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どんな場所を歩いたら
ものをつくることに役立つかというと……
「人目を気にしてつくられたもの」は、
ほとんど、参考にならないんですよね。
いちばん参考になるのは、
人に見られるとか、どう見えてほしいとか、
そういうもののない景色です。
東京でいうと、
たのしいのは、工場地帯だとか……
たとえば、モノレールから見る景色です。
あれが、あまりにもたのしいものだから、
昔、仕事がヒマだったときに、
品川からずっと歩いて羽田のほうまで
いったことがありました。
工場というのは、
「人からどう見られるか」
なんて、考えてつくっていませんからね。
そういう人工物が、見たいものなんですよ。 |
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「人がどう見えるか」でやっていることは、
言わば、記号を操作しているだけなんです。
「この記号を使うと、人にはどう見えるのか」
は、すでにパターンが決まっているでしょう?
それなら、あたらしいものはなにもないわけで。 |
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言わば、おおぜいの人に対して、
「シナ」をつくっている建築ですよね。 |
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そうです。
ところが、
人の目を気にしないで
つくられているものは、
クレーンをはじめ、
「なんで
ココにこんなものがあるのか
わからないけど、
コレがあることによって
きれいに見えているなぁ」
と、感じることができるんです。
ぼくにはわからないけれども、
投げだされるようにして
使われている素材も、ひとつずつ、
「安い」「安全」と、意味があるはず。
「こちらがわからない理由で
あるものが、とてもきれいだった」
この記憶が、いちばん重要なんです。
ルイ・ヴィトンの店舗デザインなんかでは、
だいたい、そういうものがヒントになりますね。
香港のルイ・ヴィトンの店舗の建築のときに、
ぼくは、香港に、いったことがなかったんです。
暑いところは、だめですから。
仕事をやることになったので、
まずは、香港に出かけてみるわけです。
町のバスに乗ったりしたけど、いちばん
たのしかったのは、古くからあるマンションで。
防犯上、鉄条網がついているんですけど、
その鉄のフェンスが、きれいなんですよ。
香港の人に
「あれ、キレイですねぇ」ときいたら、
「いや、アレは、ともかく
いちばんなくしたいものだ……」と。
でも、見られることを意識していない、
その鉄条網が、いちばん美しいんですよ。
それをもとにして、
ルイ・ヴィトンの店舗建築をつくりました。
もちろん、ずいぶん、変形させているから、
香港の鉄条網からできたとは、誰も思わない……。
質問されて、
「じつはあれは防御柵からできているんだ」
と言うんですけど。
人の目を気にしているわけではないけど、
そこに必要があってつくられてしまった……
そういうものの持つ美しさ、というのが、
いいですよねぇ。
結果的には、
ひとつのアイデアを
最も効果的に表現するために、
あたらしいマテリアルまでも
開発してしまうわけです。
ただ、ぼくにとっては、
そのときの「効果」こそが重要で……
「マテリアル」は目的ではないんです。
だけど、
マネをしやすいのはマテリアルだから、
マネした建築が、たくさんできてくる。
ぼくは、
自分の建築がマネされたものを見ても、
「おなじ素材だけど、ちがうよなぁ。
あたらしい素材は、いままでと
ちがう雰囲気をつくるためのものなのに」
と感じることが多いんです。
そのまま、マネしやすいところだけ
持っていっても、使えないですから。 |
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ひとつの口説き文句は、
ほかでは使えない、ということですよねぇ。
人は、えてして、
そのことを、無視しますけど(笑)。 |
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ええ。
言葉は、それだけでは自立していないですから。 |
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そうですよね。
言葉は、関係のなかにしかないものですもん。
こういう話ができること自体が、おもしろいなぁ。 |
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(次回に、つづきます)
2006-06-08-THU |