自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

Cycle Messenger World
Championshipsに来ています 後編


日本に帰国してようやく落ち着きました。
自転車思想の第4回は、
CMWC(メッセンジャー世界大会)の後編です。

年に一度、700人以上のメッセンジャーたちが、
世界のどこかに集まって何をやっているのか?
チャンピオンシップというくらいなので、
レースをやっているというのは想像できますね。
じゃぁ、どういうレースをやるのか?
そこからスタートしましょう。
(ちょっと説明長いです。ゴメンナサイ。)

CMWCで行われる競技は、基本的に以下の6種です。

・メインレース
・スプリント
・バニーホップ
・トライアル
・トラックスタンド
・トラックスキッド


ざっと説明すると、
メインレースは実際のメッセンジャーの仕事、
つまり荷物をピックアップし、デリバリーする、
というもののシミュレーションです。
細かいルールもたくさんありますが、ここでは割愛。
これは2日間に渡る予選と、
4時間(!)にも及ぶ決勝があります。

スプリントは単純明快、
短距離をだれが一番早いタイムで走るか、です。

バニーホップ
これは自転車で行うハイジャンプですね。
優勝者は1メートル近く飛びます。



この写真の時点ではバーの位置はまだ低いですが、
競技者はそのはるか上を飛んでいますね。

トライアル
これはいわゆる曲乗りです。
スクラップ寸前の自動車を使って、
そのクルマに乗り上げたりもします。
(そして、最後にクルマを壊したりもします。)

トラックスタンドと、
トラックスキッドは細かい説明が必要ですね。
トラックバイクという自転車の種類があります。
基本的には、自転車競技場でのレース専用です。
日本の自転車乗りの方には、
固定ギアとか、
ピストという名前が馴染み深いかもしれません。
競輪用の自転車ってご存知ですか?
あのブレーキの無いやつです。
アマチュアレベルでも、
専用トラックを使った自転車競技が盛んな欧米では、
日本と異なり、一般の自転車屋さんでも、
この手の自転車を販売しているのです。

普通の自転車の場合、
こいでる最中にペダルを回すのを止めても、
そのまま自転車は前に進みますよね。
いつもいつもペダルを回している必要はありません。
これをフリーギアといいます。

これに対し、固定ギアというのは
ペダルと車輪の回転が完全に固定されています。
走ってる限り、ペダルを回し続ける必要があるわけです。
たとえば、坂道を下る時、普通の自転車だったら、
ペダルを止めてもドンドン加速していきますが、
固定ギアの場合、下る勢いに合わせて
ペダルを回し続けなくてはいけません。
というか、強制的に回される羽目に陥ります。

じゃぁ、どうやって止まるのか?
問題ですねぇ。
前に進みながら、普通にペダルを回転させる方向と
逆方向に徐々に力をかけていけば減速していきます。
一輪車に乗ったことのある人なら理解しやすいでしょう。
そして、一輪車と同様に停止した状態で
ペダルを逆に回転させれば、そのままバックもできます。



で、これがトラックスタンドです。
立っています。ただただ立っています。
ある意味非常に平和な光景ですが、これも競技なのです。
普通にやってると延々続いてしまうので、
途中で一斉に手をハンドルから放したりもします。
バランスと筋持久力が勝負ですね。

最後にトラックスキッド
固定ギアの自転車に乗って、重心をグッと前輪に移動します。
ペダルと固定されている後輪にかかる荷重は、
当然減少していきます。
そこで足を踏ん張ってペダルの回転を止めると、
路面との摩擦が低い競技用の細いタイヤは、
路面をグリップしなくなり、スリップし始めます。
で、どこまでスリップしながら長距離進めるかが、
この競技の目的なのです。
カーリングの石をどこまで遠くに滑らせることが出来るか、
ということを自転車でやっているわけです。
(ふぅ、説明について来てくれてありがとうございます。)
どこまで滑るかというと、
上手い人であれば軽く200mくらいは、滑っていきます。
これもいかにバランスを維持できるかが勝負です。

というように一般の自転車競技と全く違う競技が、
メッセンジャー世界大会では行われています。
今年はメインレースの決勝に、
日本のメッセンジャーが5人出場しました。
東京2人、横浜、京都、鹿児島から1人ずつでした。
(東京以外にもいますよ、メッセンジャーは。)



彼は鹿児島のメッセンジャー辻君。
何度もCMWCに参加している彼は、
昨年たった1人で、鹿児島にメッセンジャーの会社を
スタートさせました。
鹿児島名物のドカ灰と、CMWCの時は休業するという、
何とも素敵な仕事っぷりです。
彼をはじめ、今回は東京以外の街で仕事をしている
メッセンジャーたちのパワフルさが光りましたね。

僕自身は見事予選落ちでしたから、
決勝では応援&補給に回ってました。
その補給所での面白かったシーンです。



補給所で、何故かビールを手渡しています。
そして、それを受け取ろうとする選手。
こういう茶目っ気のある行動をするのは、
大抵アメリカの人たちです。

ヨーロッパ、特に北欧のメッセンジャーたちは、
常に本気で勝ちを目指してくるので、
こういう遊びにはなかなか乗ってきません。
もちろん、本気で勝つためには、
そんなことしてられないんでしょう。

そういった国民性がハッキリでるのも、
メッセンジャー世界大会ならではの光景です。

普段はそれぞれ遠く離れたところで働く
メッセンジャーたちが、
こうやって年に一度集まって、
走って、話して、ビールを飲む。
その中で、いろいろな都市のメッセンジャーが
抱えてる問題、置かれている労働環境などについても
意見の交換をします。

この世界大会が開催されるようになってから、
メッセンジャーたちは本当の意味で、
コミュニティーとして成立しました。
実際にメッセンジャーたちを結び付けている、
インターネットを中心としたコミュニケーションも、
ここ5〜6年で一気に整備されてきたのです。

こういったことが後押しとなって、
昨年、劣悪な労働環境にあった
サンフランシスコのあるメッセンジャー会社内に
この業界初の組合が公式に結成されました。
これまでは、単なる同業種の寄り集まり的な
非公式な任意の組合しかありませんでした。
そして、そのニュースがネットを通じて、
即座に世界中のメッセンジャーに伝わります。
競技やパーティーを通じて親交があるからこそ、
そのニュースに勇気づけられる者も多く出てきます。

その意味ではメッセンジャー世界大会は、
単なるレースイベントを越えています。
世界に広がるメッセンジャーという
プロフェッショナルにとって重要かつ神聖なお祭りなのです。

Ride safe!

2000-09-16-SAT

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