糸井 |
えー。
本日はお集りいただきまして、
ありがとうございます。
ちゃんとしたごあいさつをすると、
あとがツラくなりますので、
なるべくいい加減にやろうと思いますけれども……
えー糸井重里です。こんにちは。
この会は、主催、全国補聴器メーカー協議会、
ほぼ日刊イトイ新聞でありまして、
後援は東京FMさんにお願いしています。
何が起こるか、ぼくらもよくわからないのですが、
素人なりに一生懸命やりますので、
どうか、よろしくおねがいいたします。
それでは、この人も、
「なぜ呼ばれたのか、わからない!」
と言ってますが、
ピーコさんに来ていただき……あ、もう出てるよ。 |
ピーコ |
(笑)はやく出過ぎた? |
糸井 |
なぜ呼ばれたのか、わかっているでしょうか? |
ピーコ |
すこし。 |
糸井 |
ピーコさん、今も楽屋で、もう、
ノドが枯れるんじゃないかというぐらい、
たくさん喋っていらっしゃいましたけど、
ピーコさんにとって、
「聞く」って、どういうことですか? |
ピーコ |
もう、さっき重里に言われたけれど、
わたしは聞くよりも喋るほうが多くって、
人の言ってることを聞かないという、
とってもすばらしい人なのよね。
|
糸井 |
今日のテーマは、
聞くコミュニケーションなんですけど、
実はぼくは、ピーコさんと
けっこう長くお話をする機会がありまして、
本も『ピーコ伝』というのを作りました。
ただ、そうやって
長いあいだいっしょにいると、
一見しゃべっているばっかりに思えるけど、
ピーコさんって、実はうまく、
あいだあいだに聞いているなぁと思ったんですよ。 |
ピーコ |
あ、そう?
わたしは、言いたいことを
待っているのがイヤなの。
わたし、相手が話している途中で
その人の言おうとしていることがわかっちゃうのね。
だから、その人が何個か喋ると、
「……あら、その程度のことを喋ってんの?」
と思うもんだから、かならず、
「でもね」とか「そうじゃない!」とか、
かならず……肯定しないの。 |
糸井 |
「でもね、違うの」って言うために聞いているんだ? |
ピーコ |
「なんでそんなことしか言えないのかしら?」
とか、そういう風にしか思わない。 |
糸井 |
ぼくと喋っている時とかも、
そういう思いに満ちているわけですか……。 |
ピーコ |
重里と、ふつうに喋っている時には、
わたしひとりで喋っていて、相手しないじゃない? |
糸井 |
(笑) |
ピーコ |
そういう意味では、
「何違うこと言ってるの」
とかいうふうには思わないけど、
テレビでコメンテーターの横にいたり、
レポーターがそばにいたりするととてもイヤなの。
どうしてこんな馬鹿な人たちと
仕事をしなきゃいけないんだろうとか思うと、
顔に出たりするの。 |
糸井 |
出ますよね。 |
ピーコ |
うちのおすぎは、もっとすごい顔よ?
……ま、あの方の場合は、
「そういう顔」なんだけど。 |
糸井 |
(笑) |
ピーコ |
でもね、
「なんでこんなことしか言えないの?」
「この問題に関して、こういうような視点しか
持っていないんだ」とか思うことは、すごくある。
「その問題は、こっちの視点から見ないと、
隠れていることがわからないのよ」
って言いたくなる。 |
糸井 |
ということは、よーく聞いているとも言えますね、
相手のイヤなところを。 |
ピーコ |
これはもう、もうしわけないんですけど、
聞かないうちに、パッと見ただけで、
その人がどういう人か、そうとうワカる。 |
糸井 |
メッセージそのもの以上に? |
ピーコ |
それよりも、先ね。 |
糸井 |
「語っているその人」というメディアを
判断する方向に、行っちゃうんだ? |
ピーコ |
うん。そうかもしれない。
はじめて会った時でも、会ったその人の
「その人がどういう人か」の雰囲気って、
ちょっと挨拶すれば、見えるよね。 |
糸井 |
なんで、それがわかるの? |
ピーコ |
こういう言い方はヘンかもしれないけれど、
みんなが「すごくイイ人」という人って、
世間でも芸能界でも、いるじゃない?
……そういう人はわたしのことがキラいだし、
わたしもその人たちのことを、キラい。 |
糸井 |
(笑) |
ピーコ |
みんなが「イヤな人」って言う人に、
わたしはすごく好かれるけど、
わたしもそういう人が好き。 |
糸井 |
ぼくはどうなんですか? |
ピーコ |
わたしにとっては、イヤな人はいい人なのよ。 |
糸井 |
(笑)むずかしい! どっちだ! |
ピーコ |
わたしが重里と一緒に仕事をすると、
「どうして糸井さんなんかと仕事をするの?」
って言う人は、います。 |
糸井 |
(笑)そいつ、イヤなやつだねぇ。 |
ピーコ |
(笑)
「でも、あなたは知らないかもしれないけど、
わたしは重里のいいところも悪いところも、
なんとなく許せるから仕事をしてるのよ」
って言ってしまえるからそれで済むけどね。
ただ、わたし、
テレビ見てて、会ったこともないけれども
「この人、いまこんなことを言っているけど、
裏で悪いことしてる」っていうのは、ぜんぶ見える。
だから、そういう人には会いたくもないし、
会いたくない人っていうのは、向こう側からも
「ピーコとは、会いたくない」って言うだろうし、
そういう人はかならず「あいつ嫌いだ」とか
「あのオカマ野郎」とか、かならず言うの……。
でも、その人に言われても平気。
だって、オカマであるというだけで
わたし、悪いことはしていないもの。 |
糸井 |
なるほどね。
今日は
「聞くコミュニケーション」という題に向けて……
あ、今日ピーコさん20分しかいませんから、
はやめに展開しますけれども……。
いまつまり、ぼくは話を
そっちに持っていこうとしているんだけれども。 |
ピーコ |
(笑)はい。 |
糸井 |
たとえばピーコさんの場合で言うと、
病気になって、目を悪くしておられますよね?
見えていた状態が見えにくくなった時だとか、
不自由になった時に、見えていた状態のことを、
はじめて想像しますよね。
その時っていうのは、
「あぁ、見えていたっていうことは、
すごかったんだなぁ」と思いましたか?
|
ピーコ |
重里ってさ、片目になったことがないでしょ? |
糸井 |
ないですね。 |
ピーコ |
あのぅ、片っぽで見ているというのは、
何を見ていても平べったいの。
平べったく見えているって言うの、
お医者さんのハナシでは。
でも、わたしは44歳で
片っぽ目を取っちゃったから、
つまり、それまでの40何年は
両目でものを見てきたとも言えるわけです。
だから、
「人間の顔って、平べったい」
とは、思っていないのね。
立体であるということはわかっている。
……そりゃ、平べったい顔のオンナはいるわよ?
松田聖子みたいに。 |
糸井 |
(笑) |
ピーコ |
でも、立体だということで見るわけだから、
見た感じでは違和感はないです。
それに、お医者さんに言われたんですけど、
目がふたつある人よりも、
わたしは片目の視野がすごく広いらしいの。 |
糸井 |
へぇー。
それは、具体的に、肉体的に視野が広いんですか? |
ピーコ |
いまのって、どういう意味?
「心は広いけど視野が狭い」って言いたいんでしょ! |
糸井 |
(笑)いやいやそんなことはない。
「心は狭いけど視野が広い」」って言うか…… |
ピーコ |
(笑)あ、ヤな感じ!
そういう意味では、まぁ、
わたしは片目でもそんなに苦労してないの。
でも、
「両目が見えないとどうなるか?」
については、ちょっとわからない。
補聴器を使うというのは、
難聴の人がもっとよく聞くためなんでしょ?
そういう意味では、
視力の衰えた人がメガネをかけるというのと、
変わらないわけじゃない。 |
糸井 |
そうですよね。
ピーコさんが平面的に見えているということを、
まわりの人は知っていたほうがいいんですか? |
ピーコ |
知らなくてもいいんじゃない? |
糸井 |
まわりの人の理解って、なくて平気ですか。 |
ピーコ |
わたしの場合は、言っちゃったから。 |
糸井 |
言っちゃえば、だいじょうぶだもんね。 |
ピーコ |
ただ、一般の人はどうか知らないですけど、
芸能界にいる人は、
「目が片一方義眼です」ということは、
公表したくない人が多いですね。
三木のり平さんは、わたしが目を取った時に
「よかったねぇ、役者じゃなくて」
とおっしゃったんです。
目が片方しかないということは、距離感がないわけで、
役者というのはいろいろな距離感が必要なわけで……
それはどんなに慣れてても、片方だと難しいからね。
いま「笑っていいとも」でゲームがあるんですけど、
向こうから飛んでくるボールを取るっていうのは
片目だと、なかなかできないんです。 |
糸井 |
たしかに、それは周囲の人が知らないと、
「ただ、ボールをつかめないやつ」
ということになりますよね。 |
ピーコ |
テレビ見てても「へたくそ」とか、
ボール取るのに失敗すると、
「運動神経がないんだなぁ」とか。 |
糸井 |
俺はそう思っていたね。 |
ピーコ |
(笑)……ごめん、
運動神経はないの、オカマだから。 |
糸井 |
(笑) |
ピーコ |
うれしそうにしてるわね。
あんた……今日、わたしに何をさせたいの?
いちおうゲストでしょ?(笑) |
糸井 |
(笑)いやぁ……
「好きな人には悪くする」
という方法を学んだもので。 |
ピーコ |
(笑)ヤな感じ! |
(つづく)