APPLE
アップルの
原田社長との雑談。

第3回目

第1回目

第2回目

第2回目からのつづき。

糸井 もともと原田さんは、経営専攻なんですか?
原田 いえ、私は理科系でコンピュータ専攻で
10年やってますから。
ガリガリのハードのエンジニアですから。
N社というコンピュータの会社で
ハードの設計者をしてました。
糸井 そこで見てきた合理性みたいなものを育てていったら、
ビジネスモデルについて興味を持った
ということなんですかね。
原田 余談ですが私は、学生時代に二度とできないような
経験ばっかりしたんです。
旅館の番頭さんとか、フトンのワタ打ち直し、
月賦の集金、塾の経営、ダンプの運転手。
山谷まで人夫さんを雇いに行って、
飯場まで連れていくですとかね。
おかげで、
「いろんな世界がある、
いろんな人がいらっしゃる、いろんな価値観がある」
というのが分かって、そのことが
今に非常に役立っているような気がします。

当たり前に学校行って、当たり前に会社へ行っていたら
たぶんそういう発想も出てこないだろうと思います。
とにかく、驚きの連続でした。
糸井 僕も、年齢がまったくいっしょなんで、
似たような時代を過ごしてるんですけど、
本当に学校の外で勉強しましたよね。

人はまず、分かってくれないという前提じゃないと、
親切にもできないし、
コミュニケーションもできないんだということ。
これを学んだだけでも、学校の外ってものすごいですね。
原田 私は、さきほども言いましたとおり、
朝は山谷に行って、人夫さんを雇ってくる。
日中はダンプの運転手。
夜は親方のお抱えの運転手で、
「二号さん」の家まで連れていって待ってるとか、
博打の借金をとりにお抱えの運転手で行くわけですよ。
そして、ちゃんと借金取りができると、
小遣いなんかくれて、ごちそうしてくれるわけですよ。
そのあとは、親方の娘さんの家庭教師になって
教えるとかね。
とにかくいろんなことをやってました。
それぞれの世界ってあるんですよね。

コンピュータやってますとね、
コンピュータの業界の常識、知識、
送り手の知識だけでやってると
絶対にユーザーのメンタリティーなんて見えませんよ。
糸井 やはり“メンタリティー”という言葉がキーに
なってますね。
そうか、
コンピュータ的なロジックというよりは、
原田さんっていう人が見てきた、
「人間ってこういうものだろうな」
というようなこころの問題のほうが先なんですね。

ダンプに乗っていたりしたときに、
どうしてもその日暮らしな考え方に
なってしまいがちでしょう。
ぼくも、肉体労働の日雇いの時期って、
妙に「活字に飢えていた」思いでがあるんですが。
向学心みたいなものを捨てないで、
よく持ちこたえましたね。
原田 たとえばですね、日中ダンプに乗ってますね。
仕事が終わって、自分のクルマに乗るんです。
すると、地面を這いずり回っている気がするんですよ。
車高が低いですからね。
ですから、ダンプの運転手が無謀な運転をする
という気持ちも分かるんです。
「どけっ!」という気持ちになっちゃうんです。
誰だってなるんですよ。

だから、そういう気持ちが分かるだけでもね、
自分が運転していて、ダンプを見たときに
「あいつ、どんな気持ちで運転しているか」
が分かるんです。
やはり、それとビジネスは同じだと思いますね。
糸井 僕も最近またよく思うんですけど、
いろんなネガティブな批判が今、
世の中に渦巻いていますよね。
「その場所にいて、同じ育ち方したら、
お前もそう考えるだろう?」
って僕もよく思うんです。
だから
「そいつがそうせざるをえなかったりする」
っていうことは、宿命論者ではないんだけれども
ある種、縁のものだと思うんですよ。

「その縁とほかの縁を持っている人が
どうやったら接点を持てるだろう?」
という、まず理解しあえないというところを前提にしたら、
逆に理解しあえるんじゃないかと思うんです。
ダンプの話、すごくよく分かります。
原田 私、アマチュアバンドを学生時代からずっと
やってるんです。
ジャズのドラムをやってるんですよ。
最近、イベントなんかでたまに出てますけれど、
一番熱中したのがジャズのフルバンドなんですね。
早稲田出身、慶應出身、そうそうたるメンバーですよ。
めちゃめちゃ質の高いバンドなんですけど、
1回リサイタルやると解散しちゃうんです。

そこそこのメンバーが
そんなうまくないバンドが集まってやると、
ダラダラと何十年も続くんです。
これは、企業の組織論につながる部分というのも
あるんですよ。
そういうときに、うまいバンドをまとめる秘訣
っていうのは、いわゆる
「こうあるべきだ!」と言ってのけるのではなくて、
みんなが周りを見回せるように、
自分の言動をコントロールするときに初めて
リーダーシップがとれるんですね。
何も言わないでいいんですよ。
すばらしい個人のスキルを持った集団を
コントロールするときには、
自分は裸にならなきゃいけないんです。

自分が「おりこう」になっちゃうと、
一気に飛んじゃうんですよね。
糸井 バンドってそのとおりですよね。
足りない部分を上手に見せあっていかないと、
接着できなくなっちゃうんですね。
原田 そこのメンバーがですね、
新幹線の運転手もいれば、
中古車センターのおにいちゃんもいるわ、銀行員いる、
役人いる、
私もコンピュータ業界でしょ、本当に裸のつきあいですよ。
こんなにいいつきあいないですよ、
何のオブリゲーションもないですもん。

カラオケ行って、打ち上げやりますよね、
メチャクチャうまいプレイヤーがすごく音痴だったり
するわけですよ(笑)。
そういうつきあいはやはり、一番たのしいですよねぇ。
糸井 今日は、原田さんの若い頃の話について
聞きたかったのですが、原田さんに今日会ったとき、
直感的に「バンドやってたでしょ?」
と思ったんですよ。
ノリがつまり、コンボっぽいっていうか、
ひとりの人間が何か動くことが、
必ず周囲に大きく影響するんだっていうことを
信じている姿がなんとなくあるんですね。
それが、ジャズバンドだろうなあ。
そのジャズバンドで、
今はやってるかどうか知らないけれども
そういう動きなんだろうなあ、というのを
なんとなく思ってたんですよね。
原田 私スタッフにもしょっちゅう言ってますけれど、
「会社の仕事するときはな、誰に情報を知らせて、
誰のサポートをやって、ということを
きちっと分かって仕事すると、うまくいくよ」と。
自分だけで走って、自分だけで仕事すると、
絶対に失敗する。
音楽と同じなんですよ。
糸井 ピタっときたときの気持ちよさが忘れられなくて
今、会社というバンドをやっているみたいなところが
ありますね。気持ちいいでしょうね(笑)。
原田 いえいえ、そっちは不協和音として聴いてますよ(笑)。
糸井 一瞬でも気持ちいい時間があれば、
ほとんどが気持ち悪くても、全部チャラになりますよね。
原田 だから、音楽にたとえますとね、
音楽もソロ・プレイってありますよね。
サックスセクションならサックスセクションの
スリルってありますよね。
全員が一気に脅かすテュッティー(全員が合奏すること)
がありますね。
やはりその組み合わせなんですよ。
たとえば「こう変えていくぞ!」
というときは、ソロでいくんですよ。
糸井 それで提示するわけですね。
原田 やはり、自分ひとりで演奏しなければいけないときって
あるんですよ。
で、それが終わりますと、何人か自分のブレーンを
引きずり込んで、ソリ(何人かのアンサンブル)に
いくわけですよ。
一気にいくときは、全員でいくんですよ。

3年くらいまでは、全部ソロやってましたから。
同じステージなのに、全部がそうしてるんで
聴衆が聴いても音楽になってないんですよ。
糸井 重量ありすぎますよね、それだとねぇ。
ひっぱりきれないですよね。
原田 ある人はロックやってる、ある人はジャズやってる、
ある人はバイオリンも弾いてましたからね。
糸井 自分を曲げるとか、曲げないとかって、
若いときには大問題になりますよね。
こだわりというか、曲げないってことが
一般的には誠実さであると。
そう誤解されるようなところがやっぱりあるんですね。
曲げないっていうことの価値みたいなものに、
妙にこだわってた時代が長かったんですよ。
一途だとか、どう言うんだろうなぁ、
自分を変えないっていうことが価値だっていうのが。

変えないっていう部分は、
ほんの最初の核だけ、
金平糖のけし粒くらいでいいと思うんですよ。
ほとんど変えちゃったのに、
よくよく考えてみたら
「ここだけは変わってないな」っていうのが、
僕はその人の個性なんだと思うんです。
だから、どこまでも譲れるよって思うんですよね。
今になると。
それが若いときには逆に、やっぱ自信が無かったのかなぁ、
譲れないんですよね。
原田 歳とってくると「ごめん」って言えるようになりますね。
糸井 どんどん言えますね。へっちゃらですね。
原田 「いやぁ間違ってたよ、教えてくれよ」
って言えるようになるんですよ。
糸井 「俺それわかんないから」っていうのが言える。
原田 「教えてくれよ」って言えますもんね。

昔は企業の中でもね、いい企業っていうのが
“上から下までどこで切っても
金太郎飴みたいに同じ意見を言う”
というのがいい会社だって言われてましたね。
今は違いますよ。
金太郎飴だったらそこのレイヤー全部取っても
変わらないですよ。
同じこと言うような会社ってのは昔の会社であって。
糸井 入れ替え可能な人間って
そんなにたくさんは要らないですからね。
原田 そうです。
糸井 アメリカのアップルの風土、企業風土みたいなものも
僕は本の中でしか知らないんですけど、
そういうにおいがあって・・・。
原田 いろんなアップルの本は3分の2くらい嘘かなぁ。
糸井 後で帳尻揃えて書いてるって感じですかね。
原田 あんまりほんとのとこ突いてないなって感じします。
だからアップルの暴露本的なものは見ないようにしてます。
マイクロソフトの暴露本は見てますけど(笑)。
糸井 あぁ、嘘ですか。
原田 私はアップルを辞めたらある時期経って、
ほんとにおもしろおかしい暴露本ではなくて
みなさんのビジネスの教科書になるような財産も
たくさんありますから、
今は言えませんけど、
そういった本が書ければいいかなと思ってますけど。
糸井 それも読みたいですね。
原田 なぜ失敗したか、なぜ成功したか。
やっぱり、はっきりとありますからね。
非常に面白いケーススタディになると思いますね。
糸井 今一番興味あるのがそこなんですよ。
マーケティング部長だった方にしては
理科系だったって聞いたんで話の持って行き方が
どうやっていいかわからないんですけれど、
今ある流行しているマーケティング思想
っていうのが嫌なんですね、僕は。
何やりたいんだっていうのが見えなくて、
「ビジネスってとっても大切なことだ」
って、いうような考え。
譲りに譲って、これも僕は認めます。
金儲けも大事です。その通りです。認めます。
とりあえず野球で言えば点を取り合うように
どれだけ利益を上げるかっていうゲームをやっているのは
よくわかるんだけど、その先に何があるんでしょう、と。
ビジネスの成功を得た後で結局、
豪邸と高級車といい酒になってしまうんだとすると
むなしすぎるじゃないかというか、
あまりにも価値観が古いし粗雑だと思うんです。

そのことをアメリカ人も
ちっとも提示できてないというか、
見せてくれてないんですよ。
ほんとはバンドと同じで、演奏中が一番面白いわけで、
帰ってからどういう豪邸に帰ろうが
ちっとも羨ましくないんですね。
僕はいまだに借家に住んでるんで、
ひがみに聞こえたりするかもしれませんが(笑)。
そこの幸福感みたいなものを
大きくチェンジできない限りは
「金儲けはステキなことだ」っていう世俗宗教で
終わってしまうだろう、と。
原田 あの、変な話してよろしいですか?
私ね、これプライベートな話ですが、
学生時代に結婚しました。
25歳で娘ができました。もう25歳になってます。
卒業と同時に家を建てたんですね。
学生時代、儲かりましたから。学生時代に一戸建てです。
糸井 面白いですね。
原田 車も持ってたんです。
去年家を売りまして、初めて家なしになったんです。
今は賃貸です。
10年前に離婚しまして今シングルなんです。
昨日クルマも売りまして(笑)。
考えてみたら、全部人がやることの逆をやってるんですよ。
糸井 僕も、ちょっと似てますね。
原田 これは余談ですけどね、
今、仰られたことで一つ共感を覚えますのは、
95年にハーバードのAMPプログラムで、
3ヶ月間連続で管理教育受けたんです。
そのときに世界中の政治経済いろんな国、
中国、アメリカ、日本、アフリカまで全部学ぶわけです。
考えてみたら、世の中幸せな国、
幸せを保証されている国というのは地球上のどこにもない。
これは、解けない問題を抱えてる地球人、人類、
ということなんですね。

そこで考えたのは、
俺はこの25年間何をしてきたんだ、何を求めてるんだと、
一生懸命仕事して。
行き着くところは、金儲けしてたくさん給料もらって、
家のローン払ってクルマのローン払って、
「何が幸せなんだ?」と。

キザな言い方ですけど、行き着くところは
人間の愛とか、人が幸せと思うようなことを
してあげるとか、ここしかないんですね。
だからコンピュータ売るときも
ユーザーさんが感動する姿をね、
もっともっと与えていくということが
我々の課題なんですよね。
糸井 それはだけど、
ビジネスのフィールドにいる人が、
どういうふうに言っても
信じてもらいにくいですよね。
ほんとにそう思っていても、信じてもらいにくい。
原田 ただ我々が恵まれてますのは、
マッキントッシュの世界は
ユーザーさんが作った文化っていうのがありましてね、
常に感動していただいてますし
感動を求めていただいてるんで
我々ももっと感動させようというのが
エネルギー源になってます。
そこはやっぱりアップルの強さ、財産ですね。
糸井 アップルならでは、っていう部分はそこですね。
なるほど、大きい意味での
エンターテイメント産業ですよね。
原田 そうですね(笑)。
いろんな意味で驚かせますからね。
糸井 芸人さんであるっていう会社ですよね、かなりね。
これは吉本(隆明)さんとの話でも言ったんですが、
僕は去年の11月ですか、
ディズニーワールドに行ってて、
カンファレンスを受けてきたんですよ。
原田 オーランドの方ですか。
糸井 はい。
面白いですよ。
日本人が足りない部分っていうのはとってもよくわかるし、
こういうふうにやればいいんだっていうのが
全部わかるんだけど、
そこまで深く考えている人たちの
自分の幸福感っていうのが見えてこないんですね。

最近ではそれとそっくりなのが
「タイタニック」って映画で、
本当によくできてるんです。
僕は映画として素晴らしいということ以上に、
ビジネスの教科書だと思うんですね。
あの映画を5回見たらこれからの商売は
全部うまくいくぞっていうくらい。
絶対に、誰もがわかる。
全部がわかりやすさを中心にして、
貧乏くさくならずに
たっぷりと楽しい時間を味わえる。
そういうふうに考え抜いて、努力して、作っている。

でもそれを作っている人たちの喜びっていうのが
あんまり見えないんです。
役者にはあるんですけどね。
役者は、その都度、肉体を使ってますから。
でもタイタニックで稼いだ人たちが、
また結局いい酒を飲むっていうところにしか
行かないなぁっていうにおいがするんですね。
いい酒というか、
次のビジネスのための資金が獲得できたというような、
「勝者の栄華」という、なんかオヤジ臭い価値観。
どうも・・・同じことをしたくないな、と。

だったらいっそのこと、ジム・ジャームッシュみたいな。
ジャームッシュの映画の作り方を
僕は永瀬(正敏)くんに聞いたんだけど
ギャランティーが全部一緒なんですって。
監督も端役も基本的にみんな一緒なんですって。
どうせ儲かんないからかな(笑)。
その現場で照明さんとかが
「ジムよお」って言うんですって。
そういう環境で映画作って、稼ぎはたかがしれてるけど
「またやろうね」って言って散るんですって。

どっちが幸せかなって考えますよね。
あんだけよくできた「タイタニック」をつくってて
ビジネスの教科書みたいなものを見せられたときよりも、
ジャームッシュの方が、実は退屈なんですよね、
映画見ると。
でも、ジャームッシュの所にいた方が、
つまり、いま生きてるジャームッシュと、
自分というのがいい接点を持って、
一緒に演奏をして「また会おうぜ」っていう気分は
お金じゃなくて、絶対あるな?って。
そういうふうな仕事のやり方に、
これからは、なっていくしかないだろうなと思うんですよ。

世界中でみんなが買うような商品が
あるはずがないんだし、
これから先どんどん大きい会社は
金融に手を出して全部が銀行であり、
日用品のメーカーでありみたいな、
一つの会社になっていく。
こんな時代に、そこの会社員であることが
ちっとも誇りでないとすると、
じゃあ結局また昔の野球選手のように、
いい家、いい酒、いい女、
そういうところにしか行けないんだとしたら、
なんの進歩もない。
これが現在の、いちばん提示しにくい課題なんですね。
「おまえはいいよな、でも金欲しいだろ」。
欲しいですよ、確かに。くれ(笑)。
だって仕事っていう遊びにもお金要りますから。
どっちを先に言うか、というだけのことなんだけれど、
金、ビジネスをすべてに優先させるのは、
企業の姿勢としても、個人の理念としても、
もう通用しないようになると思うんですよ。

さっきのお話の、
コスト削減できたことのおかげで
原田さんの夢はもう一歩近づきますし、
その意味でもいっぱい必要なんだけれども
目的は金そのものじゃなくて、
金は道具だと思うんですよね。すごい道具。
そこいらへんが次の時代の価値観になるんじゃないか。
そういう次の時代のイメージを、
僕はもう、持ちたいと思って持っちゃってますし、
何年か経てばどうせ死んじゃいますから。
そこそこのところでいいんですけど、

「今までのドリーム」じゃないドリームを
どう作っていくかっていうのを、いまは
いろんな人と話したいですね。
原田 山一証券のニュースが出たときに
社員のインタビューが、
ずいぶんテレビで報道されてましたね。
ある社員の方の答えがですね、
「これから家族と力を合わせてゼロからやり直します」。
これは典型的な昔のサラリーマンという感じなんです。
そこから出てきた発想だった。

「会社が支えてくれた」と思ってたのがあなたの間違いで、
そういう企業文化がこんな結果をもたらしたんだ。
家族と力をあわせてやってくのは当たり前じゃないかと。
やっぱり個人のプロフェッショナリズム、個人のバリューを
きちっと認識する機会を与えられないであそこまで来た、
可哀想な人だなって僕は思ったんですね。

じゃあ私が日本人として
「私のバリューってなんだよ」
って本当に言えるかっていうと、まだ不安感もあります。
日本人っていうのはもっともっと自分のバリューを
きちっと認識しながら、
自分のキャリアは個人で作っていくっていう
エネルギーをもっと持たないと。
日本の経済だって大変な時期に来てますけど、
どこ行ったらいいかわからないでしょ。

私はいろんな場で言ってますけど、小さい頃からの教育、
個人主義も尊重しなきゃいけない、
協調主義っていう日本の大変な資産があるわけですけど、
それ以上に個人主義も大切にしなきゃいけない。
そこからイノベーションが起こる、
知的所有権も起こるという。
会社の中でも、会議のしかたも、
まるっきり発想を変えなきゃいけない。
上司から評価されて昇級があってたくさん金もらって
家を建てるのがゴールだと思ったら大間違い。
ものを持った瞬間ほど虚しいものってありません。
糸井 あの「ゴール感」を変えていくっていうのことの可能性は、
きっと、ある一部の若い人の中には
すでにあるはずだと思うんですね。
原田 あります。
糸井 特に僕が見ている限りでは
30歳ちょっと上ぐらいの人たちと話してると、
ものすごい楽しいんですね。
あの世代って興味ありますね。
原田 実は昨日ですね、たまたまですが、
日本全国の販売店のトップの方々が500名集まられて
パソコンメーカーの代表がパネルをやる
というのがありまして、私はアップルで出たわけですね。
富士通さん、NECさんなども。
壇上からオーディエンスを見まして、
みんな私より年齢が高い、明らかに平均年齢は
私より高いです。
私がこう、じーっと考えたのが、
“新しいビジネスというのは
新しいライフスタイルができたときに成功している。
新しいライフスタイルに対する感性を持って
それを作っていくのはあなた方じゃなくて若者だぞ”と。
ここにいない若者だぞと。
“若者を大切にする”。
そういう発想でビジネスやっていかないと
「こんなオーディエンスで
ビジネスが伸びるわけないだろう」
って言いたかったんですけど(笑)。
糸井 言えなかったですか(笑)。さすがに。
原田 iMac売れてますんでね、注目浴びてますから
おとなしくしてましたけど、そういう部分ってありますよ。
ビジネスってのは、お金っていうのは結果であって。
ライフスタイルを創る。
新しいライフスタイルを創ったときに
成功しているわけですね。
そういう発想を持ってるのは若い人たちですね。
糸井 だいたいね、見ていると30から35歳くらいかなぁ、
一番面白いのが。
会社に対する忠誠心はない。
だけどこの会社っていうバンドを面白いと思っている。
そんなバンドマン感覚ね。
原田 うちの社員がね、典型的なそれですね。
この間ある大企業で講演を頼まれて行きました。
この会社で定年をむかえようと思っている方は
手を挙げてください。
ほとんど平均年齢30なんですけど、
周りの目を気にしながら手を挙げます。
うちの社員に聞いたら一人も手を挙げませんね。
たぶん笑うと思います。そういう質問をしたら。
そういう質問っていうのはナンセンスなんです。
良い悪いもちろんありますよ。
ロイヤリティっていうことも大切なんですが、
いい仕事をしてくれることがもっと大切であってね。
糸井 そうですか。アップルじゃ手を挙げないですか。やっぱり。
原田 (傍らの河南さんのほうを向いて)
過半数は定年むかえようなんて思ってないよね。
河南 まあ、いろんな意味がありますけど。
ちゃんと会社がそこまであるんだろうかとか(笑)。
でもだいたいみんなそうですね。
ここで一生過ごすよりは
「ここをバネにして何かやりたいな」
と考えてる人間が結構いますね。
(編集部註:河南さんは、アップルの
       マーケティング本部の部長さんで、
       原田社長に付き添って鼠穴にいらした。)
糸井 まるで座談会のようになってしまいましたけど
バネにして何かやりたい、の「何か」っていうのは
行き着くところは「個人」がリーダーになってやる
っていうイメージですか。
そのへんがちょっとまた面白いんですよね
原田 個人がリーダーっていうよりも
何かわくわくするようなことをやりたいと
みなさん思ってらっしゃるわけですね。
やりがいを求めてらっしゃるんですね。
アップル入ったら会社を「変えられる」かもしれない。
個人にとっての仕事という意味では
「何かわくわくするようなことができるぞ」
とみんな思ってるわけです。
わくわくするような仕事をする中で自分は経験を積める。
「もう一つこのインダストリーの中で
いい仕事ができるんじゃないか」
という希望を持ってますね。
糸井 そのチームがあった方が
今、自分を活かせる
っていう会社になってれば最高ですね。
原田 例えばですね、アップルコンピュータ、
何とかコンピュータとありまして、
全社、明日倒産します、放り出されます、と。
一番生存率高いのはアップルの社員ですよ。
糸井 ああ、その自信はいいなぁ。
原田 会社が無くなっても
自分の価値観変わらないと思ってますから。
糸井 生存率って概念いいですね(笑)。
原田 乱暴な言い方しましたけど。
糸井 そこまで乱暴に言わないとピンとこないですよね。
原田 (河南さんのほうを向いて)そうだよね。
うちの社員は辞めても強いです。どっかで頑張ってますよ。
糸井 自分もそうだし、っていうところですよね。
原田 うちの会社、変っていますかね、
社員が辞めますね、送別会がありますね。
昔辞めたやつまで送別会に来るんです。
糸井 何に似てるんだろう。学校かなんかにも似てるのかなぁ。
寮の暮らしみたいに聞こえますね。
原田 アップルという一つのコミュニティって言いますかねえ。
文化みたいなものですね。
たとえばアップルマッキントッシュに関わるビジネスに
関わってらっしゃる方の「対抗バンド合戦」
っていうのがありましてね、
「マックンロールナイト」というのが。
去年第5回をやりまして、
結構立派な赤坂ブリッツあたりでやるんですよ。
ちゃんとチケット売りましてね。
糸井 原田さんはドラムですか?
原田 私は私のバンドを作って、
昔は「Windows Breakers」っていう
名前だったんですけど、
今は「OS JAZZ」っていうバンド名で出てるんですが、
普通のコンサートと違います。コミュニティなんです。
みんなマッキントッシュの替え歌で歌ったり、
マッキントッシュは俺の人生を変えてくれたと。
爆弾が出て俺の人生いかに無駄にしたか。
「だけど俺はマックを愛するんだ」
っていう人たちの集団なんですよ。
独特の雰囲気ですね。
ある人は宗教団体って言ってますけど。
いい意味の宗教団体って場合もありますね。
糸井 宗教っていう言葉でしか言えないんですよね、
そういう感じって。
理念を同じくするだとか、
スピリットを同じくするっていうのは
国であろうが県であろうが、学校であろうが、
全部、宗教に似ちゃうんですね。

ですから僕ももっと若いときには
“宗教”っていう言葉を非常に毛嫌いしてて
とにかく「言われたらおしまいだ」
みたいに考えてたんですけど。
今はそれを「ある意味では宗教かもしれない」
って言っちゃえるほうが健全な気がするんですね。
家族だってもしかしたら「家族教」を持ってますし。
それ怖がってると何もできないですね。
結局、宗教をとにかく否定する人も、
じゃあ何なんだっていったら、
「狂信的なビジネス教」なんですよ、みんな。
原田 名古屋には名古屋教がありますね。
糸井 ありますね。
「ビジネス教」っていう一神教が今日本を支えてて、
稼ぎ出す人が偉いっていう仕組みになってる。
でも、そうじゃない価値概念も、無意識的に、
無数にあるわけでしょう、実際には。
みんなが見えないコミュニティを持っているみたいな。
この現実ってもうちょっと露わになっていく
必要がありますね。
原田 冗談でよく言ってるんですけど、
マックユーザー400万を越すんですね、日本で。
ユーザークラブに30万、60万の方が参加されてるんです。
私がマッキントッシュ党というのを作って
国会議員に立候補したら
一発で当選するんじゃないかっていうくらい
熱狂的なものがありますよ。
糸井 マック教っていうのは、
外から来る人に対してしてはどんな感じですか。
原田 もう、オープンです。
糸井 そこが重要なんじゃないかな。
原田 ご存じだと思いますけど、
iMacの購入者の14%がウィンドウズユーザーですから。
ワールドワイドで13%。
日本ではもうちょっと高いんですけど。
糸井 うちにもそういう人いっぱい来ますわ(笑)。
原田 パソコンを初めてっていう人が32%。
合わせますと45%が初めてマックを持つ。
それぐらいうちはオープンです。
糸井 結局おそらく、
「宗教です」って言い切っちゃった後に、
「しかし開いています」っていうこの一言が
きっとキイなんでしょうね。
原田 やっぱり
マックを触ったときの自分の気持ちが刺激される、
そこが魅力的な部分です。

( ここで携帯電話が鳴る 。次の約束の時刻になっていた)
糸井 ありゃりゃりゃ。すいません。お時間を考えないで。
原田 こちらこそ。まだ、話し終わってないですよねぇ。
・・・また、犬の散歩の時にでも寄らせていただきます。
しょっちゅう、ここは通ってますから。
糸井 じゃ、また、犬と。
(おわり)

1999-02-18-THU

BACK
戻る