安藤 |
『ほぼ日刊イトイ新聞の本』の中で、
ぼくが特にいいなあと思ったのは、
糸井さんのほぼ日スタッフへの愛情というか。 |
糸井 |
あぁ〜。
愛情なんか、ないですよ(笑)。 |
安藤 |
ぼくも、ふだんはそう言うけど、
かつて店を営んでた時や、
いまのbk1でも、やっぱり、
スタッフの顔が、いちばん気になるんです。
本屋は特に接客ですから、彼らの表情が
販売を決定づける部分もありますし。
どうしたら、いい顔にできるのか、
と言いますと、バイト代が高いとか、
働く空間がキレイだとか、
そういうことではないんです。
やっぱり、ボスというか、その場を
仕切っていく人間のメッセージが、
スタッフに通じた時に、はじめて
うまくやっていけるんだと思います。
いまは、書店だけではないですけど、
さまざまな商売において、
どこでも、スタッフが疲れているというか、
プライドを持ってやっている人が
少なすぎると感じるんです。
実は今日の対談も、
場所を決定する時に、
「糸井さんの事務所でおねがいします」
と、ぼくが言ったんですよ。
それは、ここのスタッフの方々の
顔を見たかったから、なんです。 |
糸井 |
ああ、みんな疲れきっていますよ(笑)。 |
安藤 |
いやいや、疲れた中にも、やっぱり
生き生きした顔をしていらっしゃいましたよ。
4、5人の方の顔を見ましたけど。 |
糸井 |
(笑) |
安藤 |
やっぱり、そうだよなあ、って。 |
糸井 |
たしかに、何かをする時には、
ぜんぶ、人間の話になってきますよね。
ソフトによって経済が動く前提だとすれば、
ソフトは人が作るものですから。
人に関して観察する時には、
典型的な例を挙げることができないから、
最終的には、自分の話になるんですよね。
自分が弱いと分かっているから、
「人は弱いものだ」と思うわけだし、
自分がさぼりたいから、
人がさぼりたがっているのも分かる。
自分がお調子者だと、
人もそう見える・・・。 |
安藤 |
鏡みたいな。 |
糸井 |
そうそう。
俺が怒っている時って、だいたいが
怒るきっかけを自分に見つけてるんですよ。
ですから、
人間に関して考えることは、
えらいめんどくさいことなんですよね。
何を言っていても、やっぱり、
ただブラブラして南の島で遊んでて、
テレビとかが全部あって・・・が理想で、
いま自分のやっていることは、
ぜんぶ異常なことですから。
スタッフを考える時には
立派な人がいるとは思わないで
みんな、そんなようなもんだろう、
と思ってやったほうがいいんじゃないか、
と、自分で思っていました。
前にバイトを募集した時がありました。
いちばん賛同してくれる人が入ったら、
「ほぼ日」は、どうなるだろうかと思ったので。
そうしたら、みんな、面接では
いろいろと演説をしてくれるけど・・・。
でも、いざ実務がはじまったら、
演説のことなんか忘れちゃうんです。
だからそういう意味では、
立派なことを言うよりは、その時その時で
目の前ににんじんを生み出す能力というか、
自分が馬だとしたら、
自分でにんじんを見つけてほしい、
みたいなふうに、ぼくは思っていますね。
「いま、自分はどこを走っているか」
なんて、ほんとは、わかりようがないし。
だから、みんなが自分で、
やりたいことのストーカーになるつもりが
必要だ、というように、ぼくは思っています。 |
安藤 |
なるほどね。 |
糸井 |
「手紙読んでくれないなら、
じゃあ、今度は待ち伏せをしようか」
っていうように、自分の仕事に対して思えたらね。 |
安藤 |
それは書店でつとめる、
ということを振り返ってみても、そうです。 |
糸井 |
同じでしょ? |
安藤 |
売場をどうするかとか、
この本を誰に読んで欲しいかっていう時には、
いろいろな切り口というか、
野球で言えば、投球法が、ありますよね?
「直球でいく」「ボールを振らせる」
「スライダーでとる」「三振をとりにいく」
・・・やっぱり、いろいろあるんですよね。 |
糸井 |
前に内角へ投げといて、次は外角、とか。 |
安藤 |
そうそう。 |
糸井 |
たぶん、そういうことが
一番経験の要ることなんだよね。 |
安藤 |
そうですね。
若いピッチャーは、
ぜんぶ全力で投げちゃったりとか。 |
糸井 |
全部ストレートで。 |
安藤 |
そうそう。 |
糸井 |
そういうことをしているのが、
楽しくなったら、きっともう、
はたらいていて、勝ちですね。
(つづきます) |