自転車思想。
チャリンコは、未来そのものの顔をしている。

第56回 新しい会社をつくります。その5

さてさて、けっこう長いことかかってしまった、
サイクレックス起業物語、そろそろおしまいです。
“自転車をどう呼ぶか?”で集めたそれぞれのもネタも、
掲載されたがって僕を後押ししていますからね〜。

サイクレックスは、どういうサービスを目指して、
どういう組織を目指しているのか?
まずは、木村に聞いてみましょう。

「IT化が進むと、
 自転車便やバイク便の需要は減っていくと言われてたけど
 こと東京の都心部に関しては、
 まだ現物を運んだ方が効率がいいんだよね。」

これは全くその通り。
これから少しずつは縮小していくだろうけど、
バブル期からの今までが、ある意味異常だったわけで、
急いで運ぶ荷物が全くなくなることはないでしょう。
それに、例の“Nimda”なんかに代表される、
ウィルスの問題もそう簡単には片付かないし。
全てがオンラインで可能、という日はまだ遠そうです。

「東京の真ん中って、スゴイ都会のイメージなんだけど、
 逆にひどくローカルな面もあると思う。
 意外に狭い人間関係で仕事が成立していることも多い。
 だから、サイクレックスは都心部にこだわって、
 地域社会的な感覚で顧客と関係を作っていきたい。」

サイクレックスはそのサービスエリアを、
東京の最中心部に限定しています。
ピックアップはその中だけだし、
デリバリーで遠くに行く場合は、
通常料金にアップチャージが加算されます。
これって、今までのバイク便的な感覚で行くと、
ほとんど致命的な欠点ですらあります。
だって、東京ってホント広いんですよ。
有名大企業の本社が、世田谷や多摩にあることだって
全然珍しくないですし。

でも、その欠点を補ったりせずに、
都心部に強いという、長所を伸ばしていくことで、
欠点はいつか最大の強みになると思うのです。

「最終的には、クライアントが荷物を依頼する業者を
 選んで欲しい、と思っている。
 郊外へのデリバリーだったら、
 うちを使うより、どっかのバイク便使った方が
 時間も値段もリーズナブルかもしれないし。
 でも、都心から都心へのデリバリーだったら、
 サイクレックスは値段・時間ともに、
 他の業者には決して負けてない。」

つまり、自転車でモノを運ぶって、
そういうことなんだと思うんですよね。
そうやって、うちに限らず自転車便という商売が、
都心でもっと増えてくれば、都心の環境改善に、
ほんのちょっとでも役立てるかもしれない、と思うのです。
3キロ先に封筒1つ届けるのに、
オートバイでも自転車でも、所要時間は一緒だとしたら、
そのために燃やされる化石燃料って何なんでしょうね?

そんなこと今までだったら、
誰も気にしなかったのかもしれない。
でも、これからはおそらく違うはずです。
実際僕たちが営業に行っても、個人のオフィスなんかでは、

「いやぁ、自転車便が使いたかったんだよ。」

と言ってくれる方がけっこういました。
あとは、向こうが納得できるサービスと、適正な料金です。

おやおや、木村がまだ何か言ってますねぇ。

「自転車便が受けた理由っていうのは、
 自分たちの仕事に取り組む姿勢だと思うんだよね。
 アドレナリンが出まくってて、笑顔が良くって。
 そういう颯爽としたメッセンジャーのイメージを
 感じとって、利用したいという企業が増えてきた。
 それに応えたいよね。」

そんな木村が目指している組織って、
どんなものなんでしょう?

「永遠に拡大させようなんて思ってない。
 自分自身がこの仕事を通じて、
 自分の持っている可能性に気がついた。
 だから、メッセンジャーという仕事を通じて、
 個人個人が自分の可能性にチャレンジできないような
 環境だったら意味はないよね。」

「メッセンジャーっていう仕事は、
 簡単に見えるけど、やってみるととんでもなく難しい。
 一種の特殊技能職だと思うんだ。
 だから一定の技術を覚えてしまえば、
 半年ギッチリ働いて、あとの半年旅をする、
 そんな働き方だって全然OKでしょ?
 仕事の他に何かやりたいことがあるんだったら、
 必要以上に仕事に拘束される必要はない。
 っていうか、そういう面白い人間が自然に集まってくる、
 そんな場所を作りたいね。」

最後に、今の不安は?

「今年最悪の本厄だって言われたんだよぉ(笑)。
 あとは、自分の考えてることが、
 独り善がりなんじゃないかって思うことがある。
 ま、でも日本で初めてメッセンジャーやる訳じゃないし。
 そんなところかな?」

****************************************

エノモトの視点です。

メッセンジャーって、
もっと身近な存在になっていいと思うんです。
今までは、いわゆるビジネスユースがほとんどだったけど、
時たま個人から仕事を依頼されることもありました。
携帯電話を忘れたから取ってきて、とか、
どこどこで売っている文房具を買ってきて、とか。
まぁ、個人といっても、自分でオフィスを構えていて、
忙しくて身動き取れない、という人が多かったんですが。
そういう仕事がもっと増えたらな、と思います。

もちろん、その人が自分で電車やバスに乗って、
忘れ物を取りに行ったり、
買い物に行った方が安いですよね。
でもその場合は、単に移動にかかるコストにプラスして、
その人が移動している時間の価値を考える必要があります。
シビアに仕事をしている人だったら、
そういうことって当然ですよね。

例えば、アルバイトに取りに行かせるとしても、
行って帰ってくる時間分の時給はかかるわけですし、
その時間で他の仕事をさせたら、
もっと仕事全体の効率は良くなってくるはずです。

インターネット・コンピュータの普及によって、
今まで3人必要だったところが、1人で出来るようになる。
そういう時代だからこそ、
小回りの効く自転車便の可能性はあるように思います。

そんなことを考えていたら、こんなことを思いました。

「メッセンジャーがお客さんの前に現れるまでの、
 目に見えないコミュニケーションって、
 けっこう大事だぞ。」

と。

お客さんの要望をしっかりと聞き出して、
時間と予算に見合った商品を案内するのは、
走っているメッセンジャーではなくって、
オーダーの電話を取るオペレーターなんです。
オペレーターがしっかりしてて、
お客さんからちゃんと信頼される存在でなくてはいけない。
だから僕は今、オペレーターとして電話を取っています。
それが、僕のチャレンジなのです。

www.cyclex.jp

Ride safe!

2001-10-10-WED

BACK
戻る