HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN いまの時代のナポレオン。厚切りジェイソン(ジェイソン・ダニエルソン) × 糸井重里
4 ポーキーになったかも。
糸井:
いま29歳で、この先ジェイソンさんが
考えてるビジョンってあるの?
ジェイソン:
いろいろ考えてますけど、
ひとつは、オリンピック開催までに、
メディアに出る代表的な外国人のひとりに
なれたらと思っています。
糸井:
なるほどね。きっと需要も増えるし。
ジェイソン:
あと、この本にも書いているんですが、
日本の教育をよりグローバルに合わせるのに
貢献できたらと思ってます。
糸井:
そこは、奥さんが日本人ということで、
日本をよくしたいという気持ちがあるんですか?
ジェイソン:
‥‥あのですね。
糸井:
「あのですね」。
激しい日本語出てきましたね(笑)。
ジェイソン:
(笑)。
たぶんぼくは「ナポレオン・コンプレックス」
‥‥と言ってわかりますか?
自分がものすごい偉大なことをやらないと
気持ちが悪いというか、落ち着かないというか。
糸井:
ナポレオン・コンプレックス。
ジェイソン:
ええ、ぼくはすこし極端なところがあって、
「自分が生きたことで世界が変わりました」とか、
ものすごく大きいことがやりたいんです。
そしてそれには、たまたま芸人として
一気に知名度が上がったいまがチャンスだと思ってて、
この機会を生かしたいんですけど。
糸井:
そういう考え方の人が、多い環境で育ったの?
ジェイソン:
おそらく周りの1割ぐらいは
いつでもそんな感じだったと思います。
同級生や元同僚の多くが
シリコンバレーで会社を創業してたり、
それぞれにいろんな他の国に出かけて
世の中の役に立とうとしてたりしますから。
糸井:
ナポレオンだらけ。
ジェイソン:
ナポレオンだらけですかね。
なんだかいまの時代、
普通に仕事して引退して死ぬだけだと、
人生になにかが足りない気がするんです。
そういう話は友達とよくしてました。
糸井:
そういう考え方って、
どこかから流行ってきたと思わない?
ビル・ゲイツとか、マーク・ザッカーバーグとか。
ジェイソン:
かもしれない。
ザッカーバーグはジェイソンより2歳上ですけど、
彼の存在は、すごく悔しいんですよ。
ライバルというのとは違うけど、
「自分だってできたはずなのに」と思うんです。
やってることを見ていると
「もっと自分も、なにかしないとだめでしょう」って
引っ張られるような感じがあるんです。
糸井:
ぼくらの年齢だとビートルズが出たときに
「あの年でそんなことができるのか」って
みんながギターを買ったんだけど、
その感じと近いのかな。
ジェイソン:
そうかもしれないですね。
糸井:
当時は、そういうナポレオン的な思いの出口を、
みんなが「音楽」という場所に見い出してたんです。
だけどいまの時代は、
ビル・ゲイツのように企業を作って稼ぐほうが
より魅力的になったんでしょうね。
ジェイソン:
音楽でなにかしようと考えてた人は
ぼくの同級生にはひとりもいなかったです。
ITだと、資源とお金が限られててもスタートできて、
いいアイデアがひとつあれば、
ブワーッと広がっていけますし。
いま、実際にいろんな前例もありますから。
糸井:
そうだね。
ジェイソン:
特に大学でコンピューター・サイエンスの
勉強をしてたりすると、卒業後は、
ほとんど全員がシリコンバレーで会社を作ります。
糸井:
ジェイソンさん自身が行っていたのも、
そういう学校ですか?
ジェイソン:
ぼくの大学での専門は
コンピューター・サイエンスでした。
糸井:
きっとそこでも、
あるていど優秀な人だったんだよね?
ジェイソン:
学士はミシガン州立大学だったので
そこまででもないですけど、その後、
修士をとるためにイリノイ大学に行きました。
イリノイ大学は、コンピューター・サイエンスで
世界4位のところなんです。
だから、そういう欲があって行きましたね。
糸井:
「もしかしたら俺、できるかも」みたいな?
ジェイソン:
そこは「できるかも」じゃなくて、
「行くために勉強するぞ!」という感じでした。
実際にそこにいた人々もみんな
「最前線に行くのが当たり前」と考える人ばっかりで。
糸井:
たぶんいま、いちばん強いことをやりたい人は、
そこをやろうとする時代なんだね。
いまの時代だからキーボードを叩いてるけど、
ローマの時代だったらきっとジェイソンさんや
まわりの人はみんな、戦士になって刀持ってて。
ジェイソン:
そうだと思います、それはいい例えかも。
糸井:
あのニュースはどう思った?
マーク・ザッカーバーグがFacebook保有株の
99パーセントを寄付するという話。
ジェイソン:
まあ、偉いですよね。5.5兆円ですから。
そしてザッカーバーグなら、
99パーセントを引いた残りの1パーセントでも
個人としては十分足りてると思います。
そして世界を、もっと良くしていこうとしてる。
そこは影響を受けますね。
糸井:
しかも、寄付先も自分の財団だから、
いわば政府の代わりができちゃうんだよね。
ジェイソン:
そうですよね。
糸井:
ぼくは、お金をいっぱい持つことの意味は、
「配り手になれる」ってことだと思うんです。
官僚になって政治に携わる人も、
「政治」という形で配り手になるわけですよね。
だけど、いまは政治をやるより、
企業にいるままのほうが、自分の思いどおりの
配りかたをできるんですよね。
だからいま、そちらにシフトが来たと思うんです。
ジェイソン:
そうでしょうね。
ザッカーバーグはまさに、どうそのお金を使うかを
自分たちでコントロールできるから。
糸井:
いまの時代、王様になる必要もないし。
ジェイソン:
そうですね、王様になる必要はないですね。
糸井:
ジェイソンさんもそうですよね?
ジェイソン:
はい、ぼくも王様になりたいとかはまったくないです。
なんと言うんでしょう、
ぼくはもともと欲望がすごく強くて、
前はできるだけ出世したかったけど、
いまはもう、その部分は十分だと思ってて。
「そのときやりたいことだけをできてたらいい」
みたいな感じ。
本当に自由が最優先。
お金はあまり気にしてないです。
糸井:
自由が保てるだけのお金があればいい?
ジェイソン:
そうですね。
ザッカーバーグほどじゃないけど、
不自由にならない程度はあるから。
これ以上お金が増えても自分の自由は増えないし、
それなら別にいらないよ、と思うんです。
糸井:
だけどたとえばの話、もし、
「どうしても宇宙ステーションを打ち上げないと
やりたいことができない」
となったら、お金が必要になるじゃないですか。
ジェイソン:
そうですね。
まさにイーロン・マスクとかは、
そういうことをしている感じですね。
糸井:
『MOTHER2』ってゲームの中では
ポーキーっていう子が、
どんどん、どんどん、そうなっていって。
ジェイソン:
なりましたね。
ポーキーはどんどん大きな欲望を
追いかけていくんですよね。
糸井:
そう。さらに『MOTHER3』に至ると、
最後は自分が永遠に生きられるカプセルに入って
病気もしないで生きていくんですけど。
‥‥だけどカプセルの中だから、孤独で。
ジェイソン:
悲しいですね。
糸井:
だから、欲望を追いかけていったあと、
こんどは「孤独にならないようにするもの」が
欲しくなるっていう。
ジェイソン:
わかります。
糸井:
あ、わかる?
ジェイソン:
まさに、ぼくもいちど出世を追いかけて、
‥‥ポーキーになったかも。
糸井:
あぁー。
そうなんですよね、きっとジェイソンさんがいま
「お笑いをやりたい」「人にウケたい」というのは、
その結果なんじゃない?
権力とか、お金でやれることじゃなくて、
「みんなに自由に笑ってほしい」
というのが欲しくなったわけですよね。
ジェイソン:
そうですね。はい。
糸井:
ぼく、それはいいことだと思うんです。
だって、それをするには
「みんなが喜ぶこと」をしなきゃいけないわけだから。
いいことしないと、人は喜んでくれないし、
支持してくれない。
だから、ジェイソンさんはこの先もっと
みんなが喜ぶことをやっていく。
出世欲の結果でそこにたどり着いても、
もともとみんなに喜ばれたくてやってても、
それはどっちでもよくて。
ジェイソン:
そうですね。
その、来た道はどっちでもいい、という感じも
わかります。
糸井:
わかりますか。
ジェイソン:
ええ。わかります。
糸井:
おもしろい、
あなたは予想通りおもしろいですね。
ナポレオンになればいいよ。
ジェイソン:
ありがとうございます。なりたいですけどね。
糸井:
すごいちいさなナポレオンだっているしさ。
力はすごく発揮できるんだけど、
人から見えないナポレオンもあるよね。
そういうのもあるし。
ジェイソン:
そうですね。具体的なやりかたはまだ、
はっきり見えていないんですけど。
<つづきます>
2016-03-04-FRI