DAD
昼間のパパは、男だぜい!

第2弾その3
「エビス堂製菓工場は常夏なのだ」

こたつ、電源を入れて“強”にしてください。
加湿器、ガンガン加湿してください。
ストーブをたいて、やかんをのせてお湯を
わかしてくれたりすると、なおいいですね。
季節外れのものばかりで、お手数おかけしますが、
準備してから読むと、すっごく実感わくかも。
準備はよろしいでしょうか。

暑くない事務所にいた私は、
3代目との穏やかなおしゃべりに別れを告げて、
工場の入り口に向かった。
中から機械のグォーンという音。
入り口の扉からもれてくる熱い空気が見える。
空気が目でみえるって、すごいですね。
陽炎の向こうで金平糖が作られているのだ。

うわー、暑い空気って目にしみるんですね。
「ああ、これはね、空気じゃなくて、
今、仕上げでハッカオイル入れてるところなんですよ。
慣れないとハッカが目にしみるんですよ」
そう説明してくれたのが
エビス堂製菓工場、4代目の持田康弘さん。
ほぼ日にメールをくれた奥さんの旦那さんです。

まっさきに目に入ってきたのは、
直径1.5メートル以上ある巨大なフライパン。
それが斜めになってグルグル回転している。
そのなかに、作ってる途中の金平糖がある。
フライパンが回転するグォーンという音と、
金平糖が斜面を落ちるザーッという波のような音。
この音、この暑さ、目を閉じると夏の浜辺にいるようだ。
ちょっとちがうか。

「この機械は“ドラ”っていうんですよ。
これで金平糖を作ってるんです」。
ガスバーナーの炎が、ドラを下から熱してます。
これが暑さの原因だよ。
ドラって機械が、工場には6台ある、
ってことは、ガスバーナーもそれだけある、と。
目線をドラの横にうつすと……。

上の鍋が、すべてのドラの横にあります。
で、下の大きな鍋はなにかっていうと、
金平糖の材料のひとつ、グラニュー糖と水を熱して、
糖蜜を作るんだそうです。
ここでもガスバーナーが活躍。
で、糖蜜は各ドラの横にある鍋に配られるわけです。
小さな鍋の下にもガスバーナー、ありです。

この糖蜜、そうとう熱そうですねぇ。
「ええ、かかると火傷しますよ。
仕事柄、ちっちゃな火傷はしょうがないですよね。
でも、熱いですよ(笑)」

さて、今までに何台のガスバーナーが登場したでしょうか。
ドラ6つで、ガスバーナー6台。
各ドラの横の鍋があるから、さらに6台。
グラニュー糖を溶かして糖蜜にする鍋で、1台。
ほかにもガスバーナーがあって、全部で15台くらい。
たまりませんなぁ。

金平糖の作り方は、
回転するドラをガスバーナーで熱しながら、
核になるザラメに、糖蜜をふりかけて、乾かして、
ふりかけて、乾かして……、
ちょっとずつ金平糖を成長させていくそうです。
1日で1〜2ミリ成長するのを10日続けて、
やっと直径1センチくらいに成長するんだそうです。
数行の文章にしてしまうのは、心苦しいなぁ。

そういうわけで、エビス堂のホームページ
金平糖の作り方のコーナーは必見です。
ここに、10日間の成長過程の連続写真があるんですが、
それが、おもしろい! 見なきゃ。

しかし、これだけ暑くて、汗かいてると、
デブ化というか、肥満なんて考えられないですね。
実際に、4代目、康弘さんも、締まってるし。
「というか、1日4リットルくらい水分とらないと、
身体がもたないんですよ」。
4リットル! 4000シーシー!
逆に言うと、それだけ水分が
出て行ってるってことですよね。耐久サウナ。

2リットルのペットボトルってありますよね。
たとえば、あのサイズのウーロン茶を
1日で2本、飲んじゃうんですか?
「ティーバッグでお茶入れて飲んでます。
あと、冷たい飲み物だと、胃腸が弱っちゃうんですよ。
毎日飲まなきゃいけないわけだから。
冷たいやつじゃダメなんですよ」

なるほどー、冷たいのはダメなんだ。
じゃ、常温ですか?
「ティーバッグで煮出したお茶で、
ぬるい程度がベストなんですよ。
さすがに冷たいの4リットルはまいっちゃうよね。
仕事継いだ頃はそれがわからなくて、しょっちゅう
下痢とか、胃腸こわしたりしてましたよ(笑)」

なるほど〜、水分とるのはお楽しみじゃないんですねぇ。
「あー暑い、ちょっと冷たい茶でも飲むか……、
カーッ、うまいねぇ!」ってことじゃないんですね?
「ちがいますねぇ。そうしたいのを我慢して、
ぬるめの水分をとるしかないんです。
好きで飲んでるわけじゃないんですよ。
飲まないと身体がダメになっちゃうんですね」。

なんか頭がボーッとしてきた。
工場に入って、まだ30分もたってないってのに。
あっ、温度計だ……おーっ、32度ね!
「そうですか、ここんとこ、冷たい雨が降って、
わりかし気温低いから、助かってますよ
(※取材したのは、梅雨の最初の頃でした)。
これが梅雨があけると、40度くらいになるんですよ。
とにかく屋外の気温が30度こえちゃうと、
なにやってもダメですね。
機械の近くにいくと45度とか、ひどいと50度ちかく。
もうボーッとしてきちゃいますよ(笑)」。

工場のなかでも比較的マシな場所ってあるんですか?
「どこだろう? やっぱ出入り口のちかくですかねぇ。
でも、どこにいても暑いですよ、真夏は」
出入り口の近くって、さっき陽炎をみたところですよ。
そこがマシだなんて……。

じゃ、早く冬がきてほしい、って感じですか?
さっきも3代目が「冬はシャツ1枚でいいんだよ」って
話してくれましたよ。
「そうそう、冬のほうがいいですよ」。
ハワイ、グアム、タヒチ、モルジブ、そしてエビス堂。
はー、常夏。

「暑いでしょう、大丈夫ですか?」
あ、はい、なんとか……。

意味もなく深呼吸したくなって、
スーっと吸ったときに、ふと天井に目が止まった。
換気扇! でかいじゃない。

そういえば、工場を外から見たときに、屋根の上に
なんかあったなぁ。これだったのか。
あの、これ、使わないんですか?
「いや〜、今はまだ使っちゃいけないんですよ。
今使いはじめると、夏もたなくなるんですよ。
ちょっとずつ身体を慣らしていかないと、
夏をのりきれないからねぇ(笑)」。

もうだめ、死ぬ〜、って状況になってはじめて
換気扇のスイッチをオンにするんですね。
耐えられるうちは、耐えるという4代目。
そうはいっても、もう32度もあります。汗だくです。
オレ、あと何分もつんだろうか……。
暑いって話ばっかりだったなぁ。
(つづく)

1999-07-18-SUN

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