今回のTOBICHIの展示販売で
谷由起子さんのラオスのレンテンの布を
洋服に仕立てる仕事を担当するのが、
大阪に拠点をおくブランド
MITTAN(ミッタン)さんです。
谷さんの用意する布は、
黒(藍染)85本、
青(藍染)5本、
白10本、
合計100本の反物です。
一見同じように見える布でも、
綿を育てるところから染め、織りまで
ひとつの家でつくられる布は、さわってみると、
糸の感じ、織密度、触感、幅、長さ、重さなど
すべてまちまちで同じものは一つもありません。
みなさんに選んでいただいた布を、
MITTANさんが洋服にするわけですが、
手紡の糸を手織りしているこの布は、
現代の(最先端の)ミシン加工技術とは、
すこし相性がよくありません。
現地では刺繍をするときも
折り目のすきまに針をいれ、
糸そのものを傷つけないようにしているほど。
縫い合わせるときも、それなりの技術と注意が必要です。
MITTANさんは、世界のあちこちにのこっている衣装や
生地の歴史を研究し、それをもとにした
「現代の民族服」をつくっているチーム。
‥‥といっても、見た目は、
ゆったりとした、からだをしめつけない
(からだによりそうような)服で、
けっして古くささを感じさせたり、
民族性が強い印象をもつものではありません。
そして、もともとMITTANさんでは日本各地のほか
インドや中国、そしてラオスといった
アジア圏の布を使っていますので、
こういった布を仕立てる仕事は
(たぶん、とてもたいへんなのだと思いますが)
専門分野のひとつなのです。
そんなMITTANさんにとって谷さんのラオスの布は
どんな存在なのでしょうか。
主宰でデザイナーでもある
三谷さんに、お話をうかがいました。
(ちなみに、若い男性です。)
この糸を見ていただけますか。
左側3分の1ほどの、
ふっくら巻かれている整った均等な糸が
レンテン族のワンさんの紡いだ糸で、
右側の不均一な糸は、僕が紡いだ糸です。
ろくに紡いだ事がありませんでしたが、
アジア綿のような繊維の短い綿を
細く均一に紡ぎ続けるのは
身体の鍛錬に他ならないのではと思いました。
続けてこなければ、できない事です。
谷さんが「作れる人がいるうちに」と仰っている意味が
今ならよく分かります。
これが服になったとき、どう「いい」のかを
ぼくなりに、お話しさせていただこうと思います。
ひとつ自分の中ではっきりしているのは
着続けることによる生地の変化です。
織ること、染めることの労力とは別に
結果的に出来上がっている生地を見て触って思うのは
やはり糸の違い、繊維長の短い綿を紡いでいるからこそ、
繊維が若干毛羽立ち、着続ける度に生地の目が詰まり
手放せなくなる風合いになるのだと思います。
それはワンさんやシムンカムさんなど上の世代の方が
民族衣装を捨てずに着続けている理由とも
通じるのではと思います。
現地で、糞掃衣(ながく着古した布)を
暫く目を瞑って触りました。
30分ほどだったと思います。
色の濃淡でハッキリと風合いが異なるのがわかりました。
勿論同じ色目でも個体差はあるのですが、
着続けた事の変化がよくわかりますし、
僕は着続けた方の風合いが好みです。
伺ったレンテンの方々は
自分たちで育てた綿を紡がれていましたし、
歴史的にも長らく自分たちと共にあった
綿を紡ぐという点でも、他には無い糸。
そしてそれを織る道具、
人があっての生地なのだと思います。
最初のH.P.Eさん(谷さん)との接点は
確か2003年頃の展示だったと思います。
そのギャラリーに丁度仲の良い友人が勤めていて、
彼女から小さな袋をもらいました。
当時はぼくも今よりは生地に明るくなく、
こんなお仕事をされている方が居るんだな、
位の認識でしたが、
この袋はいつも部屋の目に届く所においていて、
ブレスレットや石などを入れていました。
少し間が空いて2010年頃に
岡山のギャラリーに通っている時に、
布の話をするうちに谷さんのお名前を伺い、
あの袋と谷さんが繋がりました。
何度か展示でH.P.Eさんの展示に伺い、
ちゃんとお話させていただいたのは
2012年だったかと思います。
どのような過程で思いが醸成されていったかは
覚えていないのですが、物づくりの姿勢に憧れていて、
お会いした時にはこんなに素敵な方がいるのかと
驚いたのは覚えています。
2013年の会ではブランドを初めて間もない頃でしたが、
OUTBOUNDさんの小林さんに背中を押していただいて、
2014年のOUTBOUNDさんの会で
黒タイ族の方の絹織物を使った
オーダーの企画のご提案をいただきました。
そこからいまのようなおつきあいがはじまりました。
その後も何度かお会いして、
今回のレンテンの布でシャツを
オーダーメイドするお話をいただきました。
谷さんのお話──。
初期のころに販売していたあの小さな袋を
三谷さんがお持ちになっていたのだなあと
感慨深いものがあります。
とても懐かしい気持ちになりました。
お使いくださっていてありがとうございます。
今回の三谷さんのお話になかったことで
私が覚えていることをひとつ。
2012年より前のOUTBOUNDさんでの
展示会の時、三谷さん
(その時は名前も知りませんでした)が
大変真面目で緊張した面持ちで
「いずれ独立することを目標にしていて
そのときこういう生地を使いたい」
というようなことをおっしゃったことです。
その時たしか私は
沢山出来るモノではないから、
というようなことを申し上げて
あっさりお断りしたように思います。
ただそのとき三谷さんは
私にとっての大恩人のかたのお話もされていて、
それで三谷さんのことが記憶に残りました。
そして1年後か2年後くらいのOUTBOUNDさんでの会に
また三谷さんが独立するので
生地を使わせてほしいとおっしゃり、
そして本当にこの生地お好きなんだなとも感じました。
でも正直申し上げるとうちのシルクの生地は
服にするのがとても難しいと仰る方が多いので、
三谷さんも作って売ってみても
うちの生地ではお仕事にならないだろうなとも
思っていました。
去年の秋、東中野の事務所に
ほとんど生地が残っていないことを承知で来てくださって
残っていた僅かの生地を全てお求めくださり
「はさみを入れるときの感触がたまりません」
と何とも楽しそうな顔をして仰り
「そんなにこの生地が好きなのか」
と呆れるくらい嬉しかったです。
今回の服についてご説明します。
縫い糸は、日本の紡績屋さんのミシン糸、
うちで藍染めしているのです。
これは「なんとかなる」話ですけれど、
縫製するかたが、「縫いにくい」と仰るんですね。
そもそも生地は硬いし、歪んでいるし、尺は違うし、
幅もそれぞれだしと、谷さんが仰るように、
ほんとうに「服にしづらい」生地なんです。
その生地3本をつないで、普通にパターンをおいて
裁断しているんですけれど、
左右対称にしたいのに、
歪みがあるので真ん中がとれなかったりもして、
いろいろと苦労するところがあります。
それでも、この生地で服をつくりたいと思っています。
いま着ているのは自社製品のインドのカディ
(手紡で手織の木綿布)の服ですが、
インドの方からしたら昔から作っていたものでも、
日本でかたちにする時に
一定のレベルのところまでクオリティを保とうとすると、
やはり、たいへんです。
こういったものは生地がそもそも組織が崩れているとか、
織り間違い、何か違うものが混ざっていたりもします。
けれどもレンテン族の布はその心配はありません。
糸を綿花から栽培していますから
他の素材が混じることはまずあり得ませんし、
この丁寧さ、1日に何センチずつ織る、
そもそも商業用ではなく
家で使うために織っている布ですから。
レンテンの方も、布の“いい”“悪い”を
はっきり分かってらっしゃるみたいで、
おばあちゃんの世代に作ってたようないいものは
売りたくないんだけど、
子どもを大学にやらないといけない、
これを現金化したいから谷さんに託す、
というようなことでした。
谷さんのほうでは、「買わせてくれ」っていうことは
自分からは積極的に言わないそうです。
そのくらい大事なものですから。
向こうから持ってこない限りは買わない、
そう決めてるそうなんです。
それをこつこつ谷さんは16年ためて、そのなかから、
今回100反を販売するという話です。
1反で、基本的には、服が1枚できます。
シャツ、プルオーバー、ワンピースです。
定番的につくっている「シャツ」は
レディス、メンズ共通。
くびまわりのたっぷりしたTシャツ型の
「プルオーバー」と、
丈が長く、前があいていて
着物のように羽織るように着る「ワンピース」、
これらは主に女性向きにつくっているかたちですが
もちろん男性が着ることもできます。
洋服を仕立てるのに使った残りの布は、
大きさはまちまちですが、
ちいさな風呂敷やバッグなどを仕立ててはどうだろう?
と考えています。
「一反まるごと買って、まるごとモノでお返しする」
という谷さんの考えから、そのための準備をしています。
ワンピースは用尺がぎりぎりなので、
残布は出ないかもしれませんが。
谷さんも「今までのH.P.E.の仕事の中でも、
集大成的なものかもしれません」と。
ぼくも、心して臨むつもりです。
ちなみに、着ると、すごく楽です。
厚くて重たい布のはずなのに、
身体にフィットして軽く感じます。
夏の暑いときには涼しくて、
秋の肌寒いときは暖かい。
洗濯は普通にできます。
すこし黄色っぽい水が出ますが、
それは石灰の成分でアルカリのほうなので、
染料が溶け出るってことはありませんでした。
けれども藍は藍ですので、
ねんのため分けて洗っていただければと思います。
こういう生地は
クタクタになるまでには3代かかると言われていますが、
それでも30年くらい着ていただけたら、
ずいぶん変化をするんじゃないかと思います。
TOBICHIでは生地選びを谷さんが、
服づくりの相談をぼくが担当します。
着丈や袖丈、ボタンのことなど
カスタマイズできる部分もありますので
どうぞお声掛けください。
開催期間:2016年10月20日(木)~23日(日)
OPEN時間:
20日、21日:12:00 - 20:00
22日、23日:11:00 - 19:00
会場:
住所:107-0062 東京都港区南青山4-28-26
電話:03-6427-6800