PHILADELPHIA
湖上のハスラーたち。

第1回
「人はなぜバスフィッシングにはまるのか その1」


どーも、はじめまして。
雨貝健太郎(アマガイケンタロウ)といいます。
バスフィッシングのライターをしてます。
アメリカ合衆国で開催されている
バスフィッシングトーナメントを
昨年の8月から追いかけてます。



最近はバスフィッシングも
ずいぶん知名度があがってきたんで、
これを読んでいる大部分の方は「バス」が
「bus」じゃなくて「bass」を指しているのも
ご存じでしょう。
そう、バスフィッシングは「バス」という北米原産の
淡水魚を専門に狙う釣りのことです。

ボクがこの世界に入った頃
(かれこれ十数年前の大昔)などは
バスフィッシングと言っても皆「?」顔でしたが、
世の中、変わるもんですよね。
当時はまだバスフィッシングのライターが
職業になるなんて考えられなかったんですが……。
それもこれも、きっとバスフィッシングが
とっても面白いからでしょう。
ボク自身、バス以外の釣りもしますが、
やはりバスは特別だと思います。

で、何がどう面白いのかっていうと、
まず、場所探しから始めなければならない
というのがひとつ。
バスは淡水魚で、強い水の流れを嫌いますから、
住んでいるのは主に湖や沼です。
日本でいえば、琵琶湖や霞ヶ浦、箱根の芦ノ湖などは
有名な釣り場なんですが、「場所探し」と言ったのは、
たとえば芦ノ湖ならどこでも釣れるわけではないってこと。
といっても、湖尻では釣れるけど、
箱根湾じゃ釣れないって意味ではありません。

ここで言う「場所」というのは、
湖底の地形的な変化や水深のことです。
たとえば、「今日は岬のサイド、水深4mで
4本釣れたよ」なんて言うわけです。
それに対して別のバサー(バス釣りをする人)は
こんなふうに言うかもしれません。
「バンク(岸)のシャロー(水深の浅いところ)を
やってみたけどダメだった」

おそらく、この日のバスは岸近くの浅場ではなく、
やや深いところにいたのでしょう。
こんな感じで、バスはその日その時の状況に合わせて、
より快適な場所へ移動してしまうんです。
ちょうど人間が暑い夏の日には
外に出たがらないのと同じでしょう。
ですから、的外れな場所で釣りをすると、
まったく釣れない可能性もあります。

それが腕の差になるわけです。
バスフィッシングの上手い人は
決まってこの場所探しが得意で、
大自然の微妙な変化を読みとる術に長けているようです。
8月下旬の風に早くも秋の気配を感じられるようなら、
もしかすると、あなたも
バスフィッシングの素質があるかも。

ちょっと余談になりますけど、
「場所探し」が大切なのは
別にバスフィッシングだけではないんですね。
「場所」というのを、どう定義するかの違いはあっても、
すべての釣りはやはり「場所」がカギになってます。
それは渓流のヤマメ釣りでも海のマグロ釣りでも一緒。

海釣りで、よく「イイ漁場」って言われる海域が
ありますけど、あれにしたって、その日の潮の流れ方で
魚はずいぶん動くんです。
上手い漁師さんや船頭さんは、
その魚の動きを読めてしまう。
ただし、海の沖釣りとバスフィッシングでは
大きな違いがひとつあります。
沖釣りでは船頭さんが釣れる場所へ案内してくれますが、
バスフィッシングでは船頭さんがやっていることを
自分ひとりでやらないといけない。

「ここならタイが釣れるよ」と船頭さんが
太鼓判を押している場所ですから、
そこには間違いなくタイがいるわけです。
だから、この場合の釣り人の腕は、
そこにいるタイをいかに釣るかという部分にかかってくる。
釣果の差をもたらすのは釣り糸の細さかもしれないし、
エサの付け方かもしれませんが、
いずれにしても、いわゆる名人の真似をすれば、
それなりにタイは釣れてしまう。
タイならタイ、カワハギならカワハギと、
ひとつの釣りに何回か通えば上手になるでしょう。

だけど、バスフィッシングの場合は、
自分が船頭さんでもあるわけで、
まずどこがその日の「場所」なのかを探すことから
始めなくてはならない。
タイ釣りにしても、ひとりで船に乗って
場所探しから自力でやったら、きっと相当難しいはずです。

もしかすると、湖という器の規模が
ちょうどいいのかもしれません。
川では狭すぎるし、海では広すぎる。
1日8時間から12時間の間に探れる広さは
だいたい決まってますから、
川だと「イイ場所」はすぐに分かってしまう。
分かってしまうから、釣り人の関心は
いかに釣るかという部分に集まる。
水が濁り気味の日はこのエサを使って、
こう流すとよく釣れる、とか。

海だと今度は反対に広すぎて
とてもひとりでは手に負えない。
そこで船頭さんに場所を案内してもらうことになり、
釣り人の関心はやはり、いかに釣るかの部分に集まる。
結局のところ、たいていの釣りの場合、重要なのは
「いかに釣るか」っていう技術的な部分なんです。
いわゆる「釣り名人」と言う時も、そこにいる魚を
釣る技術が優れた人を指しているのであって、
決して場所探し名人という意味合いは
含まれてない気がするんですね。

ところが、湖が舞台のバスフィッシングでは、
「場所探し」と「いかに釣るか」を
自分ひとりで同時進行させるんです。
たぶん、湖だと、釣り場の広さと
1日という時間の比率がちょうどいいのでしょう。
といっても、河口湖と琵琶湖では
ずいぶん大きさが違いますけど……。

話が横道に入ったまま右往左往してしまいましたが、
今回はこのへんで終わりです。
本当はこの後でバスフィッシングの面白さの
2つめを話そうと思ったんですが……。
それはまた別の時に。

そうそう、つい、この間ですが、ボクが追いかけている
バスフィッシングトーナメントのシーズン初戦が
デトロイト近郊の湖で行なわれました。



9月の中旬には第2戦がバーモント州の
バーリントン近郊の湖で開かれます。
ボクも今日、バーモント入りしたところです。
デトロイトよりバーモントのほうが
緯度は高いはずなんですが、なぜかこちらのほうが暑くて、
日中は華氏で90度を超えてます。
聞けば、今夏は干ばつでずいぶん長いこと
雨が降っていないようです。
デトロイトからの移動中に立ち寄ってみた
ナイアガラの滝がいまひとつだったのは
もしかすると水量が少なかったからかも。



次回は、デトロイトで開かれたトーナメントと、
そこで活躍している日本人バサーたちの
話をする予定です(たぶん)。

1999-09-18-SAT

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