From: 糸井 重里
To: 渡辺 謙
Subject: 海に外も内もあるものか。

渡辺謙さま

糸井重里です。

「翻訳」や「外国の観客」のお話を
そのまま、「わぁ、いいなぁいいなぁ」と
手を叩きながら読みました。
渡辺謙というエグゼクティブ・プロデューサーが、
というより、「ひとりの渡辺謙という人」が、
この『明日の記憶』という映画を、
より多くの人たちに通じさせたいと思った。
そこまでは、知っていましたが、
こんなに具体的に進行していたとは、
まったく知りませんでした。
いい気になってわっしょわっしょい言うのも、
判断を狂わせてしまうかもしれませんが、
世界中でうまく行きそうな気がしてきました。

先日も、映画会社の方々に、
「これは当たっちゃうよ」と、つい断言してしまいました。
その理由は、「関わった人が、手伝いたくなるから」という
なんだかわかったようなわからないようなものでしたが。

海を越えても、同じような反響があるんですね。
もちろん、1200ものセリフを、いちいち
肉体をつかって発した俳優をまじえて考えていくという
ものすごい時間があったからこそなのかもしれませんが、
「そりゃ、そうだろうな」と、妙に納得しました。

日本にいるぼくらは、外国から来た映画を観て、
当たり前のように心を動かされて、よろこんだりしています。
それについては、誰も不思議に思いません。
それと、まったく同じなんでしょうね。
日本でつくった映画が、海外で、
当たり前のように人の気持ちに訴えかける。
それを信じてぶつかっちゃったら、いいんですね。
ついつい、海外だからどうのこうの、と、
変に味付けを変えてしまったりして失敗したものも
けっこうあるもんなぁ。

『明日の記憶』については、アメリカ映画の娯楽性と
ぴったりしているかどうかはわかりませんが、
テレビドラマシリーズのファンには、
必ず伝わるものになっていると、ぼくには思えます。
(逆みたいだけれど、そんな気がしたんです)

まだ、どこでも配給されてない時点ですが、
なんだか、この映画の「人を巻き込む力」に
賭けてみたいと、そんな気分が、
いま日本にいる関係者たちのなかにはあると思います。
ぼくも、そのひとりです。

オマケです。
そういえば、ティム・バートンの
『コープスブライド』というアニメ映画を観て、
日本人ですが、いま、ぼくは相当におもしろがっています。
岡本太郎の大壁画『明日の神話』という作品をみて、
中沢新一さんが、「イトイさん、コープスブライド、観た?」
と、言ったのがきっかけで観たのでした。
『明日の神話』のテーマと近いものがある、と。
で、観たのですが、おもしろかったですねー。
生と死とを超えた「たましい」の物語、という感じで、
ぼくは観ましたが、それこそ、登場人物たちが、
境界の上に横並びに座っているんですよ。

では、砲弾にご注意を!

2006-05-09-TUE



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