奥付とは、本の巻末あたりにある、
著者名や発行日、発行元など
本に関わる重要な情報が載っているページです。
『ベリーショーツ』の奥付には
印刷にたずさわった数名の方々の
お名前が入っています。
これも、ちょっとめずらしいことかもしれません。
『ベリーショーツ』は、
ここに名前のあるみなさんの力なくしては、
決してできあがることはありませんでした。
『ベリーショーツ』を手に取ったことのある方は
おわかりいただけると思うのですが、
この本には
「日本初」と言ってもいいようなこころみをはじめ、
手のこんだ印刷技術や製本加工技術が
随所にほどこされています。
長いしおりを貼りつけたり
表紙を折り込んだりするような
機械で加工できない部分はすべて手作業。
その数は、常識はずれの13工程です!
また、印刷は、
イラストを担当したゆーないとさんの
色鉛筆ののびのびした筆跡や
明るい色調を再現するために、
個別に選んだインキ(特色と呼ばれます)の
4つを組み合わせてプリントしています。
ふつう、カラーの印刷は
C(藍)M(紅)Y(黄)K(墨)の
4つの決まった色をメッシュのようにかけあわせて
色を再現します。
しかし今回は、CMYKでは再現できない
「限界色」と呼ばれる色を刷るために、
特色の4つのインキを
選んで刷っているのです。
『ベリーショーツ』にとって
最適な刷り色にしあげる、
今回の印刷の責任者は
トッパンプリンティング東京
平版印刷部の田中久雄さんです。
印刷担当が田中さんであることを
打ち合わせで聞いたとき、祖父江さんは
「わあ、田中さんが刷ってくれるの?
うっれしーー!!」
と、とても喜んでいらっしゃいました。
「すごい人なんですね、どんな方なのかな‥‥」
とわくわくしながら
スターにお会いするような気持ちで
わたしたちベリーショーツチームは
印刷の現場に向かいました。
板橋にある凸版印刷さんを訪れました。
大きい会社です。学校みたいでした。
ゆーないと画伯。
ちょうどこの日はお誕生日でしたよ。
『ベリーショーツ』1折目の
刷り出しチェックをしています。
奥にいらっしゃるのが、
日本の誇る印刷のスター、
田中久雄さんです。
お忙しい時間にもかかわらず、
『ベリーショーツ』の印刷工程を
くわしく教えてくださいました。
インキも紙も、
その日の温度や湿度によって
調子がずいぶん変わるそうです。
「たとえば、昼は温度が上がって
インキが流れやすくなるから
インキの盛りを落とすんだよ。
ここでは“神さま”じゃなくて
“紙さま”がいちばんだいじだからね‥‥」
と、田中さんはおっしゃっていました。
それぞれの過程で
仕上がりをよくするために
調整を丹念に続けていくことは
聞けば聞くほど
ほんとうに難しそうです。
田中さんのご案内で工場を見学するうちに、
「イラストの分解やページの製版で
仕上がりがずいぶん違うけど、
最後の過程である“印刷”は、
ほんとうにだいじです」と
祖父江さんがしみじみおっしゃっていたことが
心によみがえってきました。
印刷中に抜き取って色のチェック。
真剣です。
最後の最後まで、
名人の手によってしあげられた
『ベリーショーツ』は
とても幸せな本です。
最後に、田中さんに
印刷の心を教えていただこうと、
色紙に一筆、書いていただきました。
何を書こうかなあ、と迷ったあげく。
「印刷に恋して
はや四十六年。
色は自信を持って見る」
「色は、自信を持って、見る!
この言葉は田中さんにしか書けないなあ」
と、社内の方々が寄ってきては
感動しています。
印刷現場のみなさんの尊敬を
一身に集める田中さんは、
とっても気さくで、すてきな方でした。
「また、おいで!
仕事以外のときに、おいで!」
わたしたちにそう言って、
大きな印刷機の並ぶ工場の中へ
田中さんは、いそいそと戻って行かれました。
祖父江慎さんは、
よしもとばななさんの
いきいきしたこの作品のために、
『ベリーショーツ』のブックデザインを生みました。
組版、製版、印刷、
日本一レベルの技術を有する名人のみなさんが
「祖父江さんのやることだからね〜!」
と、たのしくそして真剣につくりあげ、
『ベリーショーツ』は本屋さんに並びました。
そんなわけで、祖父江さんとご相談して、
奥付に、印刷にかかわったみなさんのお名前を
載せさせていただいたのでした。
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