糸井 |
いろんな見方ができると思うんですが、
『明日の記憶』というのは
すばらしいファンタジーであるというふうにも
いえると思うんです。 |
堤 |
ああ、はい。 |
糸井 |
まあ、受け取るほうは自由ですから
「あんなやつぁいねぇよ」って
簡単に言っちゃうこともできる。
でも、「いねぇよ」っていうやつを、
「オレはこれがいいと思うんだ」って言って
提示する力があれば、
そんなやつが現実にいようがいまいが
ひとつの作品ですよね。
たとえば、病におかされて壊れていく
佐伯という人を描くけれども、彼はあくまでも
映画という、つくりものの幅のなかで壊れていく。
それを「リアルじゃない」っていうふうに
批判することはできると思うんだけど、
「じゃあ、そうじゃない道っていうのは、
あなたはどう描くの?」
って問い返せるだけの、
ファンタジーがつくれたと思うんですよね。 |
堤 |
そうですね。
実際に医療の現場に携わる方から
厳しい言葉もいただきました。 |
糸井 |
そうですか。 |
堤 |
それはもう当然だと思いますね。
現実的な病気を題材にしてるわけですから。
象徴的な例をあげると、
終盤、佐伯が奥多摩に
ひとりで向かう場面があるんですけど、
専門家の方にうかがうと
「ひとりで電車になんか絶対乗れない」
とおっしゃるんです。
しかも、田園都市線の駅から
4つくらいの路線を乗り換えていくことは、
あの段階の病気の進行具合だと
まったくあり得ないんです。 |
糸井 |
ああ、ああ。 |
堤 |
でも、乗せたかったし、
乗せるべきだと思って、乗せたんですね。
ま、そこがファンタジーだと思うんですけども。
でも、それをやることにまったく恥はない。 |
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糸井 |
うん。 |
堤 |
逆に胸を張って、
これがほんとに必要な題材なんだってことは言える。
‥‥その心境、その境地に達するってのは、
これまでにない経験でした。
あの、ぼくはいままで、ずっと、
いろんなドラマや映画を撮ってきましたけど、
どこかで「恥じて」やっている部分も
あったような気がするんです。
照れくさいし、ウソだと思うけど、
求められているということもあるし、
どこかで自分を「まあ、いいか」と合理化して
つくってきたところがあるんです。
でも、この映画に関しては、
照れくささや恥じる感じというのは
ほんとうになかった。
なぜそんなふうに感じたかっていったら、
まあ、原因はいろいろとあると思うんですけれど、
いちばん強いものはなにかといったら、
ほんとうに、恥も外聞もなく、
「やれるんだ、やるべきなんだ」っていう
気持ちのほうが強かったっていうことなんです。 |
糸井 |
うん、うん。
「つくってる人が確信を持ってつくってる」
っていうのは、お客として観てても伝わってきて、
それがもう、ぼくはうれしかったですね。 |
堤 |
ああ、ありがとうございます。 |
糸井 |
だから、いまの時代って、やっぱり、
自分で自分につっこんで、
また自分でボケてみせて
っていうことのくり返しで、
「じゃあ、おまえって誰だっけ?」
って言われたときに
自分がいなくなっちゃうんですよ。 |
堤 |
はい。 |
糸井 |
で、そういう遊びかたっていうのは、
あると思うんですけど、
なんだろう、その‥‥
そういうふうに遊んでいても、
「夜中にふっと黙っている時間」
みたいなものはあると思うんです。 |
堤 |
ああ、ああ。 |
糸井 |
どういう時代であろうと、
その時間は、永遠になくなんないと思うんですよ。 |
堤 |
ええ。 |
糸井 |
その時間につくられるものって
世の中にはやっぱりあって。
『明日の記憶』という映画は、
その時間につくられたものだと思うんです。
「そんなものはねーよ」と言われるかもしれないけど、
「ないって言えばないけど、
あるものがすべてだとは
オレは言えないよ」って
言い返せる映画ですから。 |
堤 |
ええ、ええ、ええ。なるほど。 |
糸井 |
それはね、たとえば自動車が発明されて、
飛行機が発明されるまえに、
「翼があってプロペラがついてて
空飛ぶやつをつくったらいいだろうなあ!」
なんて言い出したとしたら、
自動車しかない時代には、
「ねーよ、そんなもん」
って言われたと思うんだけど(笑)。 |
堤 |
ええ、ええ(笑)。 |
糸井 |
その、「ねーよ、そんなもん」
って言われるようなもので、
「でもあったらいいじゃん」
というものをつくることが、
ものすごっく大事なことだって、
いま、ぼく、思うんです。
それは、「バカ!」って言われるんだけど(笑)。
みんなが思いつかないようなうれしい話とか、
「こうなったらいいじゃん」っていう理想とか、
現実に則さない、いいもの。
「ほんとにできるんだったら、
オレはそれがいいんだよ」
っていうものを出す力だけが、
いまを引っ張っていけるんじゃないかと思う。 |
堤 |
なるほど。 |
糸井 |
あの映画を観て、
そういう気持ちのほうまで満たされたというか
‥‥うれしかったんですよね。 |
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堤 |
ありがとうございます。
(つづきます!)
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