好きな人の言葉は、よく聞こえますか。
補聴器って、あるのは知っていたけれど。

ほぼにちわ。
通天閣あかりです。

今日は「音が聞こえる」ということと
「言葉が聞き取れる」ということは別のものということ、
天野さんのおっしゃる江戸と東京の文化の違い、など
「はっはーん!」と思ってもらえる中身をお届けします。

 
第2部−2

カジュアルシンポジウム
「聞くコミュニケーションって
 なんだろう」
天野祐吉・鳥越俊太郎・八谷和彦
木村修造・糸井重里


糸井 「耳が聞こえにくい場合は、どう聞こえるか?」
が、いま音声資料としてあります。
聞いてみましょう。

(※健聴者が聞こえている言葉と音楽のあとに、
  難聴者にとっての言葉と音楽のテープが流れる。
 
  難聴者にとっての音は、
  軽度だと、こもったように聞こえるし、
  高音が聞きづらい高音急墜型という状態だと、
  ズンズンズンという音として聞こえる。

  さらに、破裂音がまじったりして、
  チューニングが合っていないときの
  ラジオのように聞こえる場合の音も流れる)
木村 古いタイプの補聴器が苦手だったのは
騒音の中で会話を聞くことだったんですが
最近のデジタル技術は
騒音と人間の会話を、機械が判別して
騒音を落として会話を残せるようになりました。
難聴の程度が変わってくることによって
またプログラミングすることができます。
鳥越 僕は毎月聴覚検査をやっていて、
その結果を折れ線グラフにしてもらってます。
20dB〜25dBくらいだと正常なんですよね。
(dBの説明は、こちらをご覧ください
疲労が重なると、40dBくらいに落ちてたり。
「高音のほうが聞こえないのは
 加齢現象なのでしかたない」って、
運命だからって言われてるんです。
木村 高音は子音なので、
会話が聞き取りづらくなりますよね。
鳥越 意味がとれなくなるんだよね。
何言ってるかわからない。
「しゃべってるということ」はわかるんだけど。
糸井 天野さんには、そういうことは
感じられてますか?
天野 そうですね。
音は聞こえるけど、明晰さが落ちてますね。
何を言ってるかが、わからないから。

一番困るのはテレビ見てる時。
自分にとってちょうどいい音量だと、
周りの人はうるさいって言うし、
音量をさげると聞こえなくなる。
それが、日常生活でいちばん困りますね。
木村 ええ。
日本では、難聴のかたが総人口の10%と
言われています。
その中でも補聴器を使って、
日常生活に役にたつと思われているかたは
5%くらい。

糸井 僕がざっくり知ってる話では、
50歳以上の人口が
日本では40%になったっていう話で
考えてみればすごい数ですよね。

テレビを見てると、
そんなに老人は出てないけど、
現実の世界では、
ざくっととったら、若い人のほうが
少ないくらいの世の中に
僕らは生きてるんですよね。
鳥越 確か今は人口の17、8%が
65歳以上だったんですけど
15歳未満の子供が15%きってるんですよ。

糸井 (資料を見て)
2010年には65歳以上が
22%になってますよ!
鳥越 これがもうすぐ25%になるんですよ。
人口4人に1人は高齢者で、
4人のうちのもう1人は子供ですから
成人の大人は2人になるわけです。

その2人で子供と高齢者を養わないといけない。

糸井 今、さすがニュースキャスターという
発言が出ましたね!(笑)
平均年齢をとってしまうと
実状が見えなくなりますね。なるほど。
天野 これからは
「補聴器つけたら一人前」
ってことにするか?(笑)
糸井 今までの話、基本的に高齢者寄りでしたが、
30代の八谷さんは、どんな風に聞いてますか。

八谷 そうですね、木村さんには、
答えにくい質問かもしれませんが
将来補聴器つけることになるであろう者として
疑問があるのが、この集音器は2980円なのに
「なんで補聴器はあんなに高いのか?」っていう。

自分でエンジニアリングもやるんで
ある程度は理由はわかるんです。
補正しなきゃいけないとか
小さくしなきゃいけないために
コストがかかってるんだと思うんです。
僕は、目が悪いんでずっと眼鏡をかけてるんですが
その眼鏡くらいのレベルで、
眼鏡くらいのカジュアルさに
補聴器がなってくれると、すごく
ありがたいっていう気持ちがあるんですけど。
木村 今のご質問は、我々の業界の
色んな問題を含んでいるんですが……
眼鏡の場合ともっとも違うのは原材料ですね。
補聴器は、原材料がとても高額です。

それから、聴覚は自分で自分の聞こえを
判断することがなかなか難しい。
だからフィッティングという
調整作業が必要になってくるんです。

それと、目は老眼っていうのがあって、
100人いたら100人がなりますが
聴覚障害は、みなさんがなるものではない。
そこで、まず数の問題が出てくるんです。
工業製品っていうのは、数が多くなればなるほど
コストはドラマティックに安くなるんです。
八谷 でも、気軽に眼鏡くらいの感じで、
10%の人が補聴器を買えるようになると
1000万人行きますよ?
木村 おそらく今後、
そういう動きも出てくると思いますし
5年後10年後を考えると、
100%デジタル補聴器の時代になりますので
量産はできると思います。

たとえば、鳥越さんのものは、
オーダーメイドで一個一個作っていくので
手作業の部分が眼鏡と違ってあるわけです。
そこでの人権費がかかることも問題です。
八谷 糸井さんの耳にかけてある、
外に見える耳かけ型のほうは、
昔よりずいぶん小さくなったなと思うんです。
あれはコストダウンしやすかったり
するんじゃないかなって思いますが。
糸井 これが7、8万円ですね。
鳥越さんの耳穴型は、20万円近くします。
モノによっては、それ以上。
「俺は口の中に、車1台分くらいの金をかけてる」
ってよく言いますけど、両耳に補聴器をつけると、
それが耳にも言えるんですよね。
天野 補聴器を作るときに、
両方か片方か、どっちにするか聞かれたけど、
両方にしたほうが、いいみたいですね。
八谷 2個使うほうがいいのなら、なおさら、
将来安くなっているほうがいいなぁと思います。
天野 僕の感じでは、補聴器を必要とする人の数は
増えてるんじゃないかと思いますがどうですか?
木村 ここ5年ほどの統計では変化がありません。
天野 あ、5年くらいのレベルではなくて、
江戸時代からの話で言うと、
耳が悪くなるような環境があると思います。
「江戸は音の町、東京は文字の町」
って、僕は思ってるんです。
糸井 その言葉、いいですね。

天野 江戸っていうのは、
音の文化がとても発達していて
みんな音を楽しむ環境があった。
東京は文字ばっかり溢れちゃって
いい音聞こうなんて思ったって、聞こえない。

この100年くらいで、
そういう大変化がおきましたよね。
今、江戸の人が町歩いてたら
倒れちゃうんじゃないかなぁ、
って思えるような音がしてるんですよ。

僕らは音楽的ではない音痴、
音に対する馬鹿になっちゃってると思う。
騒音ががんがん響いて、
ヘッドフォンで音楽聞いてりゃ、
それは、どんどん耳が悪くなる。
糸井 全体に、あらゆるものごとそうなんですけど、
「ボリュームさげろよ」って言いたいぐらい。
選挙がよく語られるけど
「大声で連呼する人が勝つ」
っていうのは、よくないでしょう
天野 シェイクスピア時代の音楽って
1オクターブくらいの
幅で動いてるんですよね。
今は音域の広がりが物凄くあるでしょ。
あんな強烈な音を聞いてたら
微妙な音の揺らぎを楽しむことが、ないよね。
糸井 それが豊かさであるように
思い込ませようとしてるんです。
味付けでいうと……濃い味というか。
(つづく)


イベントに参加してくださった
設計士のかたから、メールをいただきました。
たくさんのことを考えて設計される「家」の中に、
「よく聞こえる」ことも取り入れて
もらえるといいなあと思いました。


 手足が不自由な人の為。
 目が見えない人の為。
 お年寄りにとって危険のないように。
 子供にとって危険のないように。
 (最近では)ペットが住みやすい。までも。

 家を設計する時に様々な事が考えられているのに、
 そういえば
 「耳が聞こえない・聞こえにくい」人の為の家って
 あまり考えられていないなあ、
 とイベントに参加しながらぼんやりと考えていました。

 補聴器という、あんなに小さな機械の中には
 人と人との距離を縮め、
 心のコミュニケーションの為の
 直接的な懸け橋になるという
 すごく大切な機能が詰まっているんだなって
 感じると同時に、
 コミュニケーションの基本の場である
 「家」の設計をしている私にとっては
 「人との距離」を縮め、「聞こえる」事を大切にした
 「コミュニケーション」の為の空間をつくる、
 という新たなテーマを与えられたような気がしました。

 「音の反射のない空間において、
  無指向性の点音源からの距離が
  1mの点と4mの点との
  音圧レベルの差は、約12dBとなる。
  ○か×か。」

 なんだこれ?ですよね。答えは○。
 昨日私が授業で解いた1級建築士試験の問題です。
 もちろん公式もありますが、
 講師の方は丸暗記でいいでしょう、と。

 このイベントに参加しなければ、
 意味を考える事なく丸暗記していました。
 でも、私は今日40dBを体感して、
 この距離を離れると、
 これだけ聞こえにくくなるんだということを
 身をもって理解できました。

 ただ「補聴器」についてだけではなく、
 コミュニケーションをする事に対して
 自分なりのアプローチの方法を
 考えさせられるすごく充実した時間でした。

2002-09-06-FRI

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