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糸井 |
きっと、ひとくちには
言い表せないことでしょうけれど、
シルク・ドゥ・ソレイユがわずかな期間で
世界的なグループに成長した理由のひとつが、
「怖がらず、信じたこと」なんですね。
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ジル |
はい。もしも夢があるなら、
そこに自分の心を持っていくと、
可能性が生まれます。
そして、やはりそれはひとりではできません。
その意味では、私たちは、
自分たちを「助けてくれる人」を
うまく見つけることができました。 |
糸井 |
まず、ひとりでできる、すばらしいことがある。
それと同時に、みんなで力を合わせて
はじめてできるすばらしいこともある。
誰かの得意なことが、ほかの誰かの
不得意なことをおぎなうこともある。
この、シルク・ドゥ・ソレイユという会社は、
「ひとりでできるすばらしさ」と
「みんなでできるすばらしさ」のバランスを
非常にうまくとっている組織だと思うんです。 |
ジル |
はい。 |
糸井 |
なぜそんな組織になれたんだろう? |
ジル |
それは、私たちが、基本的な性質として
「取り込んでいく組織」だったからでしょう。
協力してくれる人々を取り込み、
アーティストたちを取り込み、
いっしょになって私たちは大きくなってきた。
そして重要なことは、
大勢の人々が、いっしょに働けるやり方で
仕事をしなきゃいけないということです。
たとえば、もしも、私たちの会社が
「これはこういうふうにやれ」
「これはああいうふうにやれ」という
命令のもとに動いていく組織だったら、
みんな、6ヵ月とここにいられないでしょう。
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糸井 |
うん、うん。 |
ジル |
じつは、このシルク・ドゥ・ソレイユには
たくさんのミーティングがあります。
たぶん、社外の人からすると
多すぎると思えるくらいの数、
ミーティングがあります。
私たちは、ミーティングでつねに情報交換します。
もっと重要なのは、アイデアの交換をすることです。
アイデアを出し合うとき、
そこには一切の階層がありません。
お互いがお互いの相談に乗るとき、
この会社にいるあらゆる人は、
ひとりひとり、すべてが重要です。
掃除当番のおじさんから取締役まで、同じです。
たとえば、ひとつのショーが成り立つには、
アーティストがうまく演じなきゃいけませんし、
コスチューム担当者がしっかりしなきゃいません。
企画はしっかり練る必要がありますし、
チケットは売らなきゃいけないし、
フロアはキレイにしておかなきゃいけません。
みんないっしょに仕事ができてはじめて、
ショーはうまくいくと私は思っています。 |
糸井 |
そうですね。 |
ジル |
人々の仕事が重なり合って、
ひとつのショーはできているんです。
ですから、もしも誰かが、
シルク・ドゥ・ソレイユに潜り込んで、
ショーを盗もうとしても、それはできません。
シルク・ドゥ・ソレイユは、
有機的な組織なんです。 |
糸井 |
「有機的な組織」。なるほど。
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ジル |
人の体が有機的につながっているように、
シルク・ドゥ・ソレイユも
つながりあってできています。
もしも完全にひとりで仕事をしたい人がいたら、
ここではうまく働けないでしょう。
この組織では、みんなと楽しくやることが
とても重要なんです。
やっていることに喜びがなければいけないんです。 |
糸井 |
ああ、それはよくわかります。
ここへ来るまえにラスベガスで
取材させてもらいましたが、
たくさんの人が本当に
楽しそうに働いていると感じました。
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ジル |
はい。 |
糸井 |
ぼく自身がいる会社は
三十数人の組織なんですが、
ぼくもあなたと同じように
楽しくみんなで働くべきだと思っています。
しかし、組織というのは、大きくなると
簡単だったことがどんどんむつかしくなったり、
いつの間にか企業の文化が
変わっていったりします。
その点、シルク・ドゥ・ソレイユは、
どのようにして1本のフィロソフィを
通すことができたんでしょうか? |
ジル |
やはり、つねにいっしょに仕事をする、
という精神が重要だと思います。
ひとりがすべてを決めたりしない。
そして、ここでは、誰でも、
誰かに取って代わられる可能性があるんです。
私も、きっと誰かに取って代わられるでしょう。
この会社にいる誰もが、誰かに取って代わられる。
それは、いいことです。
そういうふうにして、いいんです。
それによって、独裁者が生まれることもなく、
人が人を力で動かすこともなく、
結果、人々は自分のやるべきことを
ほかの人といっしょにやっていく。
シルク・ドゥ・ソレイユは、
そういう有機体なんです。
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糸井 |
説明を聞いて、いろいろ腑に落ちました。
シルク・ドゥ・ソレイユは、
世界的な成功を収めている企業でありながら、
グローバルな企業にありがちな
「パワーの文化」をまったく感じなかったんです。 |
ジル |
ここでは、ひとりがパワーを持ちません。
ショーがどうなるか、ひとりでは決めません。
しかし、ショーがどういうふうに
なり得るかということについては、
誰もが等しく影響を与えることができます。
そのショーをクリエイトする人たちすべてが
いっしょに働くことで、
経験を蓄え、影響を与え合っていきます。
それゆえ、ひとりがパワーを持たないのです。 |
糸井 |
関係性をとても重要視しているんですね。 |
ジル |
そのとおりです。
やはり、クリエイティビティというのは、
会社の壁の中に入っているわけじゃありません。
アイデアは、人から出てくるんです。
人と人が、真剣に、楽しく、1時間話すだけで、
すばらしいアイデアというのは出てくる。
重要なのは、その関係性なんです。 |
糸井 |
とてもよくわかりました。
おもしろい話をうかがえて、感謝しています。
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ジル |
こちらこそ、どうもありがとう。
(ジル・サンクロワの取材はこれで終わりです。
『シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状』は、
まだまだこれからも続きます!)
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