも慣れ始めると、
街角で入手できるフリーペーパーのライブ情報を頼りに、
あちこちのクラブを開拓していきました。
フランス占領下時代の古い町並みを残した
フレンチクオーターは観光地として有名で、
もちろん音楽も何十、何百箇所と聴けるのですが、
耳の肥えた地元民を満足させる
本当の演奏の聴けるクラブの情報は
フリーペーパーにも載っていないことが多く、
地元民に直接教えてもらうのが唯一の方法でした。
私の通い詰めたDonna'sは有名なクラブですが、
観光地フレンチクオーターと
その北側に位置するジャズの生まれた町
トレメの境界部分に位置し、
演奏も対外的演奏と真髄的演奏両者の混沌があり、
聴衆も観光客と地元民が入り混じるところが面白く、
仕事帰りのミュージシャンも集まり
セッション参加するという、
アットホームでアクティブな場所でした。
毎週月曜はBob Frenchバンドの日ですが、
ある日Bobに話しかけ
自己紹介として研究留学中で、
歌手でもあると伝えると、
とても興味を持ってくれて
次回からステージに呼んでくれるとのこと。
その日から、足しげく月曜の夜はDonna'sに通い
セッションに参加するようになりました。
2005年4月に日本でアルバム
「Brand-New Orleans」をリリースしましたが、
CDの参加ミュージシャンとは
こうしてセッションでの共演を通して
知り合って行ったのです。
Bobにステージに呼ばれると、
笑顔のミュージシャンがそこで迎えてくれました。
みんなに笑顔で挨拶し、歌いたい曲名とキーを告げ、
テンポをカウントしメンバーに合図すると
演奏は始まりました。
百戦錬磨の地元ミュージシャンは
どんな歌手が舞台に現れても、
それぞれの歌を引き立てる演奏をするのに長けており、
さすがという感じ。
またこちらから面白いフレーズで歌いかけると、
その答えのフレーズがすぐに返ってきました。
そしてそのフレーズを受けて
また別のフレーズが交わされる。
まさに言葉を越えたコミュニケーションでした。
正直言うと、バンドであるにも関わらず
他との交流の希薄な自己満足的演奏には
多く聞き覚えがありました。
しかし、ここには一つ一つのフレーズが意味を持ち、
他者への呼びかけであり、
そのやり取りはまさに会話を聞いているようでした。
生きている音楽とはこれなのだ、と感じました。
また、そのフレーズを聴けば、
その人のそれまでの人生の道のりを
たどれるかのように饒舌でもあったのです。
私も歌手として志すべきは、この点だと思いました。
「歌声一つにも人生の滋味をたっぷり含み、
一音一音に意味の込められた歌をうたいたい」と。
(つづきます)
Photographed by Ann Sally
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