BUCHO
チャリで探る地球
「麻布十番の21世紀」

今回は理容学校レポートの第2弾、
はじめてのカット編をお送りします。


みんなわかってないと思うけど、
はじめてって本当にはじめてなんですよ。
それじゃなくても理容師の修行は
3年必要って言われています。
なのにわたしの場合は、3週間学校に通っただけ、
それもヒゲ剃り経験5回、シャンプー経験2回、
散髪経験なし(人形では2回)とまだ数えられるくらい
しか経験を重ねておりません。
自分で言うのもなんですが、そうゆうわたしが
人の髪をカットしてしまうなんて恐れ多い、
こうゆうのを無謀っていうんですね、きっと。
立派な理容師さんから言わせれば
まだ初心者の域にも達していないんですって。

だから、今回モデルになってくれる
セイヒローさんはわたしのカットモデル
輝かしい第1号ってことなんですよ。



当日は2人で鼠穴を出発。
私の祖父がお茶の水で経営している理髪店、
『バーバーユニーク』へと向う。
その途中、なぜかどんどん無口になっていく私たち。
緊張気味なわたしと、そんなわたしを見て
不安を隠しきれなくなるセイヒローさん。
昨日までは「よかったー、散髪代が浮くのかー。」
なんて言ってたんですけどね。

夜8時、『バーバーユニーク』に到着。
もう営業時間も終わっているので閑散とした
お店には私とセイヒローさんと、今回アドバイザーに
なってくれる私の親戚のおばさんと合わせて3人。
(おばさんはもちろん理容師さんですよ。)
お店が静かだから緊張感もかなり高まります。

さっそくセイヒローさんに座ってもらって
まずは準備から。
白衣を着て、道具をトレーに並べていきます。
あたりまえだけど、ここまでは順調、順調。



次にセイヒローさんに
タオルとクロスをまいてこれで準備はOK。

「さっ次は何だっけ?」
やる気だけはあるんだけど何からはじめていいのか
手順がよくわからない。
そうそう、よく考えてみたら理容学校では
「シャンプー実習」とか「顔剃り実習」っていうように
1時間の時間割りの中でそれだけしか勉強しないから
一連の流れって教えてもらってなかったんですよね。

わたしがおろおろしてると
「何だっけ? って切るのよ。」とアドバイザー。
うん、適格なアドバイス。
本当ならばここでお客さんに「どうしますか?」って
聞くとこだけど、今回は何も聞きません。
テーマは私が勝手に決めた『さっぱりと』。

さっぱりには色々種類があるし、
幅広く通用するからそうすることにしました。
それに色々注文されてもそのとおりにいくとは
かぎらないしね。

では、散髪開始!
セイヒローさんは
「坊主でもいいですし、もうどうでも好きにして下さい。」
と不安なわりにはいがいと投げやりな1言。
最悪の場合は坊主もありかと思ったら
私の気持ちはちょっと楽になった。
それにしてもセイヒローさんは
すっかり腹をきめているのか、心が広いのか・・・。

まずは水スプレーで全体を濡らして
うしろ髪からカットしていく。
ハサミを持ってセイヒローさんの後ろに立って、
かまえてみたところまではいいんだけど
ここから先はどうすりゃいいの?
またまた立ち止まってしまった。
しょうがないからしばらくセイヒローさんの
後頭部をみつめる・・・。

結局最初の目印になる部分だけはアドバイザーが
カットしてくれることになった。
あとはその目印に合わせてどんどん切っていけばいい。
ここは専門用語でいうなら「すくい刈り」という方法。
クシとハサミをタイミングよく使うのがポイント
なんだけどそのリズムっていうのがまるでなっちゃない。

それだけだけならまだしも、
途中でアドバイザーから
ハサミの動かし方からくしの持ち方から
何から何まで指摘を受ける。あー、前途多難。



ザクッと入ってしまうともうもとには戻せない、
なので慎重に慎重に進めていく、
まちがいなくカメよりのろいスピードだ。
それに加えてアドバイザーからの説明が
いちいち入るのでかなり時間がかかる。
はじめてのカットモデルはのんきな人に
お願いするかぎる、ということがわかった。
セイヒローさんは文句も言わずにのほほ〜んと
イスに座っていてくれるので本当にありがたい。

次は指の間に髪の毛を挟んで切る
「指間刈り」という方法で全体的に短くしていく。
これも調子にのってザクザク切っていくと
切り過ぎてしまうのでとにかく緊張の連続だ。

切ってる最中は何度もくしの角度を注意される。
どうやら理容のカットはハサミを動かす手よりも
くしを持つ手ですべてが決まるみたいだ。
ハサミはただ連続動作が上手にできればいいけど
くしは定規の役目をするので入れる角度によっては
長さがまちまちになってしまったりする・・・らしい。
ようは同じ動きを続けることが大切みたいなんだけど
それができたら何も苦労はしないだよねぇ。

散髪されながらセイヒローさんはたまに
アドバイザーのおばちゃんと楽しそうに話している。
わたしはこれっぽっちもセイヒローさんと話す
余裕なんかなくてアドバイザーの話しに耳を傾けて、
受け答えするのがやっとといったかんじ。

「あらっ、ここちょっと短くなり過ぎてない?」
「えっ、ウソ?」
「そこをそーやって切るから、ほらー。」
「あっ、ほんとだ。」

頑張ってもこの程度しかはなせない。
会話できないどころかあとで写真を見たら
かなり険しい表情をしてるじゃないか。
しかし、それを見ているアドバイザーも
わたしと同じくらい真剣な表情、
あとで聞いてみたら「わたしまで手に汗にぎってたわよ。」
って言っていた。



やっと前髪部分に進出する。
とりあえず前から見たかんじが一番大切なので、
ここで失敗すると今までの頑張りが
全て無駄になってしまうともいえる。
短すぎず、長すぎず、なんとかいいかんじに
まとまるように頑張った。

そろそろ切るところが少なくなってきた。
残すは一番難しい耳の横の部分。
油断してると耳を切ることもあるし、
切らなくてもいいすでに揃ってる髪を
ばっさり切ってしまう恐れもあるらしい。
またしばらくながめてみる・・・、

耳の横にはどうやってハサミを入れたらいいんだろう?
耳が邪魔して思うようにハサミが入らない。
生まれてはじめて他人の耳が邪魔な存在に思えた、
カポッと取り外し式にしてほしいくらいだよ。

しょうがないからアドバイザーが
セイヒローさんの耳を手でおおって
くれることになった、
これって初心者だから許されることだよなぁ。
髪を切る者にとって耳は本当に邪魔だということが
わかった、それだけでも勉強だねー。



全体のカットが終わると
最後の仕上げはスキバサミ。
これはあるていどザクザクいっても大丈夫だから、
さっきまでとは違って私の動きが軽やかになっている。
セイヒローさんの髪もかなり軽くなって
これで最後の仕上げも完了。

無事にひと仕事を終えた瞬間、
全員の顔がほぼ同じにやわらいだような気がした。
やっと回りを見る余裕もできてふと時計を見る。
うんっ? なんとはじめてから2時間!
そんなに時間かかってたんだ?

2時間ものあいだ、文句も言わずに
座っていてくれたセイヒローさんと
何もわかっちゃいない私を根気よく教えてくれた
アドバイザーのおばちゃんと
時間も忘れてカットに熱中していた自分に
思わず感心した。

こうしてドキドキ続きの西田の初めてのカットは
2時間かけて無事終了。
のび過ぎていたセイヒローさんの髪も
目標どうり「さっぱり」になった。

この後は、シャンプー、顔そり、ブローと
続いていくけどその報告はまた次回。

これがカット終了後のセイヒローさんの後ろ姿。
どうですか? 苦労の作品ってかんじがします?


カット前

カット後

まだおひげも残っているので前からの様子は
次の時にお見せしますね。

ところでセイヒローさん、カットされてた時の気持ちって
どんなかんじでした?

「ぶっちゃけた話、外科手術ですね。あの緊張感は。
 それがかえって時間を意識させなかったとゆーか、
 ハサミが入るたびにドキドキしてるから、
 自分には2時間がすごーく短く感じました。
 日々の暮らしにビリ辛なアクセントが欲しい方、
 西田部長のカットモデル、おすすめですよ。
 あ、今からヒゲ剃るの? またドキドキだよ」


『バーバーユニーク』
千代田区神田小川町3-22
03-3259-3448
年中無休
営業時間9:30〜7:30

安い、早い、うまいがウリの牛丼屋のような理髪店。
所要時間は1人に15分くらい、料金は1600円。
オール女性スタッフというのが歌い文句ではあるが、
創業してから30年、最近はオールド女性スタッフに
なりつつあるらしい??
「ほぼ日」を見てきましたといえば、
オール女性スタッフがちょっと優しく
してくれるってはなしだよ・・・。

 


今日も、まだ地球はまわっていた

1999-09-03-FRI

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