第14回 公共建築をつくるには


お金を出すクライアントを
「共犯」
と言えるところまでまきこめるのは、
建築のよさだよなぁ、と
つくづく感じました。

作家と編集のあいだでは、
そこまでの大金を
賭けていないですから、
「共犯」
とまで言いきれる関係は、
ないだろうし……。

そういう意味では、
「大金」って、
やっぱりスゴイものですねぇ。
会社のお金だと
ちがうかもしれませんが、
家をつくる人は、
「将来に稼ぐお金」
まで含めるわけでしょう?

その人が、
何十年間も住む場所ですから、
「住宅を頼まれる」ということは、
精神的には、すごい緊張するんです。
家の中では、
いろんなことが起きますから。
個人の住宅は、物語性が強いですねぇ……。
ほんとにそうですね。

公共建築の場合は、
頼んでくださる人たちが利用者ではなくて、
「誰が使うかは、あらかじめ見えていない」
という意味では、住宅とはまるでちがいます。

公共建築のつくりかたは、
ですから、やはり「理屈」でしかないんです。
だから、公共建築のほうが、
冒険的だったりするのでしょうね。

あれは、理屈でつくるから、なんだ!

「建築家がワガママだから
 ヘンなものをつくっちゃって」
みたいに、よく批判されますけど……。
(笑)そういうものも、多いですよね。
(笑)「この税金のムダづかい!」とか、
週刊誌に出る公共建築って、ありますし。

ただ、それでも「理屈でしかない」という
青木さんの言葉が、ただしいんですよねぇ……。
ええ。
理屈でやらないかぎりは、
趣味の問題になりますでしょう?

「赤が好きなんだ」
「いや、青が好き」

趣味で言いだしていたらキリがない。
理屈で「こうやります」と言えば、
方針が、決まりますから。
建築家は、理屈を仕事の道具にしないと、
なかなか、認めてもらえないんですねぇ。

公共建築のプレゼンというのは、
理屈を前に出していくものになるんですか?
特に、公共はそうです。
「この建築のルールは、こうです」
というのがないと、
ヘンになってしまいかねませんから。

ただ、理屈を説明するフリをしながら、
感情を刺激する、というのが実情かもしれません。
「いい」「悪い」と、プレゼンで判断する基準は、
やっぱり、感情ですからね。
なるほどなぁ。
ただし、通じないものごとも、あります。

つい1週間ぐらい前に、
「エコール・デ・ボザール」
というフランスの美術の学校から
「レクチャーをしてくれませんか?」
と言われて、話してきたところなんです。

「フランス人は、
 英語はうまくないから、
 英語で話しても通じない。
 だから日本語で話してください。
 それを、通訳して伝えますから」

ぼくにとって、通訳をしてくれるのは
はじめての経験ですから、
それはそれでうれしかったんですけど、
だから、ふだん、
日本でレクチャーをするような話をしたんです。

そうすると、
内容が、観念的になるんですね。

しかも、
通訳の人が通訳をしているあいだは、
ぼくには、
会場の顔が、見えちゃうでしょう?

そうすると、この人たちに、
どういうふうに通じているのかが、
よくわかりますよね。

そこでわかったのは……
「言葉としては
 ぜんぶ理解しているけど、
 まったく、わかってもらっていない」
ということでした。

やはり結局、ものごとには、
「通じること」と
「通じないこと」が、あるんですよね。

今まで、
「通じるだろう」と思っていたことは、
じつは、通じないことだった……
その経験では、すごく反省をしました。
青木さんが
アメリカで話すときとはちがっていたんですか?
英語では、ぼくは
簡単なことしかしゃべれませんから、
簡単な表現で言えることしか言いませんからね。
なるほどなぁ。
失礼な言いかたになりますが、
「低いレベルで
 ちゃんとやりとりができた」
ということですよね。
フランスでは、通訳がはいったぶん、
高いレベルで言えてしまったものだから……。
そうなんです。
上手に通訳してくれたんだと思います。
だけど、通じない。

レクチャーが終わってから
カクテルパーティーがありました。

韓国や中国から
フランスに留学している学生たちが、
うれしそうにやってきて……。

「最高におもしろかった!

 ヨーロッパに来て、
 いつも、ちがうんだ、
 こういうことなんだ、と思っていたことを、
 今日は、よくぞ、言ってくれた!

 フランスの人たちには、
 それは、通じないんだよ!

 通じないことを言ってくれて、
 すごく、うれしかった!」

よろこんでくれたことは
うれしいんだけど、
ぼくの言ったことも通じていない……。
(笑)
(笑)
それはそれで、不思議な体験でした。
おもしろかったです。
(次回に、つづきます)

2006-06-12-MON


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