小さい ことばを 歌う場所


(担当編集者、永田のレポート)


11月の出版ラッシュが一段落したころ、
「糸井重里のことばをまとめた本」の制作が
具体的にスタートしました。

この本をつくるにあたっては、
たぶん、曖昧で観念的で不確かなことばが
飛び交うことが予想できたため、
デザイナーは以前からおつき合いのある
プリグラフィックスの清水さんにお願いしました。

糸井と、清水さんとぼくの3人で
「どういう本にするのか」という
打ち合わせを何度もしました。
思った通り、曖昧で観念的で不確かなことばが飛び交う
ややこしくも楽しい打ち合わせでした。

清水さんは、表紙のデザインを
4案ほどあげてきてくださったのですが、
けっきょく糸井はそのすべてをボツにしました。
ボツにしながら、なぜ違うのかを説明し、
それによってぼくら3人は
共有するビジョンをより具体的にしていきました。
作業は、おおむねそのようにして進みました。

意外だったのは、
制作に入ってからの糸井の積極的な姿勢でした。
「私家版でならありうるかもなあ」と語っていたころは
すでに書いた自分のことばを
商品にすることに対しての葛藤があったのか、
どこかしら「引いた感じ」があったのですが、
実際の制作に入ってから、
とりわけ表紙を含む本の仕様については
じつに細かいイメージを伝えるようになっていました。
わかりやすい表現でいえば、
かなり気合が入っていたのです。

そして、あるときに糸井が提示した
「ギンガムチェック、しかもオトナっぽく」
というイメージがぴたりと本にはまりました。
清水さんが業者に依頼して
表紙回りの文字を「刺繍」で表現しました。
それも、すっと馴染みました。
「よい」「わるい」という、
いちいちの感想を交わすことなく
関係者一同が「これだ」とわかる。
ものができていくときの
なんともいえない快感がそこにはありました。

表紙のデザインが固まるのと同時に、
「ことばを自由にレイアウトすること」
「とくに章立てをしないこと」
「ところどころに気まぐれカメらの写真を入れて
 本全体にアクセントをつけること
 (ただし、写真が主役にならないようにする)」
といった、本の構造も決まっていきました。

そして、あるとき、糸井がタイトルを決めました。
「小さいことばを歌う場所」
もちろんそれも、いちいちの感想を交わすことなく
全員が「あ、それだ」と感じたのです。


(つづく)


2007-02-16-FRI