阿曽山大噴火さんと 裁判に行こう!
裁判という場では、型にはまった答弁のように 事実が淡々と述べられるのだと思っていました。 でも、ちがいました。 法廷にいる被告人、弁護人、裁判官、検察官。 裁き裁かれる4者がひとつのチームのようになって 未来を見据え、結論をみちびくようすは 活気あるミーティングとドラマを足したようにおもしろい! 裁判傍聴のプロフェッショナル、 阿曽山大噴火さんが案内役をつとめます。
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傍聴終了
今回の、3件の傍聴が終了しました。
案内役の阿曽山大噴火さんと
はじめての傍聴を体験した我々「ほぼ日」スタッフは
東京地裁近くの公園で、今日を振り返ります。
   
 

今日傍聴した裁判は、すべて
いつ自分が犯しても、また、自分に起こっても
おかしくない事件ばかりでした。
   
 
報道されるものはやっぱり
極悪非道なものが中心ですからね。
 
 
   

今日は窃盗と
住居侵入、占有離脱物横領でした。
   
 
たしかに、今日の被告人は
似たような境遇の人たちでした。
でも、ひとつとして同じ事件はないですね。
 
 
   

ニュースやドラマで見る法廷とは
イメージが違い、驚きました。
   
 
そうなんです。
法廷もののドラマは
ほんとうによくできているんですが、
今日みなさんはおわかりになったと思うけど、
本物って、もっと
グダグダだったりするんです。
だって、今日の3件めの事件で、
「被害者が鍵の入ったカバンを
 ドアの近くにぶらさげておく」
って、ふつうのドラマだったら
筋書きとして、ありえないですよ。
でも、それが現実なんですね。
 
 
   

また、今日の傍聴では、
被告人の「これから」について
たっぷり尋問をすることも印象に残りました。
   
 
実刑が下らなければすぐに
社会復帰しますから、
「二度と同じことをしないように」
ということは
とても重要になってくるんです。
 
 
   

そのときの裁判の印象が
被告人にどう残っていくかが大切なんですね。
ところで、日本でもうすぐ
裁判員制度というものが導入されますが。
   
 
裁判員制度は、
アメリカの陪審員制度とは
しくみも考え方も違うので、
みなさんも、
よく知っておくといいと思います。
2009年の5月までにはじまりますよ。
あと2年半を切りましたね。
1年数ヶ月後には、みなさんのお手もとに、
ハガキが届く可能性があるんです!
 
 
   

うわー、ドキドキするな。
阿曽山さんに、ハガキが届いたら?
   
 
そりゃ行くでしょう、
だっていちおう義務なんですから。
でも、自分が裁判員やっている時間に
別のおもしろい裁判を
やってんだろうなあと思うと
そわそわするでしょうね。
裁判所には来ているけど
行きたい法廷が違う!
ってことになりますから。
 
 
   

阿曽山さんはやっぱり、
裁判傍聴がお好きなんですね。
ほんとうに毎日いらしているんですか?
   
 
ええ、「週5」です。
朝10時から夕方4時か5時まで。

「どうしてこんなことをしたんだろう」
ということを
被告人が直接自分の口で話したり、
状況や根っこにある原因が
弁護人や検察官、裁判官によって
その場で解き明かされていくんです。
裁判傍聴ってすごいですよ。

 
 
   

今日、ちょっと思ったのは、
弁護人は被告人に有利なことを
明白に述べるのかと思っていたんですが、
必ずしもそうではないんですね。
   
 
いろんな作戦があるでしょうけど、
今日のような弁護スタイルが多いですね。
罪を認めている場合は、
悪いことをやってしまったね、
悪いことはわかってるんだろうけど、
くだらないことやっちゃったね、
という運びはよくあります。
あとは、弁護人が尋問で
「こんなひどいことをやって!!」と
先に被告人を怒っちゃうことで
あとでほかの人が怒りにくくする、
というケースもあります。
あ、でもね、静岡地裁かどっかで
20歳くらいの男の、
すごい身勝手な犯罪の裁判を
傍聴したときのことですけどね、
弁護人が尋問で
ものすごく被告人を怒ったんですよ。
「ああ〜この作戦ね」と思って聴いていたら
次に検察官もものすごく怒って、
さらにに裁判官もものすごく怒った、
という、まあ、
かわいそうな若者がいました‥‥。
 
 
   

それはすごい‥‥
ところで、弁護人は
それぞれの被告人が依頼するシステムですから、
毎回違うと思うのですが、
検察官と裁判官は異動があるまでは
基本的に同じ法廷なんですね。
   
 
ええ。検察官と裁判官は変わりませんから、
ずっと見ていると
ああ、この検察官はこういうふうに言うよ、
というのがわかってきます。
 
 
   

2件目の、梅宮辰夫さん似の検察官が
印象的でした。
   
 
ああ、あの人、いい人なんだよなあ。
あの人の裁判で、
これまでおもしろかったのは、
工事現場に置いてあったトラックの
助手席のドアを開けて
カバンを盗んだ被告の裁判です。
カバンの中に、デジカメが入ってたんですよ。
で、あの検察官が、被告人に
「あなた、そのカバンの中に
 デジカメが入っていると思っていたの?」
と訊いたんです。
そしたら被告は、
「いや、女性の下着が
 入ってるかと思いまして」って。
 
 
   

なんで下着が!
   
 
以前、道路で拾ったバッグに
下着が入っていたことがあったらしいんです。
で、検察官が
「あなたそういう趣味があるの?
 ちょっと待ってよ?」
とこれまでの資料をめくって
「よくわかんないけどさあ、でも、
 そういう趣味があるんだったら
 コインランドリーに行くでしょ、
 ふつう」

って言ったんです、あの人が。
 
 
   

すごいアドバイスを。
   
 
そう、犯罪を助長してどうする!
それになにが「ふつう」なのか
よくわかんない(笑)。
 
 
   

検察官も裁判官も弁護人も
「ふつう」という言葉をわりと使うんだな、
と感じました。
「ギャンブルで家を建てる人なんて
 ふつういない」とか。
   
 
言っていましたね。
 
 
   

手もとに六法全書が積んであるのに、
もっともあいまいな「ふつう」という言葉で。
   
 
そうなんですよね、
もちろん法律で裁かれるんですが、
裁判でのやりとりは、
やっぱり常識で勝負なんですよ。
でも、俺はそれが
いいような気がするんです。
小むずかしく
「法律に照らし合わせると」というよりは、
人として裁いているんだ、ということが
現れていていいと思います。
 
 
   

伝わる言葉で、話していましたね。
ところで阿曽山さん、あたりがすごく
暗くなってきました。
   
   
 
ほんと、裁判の話をしだしたら、
きりがないんですよ、俺は。
 
 
   

はい、今はよくわかります。
傍聴した裁判のことは、
いつまでも話せますね。
動画用のカメラも、
もう真っ暗で撮影できなくなってきましたので、
そろそろ終わりにしたいと思います。

最終回の今日は、
たっぷりめの動画です!
注目の、裁判員制度についての
お話も出てきますよ。

   
   

これで、阿曽山大噴火さんの案内による
裁判傍聴の連載はおしまいです。
ご感想など、よろしければどうぞ
postman@1101.comまでお寄せくださいね!
   
 
2007-01-26-FRI