第2弾その4
「金平糖工場の天敵とは?」
梅雨あけしましたねぇ。真夏ですねぇ。
昼間そとに出るだけで汗ダラダラ、
エビス堂製菓工場の3代目、4代目は
この暑さのなか、どうしてるんだろう。
工場のなかは、きっと40度オーバーの世界なんだろうな。
それに比べりや、取材したときの気温32度なんて……
たいしたことないぜ!
前回は、工場で15台くらいガスバーナー使うから、
すげぇ暑いんだって話をしましたよね。
金平糖工場では、暑さや火傷のほかにも
つらいこととか、困ったことはないのでしょうか。
あるような気がします。
ひきつづき、4代目、持田康弘さんに訊きました。
「アリです。蟻。
梅雨前くらいから出はじめるんです。
以前びっくりしたのが、天井裏にアリの巣があって……」。
え! アリって土の中に巣穴つくるんじゃないんですか?
「いや、そう思ってたんだけど、調べてみると、
上のほうからアリが来てるぞと。
ふつうは下のほうからアリが出てきて、
アリの道筋をずっとたどって巣を退治したんですけど、
さんざん退治したはずなのに、まだ出てくるんですよ。
『どうもおかしい……』ってことで、
アリの経路をたどって行ったら、
『こりゃ上のほうだ』と(笑)。
で、天井裏に頭つっこんで覗いてみたら、あった!」。
アリの巣が! 天井裏に!
「そうそう。洗面器に土をいれたのを
バッってひっくり返したような巣があった。
もう、いないんですけど、びっくりしましたよぉ」。
ほほーう、地面から土を運んできて、
天井裏にピラミッド作ってやがったと。
ファーブル昆虫記の世界ですねぇ。
たしかに、アリにとってこの工場は天国だよね。
お菓子の家みたいな場所ですからね。
「で、アリ対策としては、アリの巣コロリみたいな、
強力なやつを進入経路に置いてます。
でも、いたちごっこですけどね。
なんとかくい止めてますね」。
じゃ、最近はそんなに出没してないんですか?
今アリがいないのが不思議なくらいですよ。
私がアリだったら砂糖食いにきますよ、ここに。
砂糖天国ですよ。
機械には糖分の結晶がびっしりついてます |
「ここ最近は、わりと静かですね。
あと、問屋さんもアリには悩まされてますよ。
倉庫に置いておくと、アリが来ちゃうって」。
アリのほかには、なにか来るんですか?
虫って甘いもの好きですよね。
カブトムシ系は来ませんか? カナブンとか?
「アリくらいかなぁ……たまにハチが来ますね。
アリ退治で使ってるのはコレです。
いろいろ試してコレに行きついたんですよ。液体です。
あと、もうどうしようもないときは、
材料に使ってる糖蜜を置いておいて、
『どうぞお食べください』と。
『それ食べていいから、こっちこないでください』と。
前は、そういうこともやってました(笑)」。
持田さんがアリ退治に使うのがコレ。
“アリメツ”すごいネーミング |
でも、アリは毎年必ず来るものなんですね。
「毎年来ます。今年はまだおとなしいほうです。
特に雨が降った翌日が出やすいんですよ。
サラサラに乾燥した砂糖置いといても食わないですよ。
それが、ちょっと湿るとすごい。
あと、真夏で暑すぎるとかえって出ないですね。
からっ晴れのときも出てきません。
やっぱりジメ〜ッとしたときがすごいですね。
アリは悩みの種ですよぉ」。
アリがそんなにすごいやつらだったなんて……。
意表ついて天井裏に巣を作ってたという話をきいて、
一瞬ですがアリを尊敬してしまいました。
「あと、余談なんですけど、
たとえばちょっと風邪気味になったりするじゃないですか。
そういうとき、1日ここで働いてると、
だいたい治っちゃうんですよ。
工場のなかの空気自体が、のど飴みたいなもんですから。
1日中のど飴なめてるのと同じなんです。
だから、風邪気味でノドが痛い人は、
ウチに1日いれば治っちゃいますよ(笑)」。
ほほーう。
「あとは……歯。
おやじはもう歯がないんですよ。
おじいちゃんも歯がなかったし。
だから、たぶんケーキ職人さんとかも
みんなそうだと思うんですけど、
虫歯かどうかわからないけれど、
歯がボロボロになっちゃうんですよ。
毎日甘い空気を吸ってるからなのか……」。
それ、虫歯になるわけじゃないんですか?
「虫歯にもなりやすいんですけどね。
だから、お菓子の職人さんはみんなそうじゃないかな」。
その話、おもしろいですよ。
要するに、空気のなかに糖分の粒子がウワーッと
あるわけですよね。
「そうそう。もうなくなっちゃったんだけど、
昔、近所にパン屋さんがあって、
そこのおじさんは、やっぱ歯がなかったですよ。
で、そのおじさんも笑ってましたよ。
『こりゃあ職人の勲章だよ』と(笑)。
自分の店で菓子パンとか、砂糖を使ったお菓子とか
作ってたんですよね」。
すごく暑い。毎日4リットル水を飲む。
火傷する。アリがいる。歯がなくなる。
でも、風邪気味なのが治っちゃったりもする。
不思議な世界ですねぇ。
「うーん、でもまあ、
いい金平糖ができれば、自分はオッケー。
やっぱ『これ、いいできだ』ってのがあるんですよ。
さすがに大きな失敗はないから、
あるレベル以上の話として、
あーっ、今日イマイチかな、とか、
今日のはすごくいいぞ、とかね」。
3代目が最終チェックして、
“これ、いいじゃないか”みたいな。
「あるある(笑)。なかなか奥が深いんですよぉ」。
話をしてる間も、手足はとまらないのだ |
さて、こうしている間にも、ドラは回り続けています。
4代目、持田さんの手も、動き続けています。
金平糖作りは、つきっきりじゃないとダメってのは
本当なんです。次回は、そのあたりのことを話します。
(つづく)
|