From: 糸井 重里
To: 渡辺 謙
Subject: Re: 自分

渡辺謙さま

糸井重里です。
撮影の「ほぼ」終了とのこと、自分のことではないのに、
なんだかほっとする思いです。

ぼくのほうも、なんだかこのメール交換が
微妙に継続しているようです。
『明日の記憶』のエグゼクティブ・プロデューサーであり、
主演俳優である渡辺謙という人の、
その直前の道のりに興味を持ってしまいまして、
映画『バットマン・ビギンズ』や、
その監督のクリストファー・ノーランの『メメント』や
『フォロウィング』などを仕入れて観たり、
遅ればせながらクリント・イーストウッド監督の
『ミリオンダラー・ベイビー』を観たりしています。
イーストウッド監督ファンの友人が、
彼の演劇学校でのインタビューの録画も貸してくれたので、
これからそれを観ようと思ってます。

いやいや、追っかけをやるつもりもありませんし、
ぼくはもともとあんまり勉強家ではないので、
そのうちやめると思いますが、
『明日の記憶』という映画の主成分である、
「渡辺謙」という人間のつくられ方に、
なにか、ぼくらのこれからの道を行くためのヒントが
あるような気がして、知りたくなっているのです。
すいません、勝手に余計な思い入れをしていて。
一冊のとても興味深い本を読むように、
「渡辺謙」を読んでいました。

そこに、具体的に本が出るというお話。
待ってましたというくらいの偶然、おもしろいものですね。
待ってました、という気持ちです。
しかも、『明日の記憶』をやったことが、
それを書かせたということ、なんだかわかる気がします。
「自分」という材料を、徹底的に使って、
もっと大きな豊かな表現に関わりたいというような、
そんなふうな気持ちに思えます。
いちばんよく知ってるはずで、いちばん謎のおおい素材が、
「これここにいる自分」だもんなぁ。
たのしみに待ちます。

ぼくのほうの週末は、このところ
「チーム」のことばかり考えていたので、
ひさびさに個人のぶらっとした感じを味わっています。
家のなかの女優が、外の仕事をしている時期なので、
犬とべったりいっしょに過ごしています。

さて、クリント・イーストウッドの番組を観よう。
それにしても、この人、
『ローハイド』から知っているぼくには、
驚きそのものの人物です。
俳優って、まともに続けていると、
ここまで行けちゃうものなのか、と。

さぞかしお疲れのことと思います。
「のんびりした週末」というやつを、味わってください。

2006-05-11-THU



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