From: 糸井 重里
To: 渡辺 謙
Subject: 『明日の記憶』とつきあう。

渡辺謙さま

いま、金曜日から土曜日になって
4時間ばかり経ったところです。
寝ようかというところで、メールを開きました。
ゆっくり、週末に返信を書こうと思ったのですが、
ほんのちょっとだけ、
いましか書けないことを書いておこうと思います。

堤幸彦監督と、今日、お会いしたのです。
それが、ほんとうによかったのです。
お話をしていたら、たがいに会うのは3度目だとわかりました。
人が人と、3度会ったくらいで何がわかるのか、
という言い方もあるでしょうが、
できるかぎり正直に、できるかぎり伝わるように、
できるかぎり理解しようとして話すと、
相当なところまで通じることがある、と、
そう思いました。

この渡辺さんとのメールもそうですが、
一所懸命のコミュニケーションというのは、
ほんとうにたいしたところまで、行けてしまうものですね。

それにしても、渡辺謙さんという触媒がなかったら、
ぼくと堤さんの間には、今日のような交通は
なかったんだろうと思います。
渡辺謙さんという
(エグゼクティブ・プロデューサーでもなく)人間の、
裸で全力疾走するような生き方が、
いろんなものごとや、人を、ぐいぐい変えています。
なんだか、愉快です。

今日は、おおげさに言えば12年かかった仕事が、
とうとう、ぼくらの手を離れた日でした。
もう、工場でつくりだされていくだけです。
手出しもできませんし、後悔も許されません。
うれしいし、さみしいし、ほっとした1日です。
そんなことも含めて、深夜に話しかける相手がやってきたので、
つい、とにかくメールを出すことにしました。

本題に関わることは、また、明日か明後日かに、
ゆっくり書こうと思います。
すいません。

ありがとうございました。

そうだ。
ほぼ日刊イトイ新聞のこの映画に関する連載のタイトル、
さっき、決めました。
ーーーーーーーーーーーーー
『明日の記憶』とつきあう。
ーーーーーーーーーーーーー
です。
ちゃんと、つきあっていくつもりです。

2006-04-23-SUN



(C) 2006 Hobo Nikkan Itoi Shinbun