02
この生地は、財産でした。

今回、TOBICHIで販売するレンテンの生地は、
いつごろ作られたものですか?
というご質問について、
「わかりません」というのが、ほんとうのところです。

もう少していねいに説明します。
この生地はレンテンの村の人にとって、財産でした。
時間があるときに作りだめして、
葛籠などに入れてしまっておきます。
娘が結婚するときにもたせますし、
身近な人が亡くなったときは、
その人が織ったものを譲り受けます。

自分が死ぬときに、
どれだけの反物を残すことができるか
ということも、とても大事なことでした。

そういうものなので、
例えば、ワンさんだとしたら、
ワンさんが若いころに織った反物、
今、織った反物、
お母さんから譲り受けたもの、
おばあさんから譲り受けたものなどの反物の中から、
そのつど、必要に応じて、
家族のために服を縫っていきます。

どの反物を使うかということは、
きっといろいろ思いながら選ぶのだと思います。
また、早くお金が必要なときは、
大事にしまっている反物たちの中から選んで、
私に売ります。
私は私の中のある一定の条件を
満たしていれば買い取ります。

彼らにとって、とても大事な反物だと思っているので、
私からは無理に「反物を売ってください」
とは言わないようにしています。
彼らが売りたいときに、
私が思う条件を満たしていれば、
必ず買い取るというようなやり方でやってきました。

ですから、今回、TOBICHIに持って行く反物は、
そのようにして、16年間、買い取ってきたものです。
例えば、今日買い取ったものでも、
30年前に作られた反物があったりするかもしれません。

1999年に、この村に来て、
レンテンの生地と、
この生地づくりの背景を初めて見たとき、
理由のない直観ですが、
この綿の生地づくりに関しては、
下手にいじらないほうがいい、
なにもいじらず、
このままがいいと思いました。

みんなとの日々が積み重なり、
知れば知るほど、すごいと思うことばかりで、
私が、その当時の私の知識や常識で、
道具や作り方を変えようと思わなかった判断は
よかったと思っています。

2016年6月 谷由起子