糸井 |
会場の雰囲気全体を、ピーコさんに、
すっかり持っていかれちゃったっていう
感じになってますが……。
ピーコさんと話しているといつも思うんだけど、
応用のきく話を、いっぱいしますよね。
「キタナイのは大丈夫なのよ!」
って、とてもいい話だなって思う。
ピーコさんが話していたように、
「キタナイ」って言葉で表されているものって、
おそらく「普通じゃない何か」ですよね。
あらゆるハンディキャップもそうだし、
さまざまな境遇もそうだし。
みんなが、
「キタナイ」ところからのスタートだ、
と言おうと思えば、言えるかもしれない。
だから、ピーコさんの話って、
今日のテーマにぴったりだなぁと思って
話を、聞いていたんですけれども。
さて、今日ぼくは、
耳に実際に補聴器をつけてるんですが、
天野さんもつけていらっしゃいましたよね?
|
天野 |
普段はつけないんだけど、
今日は、つけてきました。
やっぱりね……世の中がヘンに見える。 |
糸井 |
よく聞こえることで、
かえって遠い感じがするんですよね。 |
天野 |
買ったのが2、3ヶ月前で、
まだ、全然慣れてないんですよ。
慣れると普通になるんでしょうけれど。
歳とともに、高音が
すごく聞こえにくくなってはいますが、
でも、それもいいんじゃないかというか。
たとえば、
紙をめくる音が、うるさかったりしますけど、
自然っていうのはすごいもので、
歳をとった時に、うるさい音を
聞こえなくしてくれてるんじゃないかって……。
意地張るわけじゃないけど、そう思いますね。
でも、それじゃ困るときもあるから、
補聴器のほうは、使いたい時に、
うまく利用できればなぁと思います。
|
糸井 |
鳥越さんは、このイベントのために
オリジナルで型をとって
耳穴式の補聴器をお作りになったんですが
いかがでしょうか。 |
鳥越 |
(耳から補聴器を取り出して)
……こんなに小さいんですよ!
この小さななかに、
集音器もマイクも電池もぜんぶ入ってる。
補聴器も、変わりましたよね。
昔はポケットに入れて歩いている人を、
見かけましたから。
僕の場合は、まだ
「使わないといけない」
っていうところまでは、いってないんです。
でも、番組のスタッフと一緒に
居酒屋なんかに行くと、
まわりがワーワーうるさいときに
自分のテーブルの前に座ってる人の話が
聞こえなかったりすることは、ありまして。
日常の中でこの1、2年で
聞こえにくくなったな、と思います。
今は、はずしたりつけたりしてるけど、
これが将来使えるものになるんでしょうね。
|
天野 |
さっき、ピーコさんが、
「イヤリングみたいにつけるといい」
って言ってたけど、ぼくなんかは、
やっぱり隠したくなっちゃうねぇ。 |
糸井 |
八谷さんは、今日、なぜ
ご自分が呼ばれたかわかりますか。
|
八谷 |
・・・いや、まだよくわからないです。(笑)
ただ、ぼくが一番最初に作った作品で
「視聴覚交換マシン」っていうのがありますが、
それはよく「視覚交換マシン」と間違えられます。
でも、「聴覚」が入ると入らないとでは、
かなり大きな違いがあるんですよ。
視覚だけだと、
拷問のようになってしまう機械なんです。
聴覚も交換されるから、作品としておもしろい。 |
糸井 |
今日持ってきてもらってるので、
早速やっていただきましょうか! |
八谷 |
ええ。 |
糸井 |
初めての人どうしのほうが面白いと思うんで、
天野さんと鳥越さんにやって頂きましょう。
ちょっと準備する間に説明しますと
自分のつけてる眼鏡に、
相手から見てる自分が映ってるんです。
相手も同じことをしてる。
耳もそうなってるんですよね。
だから、握手しようとするだけで
混乱するんだけど
「相手にこう見えてるってことは?
相手はどこにいるんだろう?」
って、脳で一生懸命考えてしまうんですよね。 |
八谷 |
コミュニケーションするためには
目だけじゃなくて、耳も交換しないと
拷問のような作品になってしまう。
それは制作過程で、わかりました。
実は最初は
補聴器をマシンに組み込もうと
思ったんですが、調べてみたら高かったので、
昔の補聴器に近いものを使っています。
(集音器を取り出す)
これが集音器って言われるものなんですが、
これを使っています。
これは補聴器よりは全然安くて2980円くらいで、
声に合わせた補正はしていないものですけど
音だけ大きくしてくれるこういうものが、
この作品の中に入っています。
やっぱりお互いに
コミュニケーションしようという
気持ちがないと、握手すらできない状態になるんですね。 |
糸井 |
ぼくも最初につけたときは
カルチャーショックでした。
会場のみなさんは
笑っちゃうと思うんですけど。
|
天野 |
うーん(客席の方に歩き出す)。 |
糸井 |
天野さん、そっちじゃないですよ!(笑)
どこかに天野さんがいるし、
どこかに鳥越さんがいます。 |
八谷 |
鳥越さんが客席を見ていますので、
いま、天野さんには客席が見えるんです。 |
天野 |
(また客席の方に歩き出す)へぇー。
|
糸井 |
天野さんあぶないです。行きすぎ。(笑)
つまり、「相手から見てる自分」が、ヒント。 |
天野 |
そうか。
だから、こっちに行けばいいんだ。
鳥越さん、もうちょっと下向いてくんないかな。
(鳥越さんが下を向いて天野さんと握手する)
|
糸井 |
……おお!握手ができた。 |
鳥越 |
(天野さんをさわりながら)
あ、ここにいた。
……これは?ここに?
天野さん、ここにいるわけね。
なるほどこういうことか。 |
糸井 |
(笑) |
鳥越 |
自分がいるところに天野さんがいるんだ! |
八谷 |
見えている自分にどんどん近づいていくと
相手がいるんです。
ぐるぐるまわって、
相手を困らせることもできます。 |
糸井 |
鳥越さんの目が
天野さんの目になってるわけですから……。
じゃ、実験はこのへんにしましょう。
どうもありがとうございます。
人は笑いますけど、妙なショックあるでしょ? |
天野 |
ふー。 |
鳥越 |
変な感じですね。 |
八谷 |
変な体験をさせてしまって、
すいません。(笑)
|
(つづく)