安藤 |
ぼくのやっている「bk1」に、
以前、糸井さんから朝日新聞のコラムで
エールをいただいたことがありまして。 |
糸井 |
ああ、そうですね。 |
安藤 |
あの時は、
スタッフ一同で狂喜乱舞しました。 |
糸井 |
まだ、安藤さんが
bk1を立ち上げたばかりの時でしたよね。 |
安藤 |
ええ。
紹介をいただいた日には、アクセスも増えて、
すごく嬉しかった思い出があります。 |
糸井 |
サイトを作りたての頃って、不安ですからねぇ。 |
安藤 |
システム的にも問題があったりしたので、
どうしようかなと思う時期でもあったから、
糸井さんの紹介は、嬉しかったです。
bk1編集部の中でも、
「こんど一度、糸井さんと
コラボレーションできたらいいね」
なんて話は出てたんですけど、
なかなかチャンスがなくて・・・。
今回、ちょうどこの
『ほぼ日刊イトイ新聞の本』が出たので、
「もう今がチャンスだろう」と。
それで、bk1に掲載の対談を、
お願いした次第なんです。 |
糸井 |
はい。 |
安藤 |
ぼくは、bk1に移る前に、
「往来堂書店」という
20坪の小さな本屋をやってたんです。 |
糸井 |
今もあるんですよね。 |
安藤 |
ええ、今は2代目の若い人に引き継ぎました。
別の書店をやっていたこともあったんですけど、
物件選びからレイアウトから本のカバーや
店内のBGMまで、ぜんぶ自分でやっていました。 |
糸井 |
いいなぁ、それ。すげえ。 |
安藤 |
お店ができあがっちゃったり、
目標にある程度到達してしまうと、
興味がなくなっちゃって、すぐに
次のことを考えだしちゃうんですけど。
店をつくる時には
「3日くらい徹夜してもぜんぜん大丈夫」
みたいな、独特の興奮がありました。
そこでふと立ちどまってこの本を読むと、
「じゃあ、今の自分はどうなんだろう?」
と問いかけられているような気がします。
今、ぼくのいるbk1というところは、
町の本屋よりもかなり大きなチームですが、
今はそこにおけるジレンマみたいなものが、
自分の中にあるわけです。 |
糸井 |
よくわかるわ。 |
安藤 |
ビジネスモデルに
囚われているような部分や、
システムのこととか、ここ何か月か、
そういうことを考えこむ日が続いています。
そこで、『ほぼ日の本』で、
「初心にかえれ」じゃないですけども、
忘れていた何かを思い出す、というか。
「オリジナリティを持って、何かを
つくり出すことこそが、クリエイティブなんだ」
という考えを、呼び起こしてくれました。
うち(bk1)の若い連中にも、
ぜひ読んで欲しいなあと思いましたね。 |
糸井 |
そういう感想をいただけることが、
いちばんうれしいですね。
やはり、安藤さんのように、
おおもとになる部分が重なっている人に
読んでもらうのが、すごくうれしいですよ。
例えば、マイクロソフトは、
リナックスの真似をできないじゃないですか。
おたがい、ヒントになりようがない。
それは、違う源流なんですよ。
淡水と海水が、おたがいにヒントを
出しあうっていうわけにはいかないんです。
ぼくが「ほぼ日」をやっているのも、
今までが海水なら、
これからは淡水の考えかたみたいなものが
新しい潮流になるんじゃないか、というのを
根っこに持っていますから。
だから、bk1のように
新しい動きをしているところに
熱心に読んでいただけるのは、何よりです。
まあ、海水と淡水との
どちらが勝つか負けるかも知らないし、
最終的には、何がどうなるのかなんて、
わからないんだけど。 |
安藤 |
ビジネスの評価軸が
変わってきてるかもしれない、
というのは、ぼくも感じますね。
ぼくが20坪の書店をつくったのも、
既存の評価軸の中で評価されることなら、
はじめからやりたくなかったからなんです。
自分の書店論や仮説を
どう表現できるのかと言えば、もう、
ぜんぶ自分で仕切るしかないと。
ただ、自分には資本がありませんから、
経営者の方に企画書を書いて、3日間口説いて、
お店を出させていただいたんです。
そのオーナーは理想的な方で、
「お金は出すけど口は出さない」という。 |
糸井 |
そのオーナーは、
「安藤さんのお店という事業」
から、何を欲しがってお金をかしたのですか。 |
安藤 |
いや、「損しなきゃいい」くらいでした。
別の仕事で食べていけている人でもあったし、
ぼくが往来堂書店の前のお店で
実績作ってたということもありました。
ぼくの中としては、往来堂書店には、
「町の書店の復権」
という壮大なテーマがあったんですけど、
彼は別にそんなこと思ってなくて(笑)。
「そんなに自信があるなら、いいよ」
という感じでした。
2年くらいでオーナーへの借金は返せました。 |
糸井 |
そりゃあ、うまくいきましたね。
言うことないじゃないですか。
なるほどなぁ。
ただ、今だと、その話のはじめから、
オーナーをだまさないで、事業をはじめることが
できるようになってきていると思うんです。
ぼく、今は、
「あの人の考えは、変わりそうもないから
ここでは、こう折れておこうかなぁ」
という企画書を出したくないと思って、
いろいろなことをやりはじめているんです。
「もしこれでだめなら、
縁がなかったってことにしてくれませんか」
という前提で事業計画をはじめているんです。
そこでディスカッションして
意見を統一させてから事業をはじめることが、
できるような気がしているんです。
そういうところが、この数年間のぼくの
いちばん大きな変化じゃないかなあと思います。
「イトイさんの言っていることは
よくわかんないけど、お金は出します」
という人が、もし、いたとしても、
「わかる前にお金を出さないで(笑)」
と、今なら、言えるんです。
「その考えは、ビジネスとしては、だめです」
ともし言われたとしても、
どこがだめかを教えてもらえますから。
いろいろな仕事が、そういう
コラボレーションになりつつありますね。
ここ何年間は、そういう変化の中にいます。 |
安藤 |
ビジネスモデルや社会の仕組みが変化する中で、
仕事に対するモチベーションも、
どんどん変化していきますよね。
いろんなものが崩れていってるなかで、
個人のパーソナリティを出すには、
インターネットというツールを使うなかで、
というのがいいのかなと思うところがありました。
僕がリアルな書店からネット書店へ行ったのも、
このインターネットという道具を使えば、
読者とのほんとうのシェアが出来るのかなぁ、
という可能性に賭けてみたかったところがありました。
若い世代の中には
「売りたいものを売るためには、
売りたくないものも売らなきゃいけない」
というオトナな部分も含めて、
お店を出したいという人がいます。
その一方で、流通の古いしきたりの中で
どんどんサラリーマン化して、
心が病んで、やっていけなくなって、
お店の経営をやめてしまう・・・。
最近は、そういうのが、とても多いんです。
そういう人たちがこの『ほぼ日の本』を読むと、
「このままじゃ、終われないぞ」
と感じるんじゃないかなぁ、というか。
「自分が、お店や関わっていることの意味」
を、もういちど見直してくれそうだ、と、
ぼくは勝手にそんなことを思っているんです。 |
糸井 |
本の感想のメールを読むと、
「だめかなと思ってたけど、もう一回やるぞ」
とか、やっぱり、そういう流れなんです。
そのほうが、気持ちがいいですよ。
負ければいいんです。
それで、またやれば、いいと思う。 |
安藤 |
そうですよね。
負けた原因を分析して、またやり直せばいい。
そこをやるかやらないかは大きな差ですけど。
そういう意味では、この本は、
ほんとに説得力のある仕事のすすめ、というか。 |
糸井 |
本の中では「サクセスなき成功」と書きましたが、
まだ稼いでいない状態で本を出す、
というところだけが、この本の欠点なんです。
まあ、うまくいっていたらいっていたで
意地悪を言う人が出てくるだろうから、
結局はいつ出しても一緒なんだろうけど。
だったら、今の段階で本が出ちゃったほうが、
「続刊がもし出たら見たいなあ」
と、思ってもらえるじゃないですか。
だって、この先どうなるか、気になるじゃない?
まだ、成り上がっていないわけだし。
「いよいよバンドができたぞ」
みたいなところで、本が終わってますから(笑)。 |