自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

第10回  マナーとモラル

さて、前回の続きです。

まず、読者の方から提示された問題点をもう1度。

> 1)歩道を我が物顔で走る人が多いから。
> 2)ベルをならし続ける人があまりにも多いから。
> 3)左側通行を守らない人が多いから。
> 4)自転車の停め方が悪いから。
> 5)夜、ライトをつけない人が多いから。
> 6)自転車に乗っている人が
>  無法者にみえる時があるから。
> 7)エスカレーターにのるとき、
>  ちゃんと二列にならんで急ぐ人 、
>  急がない人に分かれてのるルールが出来て、
>  みんな守るから。


でしたね。

簡単に言ってしまえば、
“自転車のルール、マナー、モラル”
が問題となってますね。
確かに大問題です。
それを語るのに、徒労感すら抱いてしまいます。

もしかしたら知らない人もいるかもしれないので、
あらかじめ書いておきますね。
自転車も道路交通として、当然ルールがあります。
マナーもモラルも必要とされます。
だからそれを守りましょう…、と言えばいいのですが、
どうにもこうにも、気が重いものがあります。
そして、言われる方はもっと気が重くなってしまいますね。
じゃぁ、どうして気が重くなってしまうのか?
そのことをちゃんと考えてみたくなりました。
たいぶ七転八倒すると思いますが、よろしくお願いします。

と、その前に。
確かに、自転車の利用を巡るマナーや、モラルで
あまりいい話は聞きません。
しかし、それは単に利用者だけの問題ではないはずです。
例えば、1)、3)、4)に共通して言えるのは、
行政が、ちゃんと自転車を交通手段として位置付ける努力を
怠ったことが自転車の利用環境悪化につながっていて、
その結果として、利用者のマナーが低下した、
という要素も否定できない、ということです。

まずは、1)の歩道上走行の問題からいきましょう。
知らない人もいると思うのですが、
自転車は車道を走行するのが、原則となっています。

え、でも多くの人が歩道走ってますよね?
そうです。
現在は交通標識で、「自転車走行可」と指示されてる部分は
歩道を“徐行”した上で走行できる、となっています。
(ちなみに、“徐行”とは、
 ただちに止まることが可能な速度での走行です。)
実は、これは昔からの決まりではありません。
1970年代末以前は、自転車もクルマと同様に
車道を走るべし、となっていました。
(とはいえ、実際の利用状況においては、
 歩道走行もかなりあったのでは、と思われます。)
でも、自動車の増加に連れて、対自転車の交通事故も増加。
それを受けて、上記のようなルールが生まれて、
いつの間にか、多くの人(時には警察官まで含まれる)が、
「自転車は歩道を走るもの。」
と認識するようになってしまったんです。

どんなに重く、走行性能の低い自転車でも、
ちょっと力をこめてこげば2〜30キロは出せます。
人が歩く速度は時速7〜8キロですから、
約15〜20キロの速度差があるわけです。

ちなみに、2)で指摘された自転車がベルをむやみに
鳴らし続けるのも、速度差のある2者が混在するのが
その主な原因だと思います。
歩道で自転車は交通弱者である歩行者にベルを鳴らし、
車道で自動車は同じく交通弱者である自転車に
クラクションを鳴らします。
(そこに僕が見てとれるのは、
 「あなたとコミュニケーションする意志なんか、
  これっぽっちも持ち合わせていない」
 という強い不寛容の態度です。)

その2者が、広くてもせいぜい幅2メートルくらいの
空間に混在すれば接触する危険性が高いのは当然でしょう。
どう考えても、危険で当然の状態が放置されている、
それを利用者の意識だけで解決できるとは思えません。
(繰り返しますが、利用者側に一切の責任がない、
 という訳ではありませんよ。)
自転車が歩道上を走らされている原因の一つには、
上記のような、自転車の持つ潜在的能力を
僕たちの社会が半ば意図的に無視をして、
単なる至近距離の交通手段としか
評価して来なかったことがあると思います。

それでも現在、東京の中央区・千代田区では、
歩道を色分けして自転車用のスペースを作っています。
どのような状況かは、下の写真で見てください。



ご覧の通り、自転車が”走行”するはずの路面は、
”駐輪”するための空間と化してしまい、
自転車は大手振って歩行者用の路面を走っています。
ご丁寧なことに、駐輪禁止を訴える表示もありますが、
お見事、自転車に取り囲まれています。



自転車に多くの人たちが注目して、
通勤などで従来よりも長い距離を移動しだしているのに、
これはあまりにずさんな行政の対応と言えるでしょう。
一応、建設省も
このような
プレスリリースを出しています。
その成果が上記の銀座の光景なのでしょうか?
そうは思いたくないですねぇ。

たとえば下の写真を見てください。



これはオランダの自転車レーンです。
このように、歩行者空間とも、自動車空間とも異なる、
自転車専用の走行スペースが確保されています。
現在の日本の都市でいきなりこれを実現するのは、
確かに難しいことでしょう。
でも、本当に歩行者・自転車・自動車が、
それぞれの持つ特性を発揮できる交通システムを考えた場合
やはりこのような形態が最適、かつ安全なんだと思います。

インフラの話題、もう少し続きます。

Ride Safe!

2000-11-04-THU

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