第55回 新しい会社をつくります。その4
こんにちは。
前回からの続きです。
木村と知り合った一風変わった営業マン、中村さんは、
学生時代からハンググライダーをやっているそうです。
上空数千メートルという世界のスポーツは、
地を這うような自転車乗りからみると、
常に命の危険を伴うもののように思えます。
だからなのかどうかはよく判りませんが、
中村さんの周りには、
何だかホワッとした空気が流れています。
そんな中村さんに誘われて、
木村は彼の上司に会うことになりました。
前のメッセンジャー会社を退職した、
今年9月のことだったそうです。
緊張したでしょうね〜。
その辺のことは、本人に確認しなかったのですが、
ま、僕だったらおそらく足ガクガクものでしょう。
とにかく、木村は中村さんの会社の、
社長、取締役といった面々に会うことになりました。
スーツ?
メッセンジャーにとっての正装、
自転車ウェアで行ったんでしょうね。
メッセンジャーとして、自転車乗りとして、
最も自分をアピールできる格好で行ったはずです。
そしてその服装、ルックスが決まっているほど、
きちっとした礼儀が相手に強く印象に残る、
そういう計算も働いていたと思います。
これは、木村の性格というよりも、
メッセンジャーという職業では、必要なことです。
だって、どう考えたって
普通のオフィスでは浮きまくる格好ですからね。
メッセンジャーが今ほど一般化する前から、
この仕事をしていた人たちは、
少なからずこういう傾向があるみたいです。
とにかく、木村はそういう状況で、
自分がやりたいこと、
つまりメッセンジャーのことを熱く語ったはずです。
そして、それには無線が必要だということ。
しかし、無線機は高くって、
とてもじゃないけど、手が出せないこと、などです。
木村の熱意にほだされたのか、
話を聞きながら、会社のトップの人たちの頭には、
ある考えが浮かんできたのです。
これは、ビジネスとして可能性があるかもしれない、と。
読者のみなさんの多くにとって、
業務用無線機ってあんまり馴染みが無いですよね?
携帯電話が普及するようになってからは、
その傾向はもっと強くなってきてるらしくって、
無線機販売の会社としては、
新たな業種とのつながりを求めていたわけです。
そんな時に、突然目の前に現れた、
自転車の格好に身を包んだ人物が、
自転車便には無線機が絶対必要だ、
と言い張ってたというわけです。
そこから、サイクレックスが始動し始めました。
つまり、中長期的に無線機の需要を産み出したい、
無線機販売の会社と、
無線機を使用することによって、
迅速にオーダーに対応し、その情報を伝えることができて、
すばやくクライアントの元に移動できる、
メッセンジャーの利害が一致したわけです。
もちろん、最初に始めることですから、
少ない人数で、地道な営業活動が必要です。
そんなすぐに、無線機の需要が増えるわけもありません。
しかし、作り上げたビジネススタイルが浸透していけば、
結果的に無線機の需要も増えてきます。
同様なメッセンジャー会社が今後も増えていけば、
その数もちょっとしたものになっていきます。
クライアントを食い合う状態にならないように、
他の大都市で営業を始める、ということもあるでしょう。
つまり簡単に言っちゃうと、サイクレックスという会社は、
一種のビジネスモデルケースとして、
無線機販売の企業から、
投資を受けて始まることになったのです。
オフィスの立ち上げから、システム・データベース、
もちろん無線機も、です。
これは、メッセンジャーという業界においては、
全くと言っていいほど異例のことです。
たいがいは1〜2名、事務所無しという規模から始まって、
じっくりじっくり大きくなっていくものなのです。
当然、小人数であればあるほど、
小回りは効きますが、大掛かりな営業はできません。
同時に数本オーダーが入ったら、
すぐに対応できなくなってしまうからです。
空飛ぶ新人営業マン、
中村さんとの出会いをきっかけにして、
状況は一気に動き出しました。
それが、たった1ヶ月前のことでした。
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エノモトの視点です。
開いた口が塞がらない、という感じでした。
しかも、僕がこのことの全貌を知ったのは、
9月も半ばの頃でした。
NYCの事件に激しく動揺する中、
こんな話を聞かされても…、と思ったことを覚えています。
それまでは、
「木村は結局独立するのかなぁ?
まぁササヤカにやるんだろうな。」
そんな話だと認識してました。
僕は、今までの自分のいた会社を含む、
これまでの自転車・バイク便業界のやってきたこと、
中でも顧客サービス面では、
まだまだ改善できることがある、と思ってたので、
もし、彼が独立するのなら、
一緒に立ち上げるつもりではありました。
まさか、こんな大掛かりなことになるとは……。
では、サイクレックスはどういうサービスを目指すのか?
それは続きます。
Ride safe!
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