安藤 |
ぼくは、本についてよく
「本籍と現住所がある」って言うんです。
既存のカテゴリーでいくと、
「人文書」「実用書」「出版社別」
といったものがありますけれども、
でも、切り口だとかテーマで見ましたら、
「いま、どんな人に読んで欲しいのか?
・・・だったら、あの雑誌の横がいい」
というように考えられますよね。
昔、永六輔さんの『大往生』がありましたが、
でも、あの本を買いたいおばちゃんたちは、
たぶん、岩波新書の棚には、行かないだろうと。 |
糸井 |
本籍は、「岩波新書」というわけね。 |
安藤 |
そうなんです。
ところが、現住所はどこかを考えた時に、
ぼくは「壮快」とか「安心」という
健康雑誌の隣に、平積みするわけです。 |
糸井 |
なるほどー。
この話を聞いたら、
本屋さん、ためになるねぇ(笑)。 |
安藤 |
その『大往生』を買いそうな人たちは、
「壮快」や「安心」の発売日に、
店を開ける前の朝から、並んでるんです。
待っていてくれているんですね。
「今日の特集はタマネギワインね」
なんて、ガヤガヤ言いながら、
グループで買いに入ってくる(笑)。
すると、目に入るんですね。
「・・・あ、これ、この間、
永さんがラジオで言ってたわよ」
なんて言いながら、一緒に買っていく。
そしたら「毎度あり」って感じで。
すべての本について、ぼくは、
そういう風に考えちゃうんですね。 |
糸井 |
それは、ぼくがほかのところで
よく例に使う「事実婚」ってやつですね(笑)。
つまり、籍で話をするとわからなくなっちゃうし、
基本的に、世の中は事実婚で動いていくという。
でも、しかも籍の存在は重いじゃないですか。
その関係に、安藤さんが
おっしゃったことは、非常に近い気がします。 |
安藤 |
そうですね。 |
糸井 |
やっぱり、ほら、
「岩波」って籍は・・・。 |
安藤 |
重いですよね(笑)。
あれがすごい売れても、
ほかの出版社のように
大喜びはしなかったそうです。 |
糸井 |
なるほど、社風ですね。
「次男がハワイで出世した」
みたいなもんなんだろうなぁ(笑)。 |
安藤 |
現住所のラインで、
コンテンツ自体のおもしろさを、
どうアレンジできるかが、
本屋としてのぼくの仕事だったと思います。
『ほぼ日の本』でも、
「実力以下に評価されているけど
実力のあるものに、どう光を当てるか」
と書いてありましたけど、ぼくはあれを読んで
以前に、歴史年表をたくさん売ったことを、
思い出しました。 |
糸井 |
おもしろいなあ。 |
安藤 |
山川出版社の『日本史総合図録』という、
横開きのもので、いわゆる、
「高校の歴史の副読本」なんですけども、
あれを1店で1000部くらい売ったんですよ。 |
糸井 |
すげぇ。 |
安藤 |
その頃、大河ドラマの「吉宗」をやってました。
何人かのお客さんから、言われたんですよね。
「将軍の系譜が、ゴチャゴチャしてて、
よくわかんねえから、そういうのはないか?」
って。
最初は岩波の箱入りの歴史の本も考えましたが、
「たぶん、いま将軍の系譜を知りたいこの人は、
4000円も5000円もするのは、買わないな」と。
そういうことが頭にありながら問屋に行ったら、
それが目に入りました。
値段を見たら、657円だとかで、
しかもオールカラーで装丁は菊地信義。
こりゃいいや、と思いました。
ごっそり本屋に持ってきて、
大河ドラマ原作本のまんなかに置いて、
「テレビのおともに便利です。
1家に1冊、ぜひ常備」
というようなPOPを書いたら、
もう、飛ぶように売れるわけですよ。
さきほどの話で言えば、
この本の本籍は学習参考書なんです。
でも、大河ドラマを観ているおじさんたちは、
学参コーナーに行きませんから、
そのままだと、出会えないんです。
現住所に置くことで、はじめて出会える。
「そういう便利なものがあるんだ」
と、大河ドラマの原作を見に来た人も、
思い出すんですよね。 |
糸井 |
それ、いいよ! パクッて、
バージョンアップさせたいぐらいだ(笑)。
bk1では、そういうことって、できないの? |
安藤 |
けっこう、ぼくが個人的には・・・。 |
糸井 |
ああ、チョコチョコっとたまにへんなのが
サイトに出てくる時が、ありますね(笑)。
あれは、安藤さんなんだ。
ただ「平面的に見えちゃう」っていうのが、
インターネットの本屋の
つまんないとこですよね。
「今日の特集」を作りにくいっていうか。
本屋という横目がきくメディアだと、
特集した時にワッと盛り上がるんだけど、
インターネットだと、
なかなか横目がきかせにくい。 |
安藤 |
アナログ的な広がりがないんですよね。 |
糸井 |
インターネットに関しては、
そこらへんを、ずっと考えてるんですよ。 |
安藤 |
僕もそうなんです。とりあえずは、
ぼくはリンクでやろうとしています。
あとはPOPというか、
キャッチで惹かせるという。
アナログ的な広がりのないところでは、
予定調和的な作り手と読み手の関係しか、
生まれないじゃないですか。
作り手と読み手がもっとクロスするような
化学反応みたいなものを、どういう風に作るか、
なんだろうなあと思っています。
ぼくは書店の棚配置で「文脈」を作るけど、
読者も、自分の棚に「文脈」を作ってほしい、
と感じているんですよね。 |
糸井 |
わかるわぁ、安藤さん。
ぼくは近々「中学生になろう」っていう
コンテンツを作ろうかと思ってるんです。
中学生までさかのぼると、だいたいが
「いち」からの吸収に、なりますよね。
英語も数学も「いち」からやってみると、
「何が足りなかったんだろう?」
というのが、ぜんぶわかるじゃないですか。
それを教科書にして、箱入りにして、
「みんな、欲しければ、うちにあるよ。
限定何部で、まくよ〜」というような。 |
安藤 |
なるほど(笑)。 |
糸井 |
望遠鏡とかもつけて、
「中学生キット」っていうのを作ったら
面白いかなぁ、と考えているんです。
しかも、教科書作った本人たちへの
取材まで含んであったら、俺なら読むから。 |
安藤 |
教科書の仕入れって、結構大変なんです。 |
糸井 |
へー。そうなんだ。 |
安藤 |
「子どもが教科書なくしちゃった」
というお客さんが昔いたので調べましたが、
学校からのオーダーじゃないと動かないみたいで。
書店のオーダーではむつかしいんです。
このあいだ、「教科書問題」が
話題になっていた時、bk1では、
「bk1が選ぶ教科書」なんていう特集を、
やっていたんですよ。
歴史、国語、体育・・・。
ぜんぶふつうの本なんですけど、
「これを読むと、いいよ」なんて、
やってたんですけど。 |
糸井 |
俺、その特集、読みましたよ。
あれさあ、もしできれば、
現物の教科書でやりたかったでしょ? |
安藤 |
できればね。 |
糸井 |
ぼくは、オリジナルの
教科書をつくりたいくらいだよ。
作るの、おもしろそうじゃない?
・・・でも、お金、かかるんだよね。
お金ほしいなあ(笑)。
(つづきます) |