糸井 |
安藤さんとお話してると、楽しいわ。
なんか、発想が似てるんですよね。
「サバイバル型」と言いますか、
何もない所からはじめようという考えかたを、
されているじゃないですか。
bk1がはじまった時、多くの人にとっては、
親会社が割と堅いという印象が強かったようで、
あまりいい意見は聞かなかったんですよ。 |
安藤 |
ええ。 |
糸井 |
でも、ページを見ると、
表面に見えているものは、おもしろいじゃない?
ぼくはそういう立場だったんです。
朝日新聞でオススメした時も、
みんなが抱いたよくなさそうなイメージを
逆転してくれると、いいなあと思っていました。 |
安藤 |
ぼくはbk1をはじめても、
IT企業に行った気はしてなかったんです。
リアルとバーチャルの違いだけで
ぼくの中では、本屋のままでした。
「町の本屋の復興」「棚の文脈作り」
「すべての本には本籍と現住所がある」
などの仮説はまったく一緒ですから。
新しいことをはじめると、
パブリシティが先行しちゃいますし、
世間的に見れば、そうした報道から
イメージを作られる傾向があるんですけど。
ただ、それをどうひっくりかえせるかの、
そこのおもしろさは、逆に感じています。 |
糸井 |
世間のイメージをひっくりかえせない、
と決めちゃっていた時代が、
今じゃあ、懐かしいですよね?
今は、ひっくりかえせますから。 |
安藤 |
はい。
そういう意味では、それこそネットは、
見られてはじめての勝負ですから、
ページさえちゃんと作れば、必ず支持されます。
だから、bk1の若い連中には、
「権威は関係ないんだよ。
書店員として表現できることがなくなったら、
このページを、読者は見なくなる。
本が早く届くとかいうことは、
そのうちに当たり前のことになるから、
そうじゃない表現で自分を磨いてほしい」
というように、言っています。 |
糸井 |
そうですよね。
例えば検索で言えば、
アマゾンの優秀さって、
ものすごいじゃないですか。
でも、そこを例えばbk1が追いつくとしたら、
安藤さん本人のやることじゃないですよね。
そこは安藤さんと違う文脈の人が、
「俺がやる!」って飛びこんでくれば、
やれるし、変われるんですよね。
アマゾンは、すでにアメリカにあるものを
持ってきてるわけで、確かにそこには
すごい開発費がかかっているわけです。 |
安藤 |
何年もかけてね。 |
糸井 |
でも「一回出来ちゃったもの」って、
もう、あとからすぐできちゃうんです。
だから、一人いればほんとはできるんですよ
できあがったブツで学んでWEBで実験して、
新しいブツをつくって・・・その循環は、
ぼくは最近、できるようになってきました。
ブツというか、ものを触るって、
人間が仕事をするうえで、
ものすごく重要ですよね。 |
安藤 |
実はbk1では、毎日、スタッフに
新刊を一回、触らせるようにしてるんですよ。 |
糸井 |
へえー。 |
安藤 |
最初はそういうことをしなかったですが、
それじゃ、駄目だなあと思って、
入荷した「今日の新刊」を倉庫に入れる前に
一日事務所に寝かせて、
全部見られるようにしたんです。
そうすれば、みんな見るじゃないですか。
手にとって「おもしろそうな表紙だな」とか。 |
糸井 |
それは、いいなあ。 |
安藤 |
この本もこうやって中にウレタンが入ってね。
ぼくは持った瞬間
「あ、これは売れるな」と思いましたよ。 |
糸井 |
(笑) |
安藤 |
この「ふんわり感」って、今までなかった。
何となくこのふんわり感に、メッセージが
あるんだろうなっていうのが分かったし・・・。
触感で、そう思いましたよ。 |
糸井 |
このウレタン加工は、講談社に
我慢してコストかけてもらったんですよ(笑)。 |
安藤 |
絶対、正解ですよ。 |
糸井 |
ありがとー。 |
安藤 |
あったかみがあると言うか。
店頭で手に取ったお客さんも、
きっと、そう感じるでしょう。
そういうことって、
データだけじゃ、分からないですから。 |
糸井 |
今まで何回言っても駄目だったことが、
これからどんどん、
「あれ?できちゃった」
みたいなことに、なっていくんだろうねえ。 |
安藤 |
それがクリエイティブのおもしろさかなぁ。 |
糸井 |
そうですねぇ・・・。
なんかさー。
bk1の話をしてるんだか
ほぼ日の話をしてるんだか、
途中から、わからなくなってきましたよ。 |
安藤 |
はい(笑)。
常々、bk1が競争相手に勝つには、
そういうところしかないなあと思っています。
すでにある評価軸で判断するよりは、
やっぱり本によるコミュニティを作るとか、
いかに信頼やシンパシーを得るかとか、
お互いに一緒にいい本を売っていきましょうとか、
そちらのほうを、重要だと思っているんです。 |
糸井 |
bk1って、特殊な本を売った例が、
もう、結構あるでしょう?
こりゃ普通売れないよ、みたいなものを。 |
安藤 |
1985年に出た
『ゲーデル・エッシャー・バッハ』という本、
あれは5500円もする分厚い本なんですけど、
あれをコンピュータのコーナーで売ったんです。
初日で20部売れました。
あの本をいまどき平積みして20冊売る本屋は、
たぶん、ないと思いますね。 |
糸井 |
そうだよなぁ。 |
安藤 |
買ってくださったかたは、
島に住んでいらっしゃったり。
その本を見たことがなければ、
その人にとっては、新刊なんです。
いつ出版されたかなんて、関係ないんですね。
紹介された本が、自分の生活や好みに合えば、
買いたいと思うわけであって・・・。
そういう気持ちを、うまく
ひきだせた例だと、思っています。 |
糸井 |
売れる住所を作ったことでもありますね。 |
安藤 |
本来ならあの本は、
人文やサイエンスに置かれますが、bk1は、
「コンピュータ使う人は読んだほうが、いいよ」
というメッセージを出しました。 |
糸井 |
植物から動物への進化の過程みたいですね。
つまり、
「本の本籍を変えずにとどめる」
というのは植物としてなら基本なんだけど、
そこの場所で風媒花みたいに撒くよりは、
本を、別の場所に、歩かせたほうが、
いいという。 |
安藤 |
そうですね。 |
糸井 |
そうしたことって、
本に筋肉をつけさせるんだね。 |
安藤 |
本の運動能力を。 |
糸井 |
それは、いろいろなものに当てはまる。
役に立つなぁ、この対談は。
(つづきます) |