DAD
昼間のパパは、男だぜい!

第2弾その5
「金平糖職人は、5つ子の母なのだ」


『ようやく8月に入りました。
暑さ爆裂している毎日ですが、
皆様いかがお過ごしでしょうか?
エビス堂製菓工場は、ただ今、
五右衛門風呂化しております。
皆様に暑中お見舞い申し上げます』。

エビス堂製菓工場のホームページの掲示板でみつけた、
4代目、持田康弘さんの書き込みです。
“安さ爆発”が宣伝文句のカメラ屋さんがありますが、
エビス堂は“暑さ爆裂”なんだそうです。

そりゃーね、私が取材いった梅雨どきでさえ
工場内が32度(無風)あったんですよ。
今は、外の気温が32度超えちゃったりするわけで、
エアコンなし、風なし、ガスバーナー15台ありの工場が
どんな状態になっているのか……想像できませんね。
2メートル先の景色も、陽炎でゆらゆらしてるのでは
ないでしょうか。天敵のアリも入れないという……。
しかし“五右衛門風呂化”ってのはすごいですねぇ。
ちょっと“刑”な感じがして、こわいです。
日本でいちばん暑さに強い男は、持田さんに決定です。

さて、時間をグーッともどしましょう。
ほらほら、暑さもだいぶましになってきましたよ。
なんだ、たった32度じゃないですか。
ドラが回るグォーンという音も聞こえてきたよ。

持田さんは、ドラのなかで転がってる金平糖をすくっては、
ザルでふるいにかけてます。
目のスキマから、細かいカケラがサラサラ落ちています。
これは、“ザラをとる”という作業で、
いつの間にかドラの底にたまっていくカケラを
取り除くんだそうです。
ポテトチップス食べると、袋の底にボロボロのカケラが
あるでしょ。あの感じです。
そうやって、ザラと呼ばれるカケラをとりのぞいて、
いつもドラのなかをきれいにしておくんだそうです。



「金平糖の各段階の大きさに合ったザルがあって、
いちばん細かいので、これです」。

“ザラをとる”作業ってのは、10日間の金平糖作りの間、
ずっとついてまわるものなんですね。
ドラが5〜6台あるわけだから、
手のかかる幼い子供が何人もいるみたいで、
ずっと世話してないといけないですよね。
5つ子の母って感じですね。

「ホントそうですねぇ。
とくに粒が小さい頃、1、2日目が難しいんですよ。
金平糖のツノが出るか出ないかって頃ですね……。
5、6日目の大きさにまでなれば、比較的楽なんですよ。
だから、子供といっしょで小さい頃にすごく手が掛かって、
ある程度大きくなれば社会の荒波にもまれて、
できあがるという、それは思いますね」。

作り始めてから2日目くらいで、ツブが小さい頃、
つまりツノが出るか出ないかの頃が
むずかしいってことですが、たとえば失敗というのは
どういうことを言うんですか?

「失敗すると、まん丸になります。ツノが出ない。
まん丸の固まりになっちゃうんですよ。
温度とかをヘマして、丸くなっちゃうとなおらないです。
その状態からだと、あんまりツノが出ないんですよ。
だから最初が難しいんです。火加減と、転がり具合ですね。
転がり具合の調節は、ドラの傾斜角度をかえるんですよ」。

ああ、なるほど!
ドラの傾きで転がり具合が変わるんですね。

「あとは、適量の糖蜜をリズムよくかけていくことです。
乾かし過ぎないで、なおかつ、かけすぎない。
その3つがかみ合わないと、いいツノがでないんですよ。
乾かし過ぎると、金平糖が白く濁っちゃうんですよ。
やっぱり透明にしたいんですよね。
逆に、糖蜜をかけ過ぎると、
ベチョベチョでもろくなっちゃう」。

いいツノを出して成長させるためには、
金平糖につきっきりになるしかないんですね。
母です。母。

「今、商品をひとつ完成させるところですよ」。

あ、これ入れちゃうんですか?
4代目は、すでに作って一斗缶に入れておいた、
赤、オレンジ、の金平糖を
今までドラで作っていた白い金平糖に混ぜていきます。
ザーッという、土砂降りの音。


途中、別なドラの前にパッと移った持田さん。
糖蜜をサラサラーとひとふり、ふたふり……。
今の動きはひょっとして、
“あ、これ乾きそうだ”ってことですか?
私にはただまっ白にしか見えないんですけど、
見た目で乾き具合がわかるんんですか?

「だいたい(笑)。
身体で覚えちゃってるのかな。
もちろん、目で見てもわかるし、
触らなくてもわかりますから。
今、30歳なんですけど、継いでから7年目ですね。
今は8割がた僕がつくって、
最後のチェックを親父(3代目)がするっていう……」

3代目から少しずつ技術を受け継いでいって、
だんだん4代目の康弘さんがやる割合が
増えてきたわけですね。で、今は8割やってると。
あっ! 今、なんか拾って捨てましたよね。

「形がわるいのがあったんです」。

わかるんですか!
こんなにいっぱいの粒々のなかから。

「まあ、それも、慣れですかね(笑)。
金平糖をかき回してるときに、ちょっとヘンだな、って」。

あっ! また。

「これは、ゴミがついてたんですよ」。

えー、すごい。
だってドラの中では何万粒っていう金平糖が
ザーッと転がってるじゃないですか。
「あ、ゴミだ」って、わかるんですか。
砂浜でコンタクトレンズ探すみたいなもんですよね?

「そうそう(笑)。
でもなんか、わかるんですよ。バーッと見てると。
本の速読にちかいものがありますね(笑)。
なにかあれば、パッと見つけますよ。
でも、金平糖って完成までにどうしても
日数かかるんですよ、10日とか。
つまり、10日間ゴミが入らないように
注意しづつけなきゃいけないってことでもあるんです」。

さて、金平糖が完成しました。
これ、ドラ1つ分でどのくらいの量になるんですか?

「ドラひとつで、一斗缶9缶分です。
重さにすると120キロくらいですね」。

このドラっていう機械の話なんですけど、
金平糖工場って関東にここ1件しかないんですよね。
機械を造ったり修理したりする人も
いないんじゃないですか?

「そうなんですよ。機械も自作してますよ。
だから動力を伝える装置がしょぼいでしょ。
なかには昔からある機械もありますよ。
これは、おじいちゃんの代(2代目)からある機械です。
これが、親父の代になってから親父が自作したんですね。
向こうの機械も自作ですね」。



動力を伝達させる歯車を
ボルトで作ってありますねぇ。

「そうなんですよ。
この機械(ドラ)を造ってくれって、
もし業者さんに頼んだらそうとうお金と手間かかるし、
この機械つくる職人さんももういないだろうし……。
“金平糖つくる機械作ってくれ”なんて言われても、
職人さんもどうしていいかわからないですよね(笑)。
頼むとしたら、機械の実物を見てもらって、
“これと同じ機械”って頼むしかないですよね。
モーター1つの動力をベルトとか歯車で
ぜんぶのドラに伝えて回してます。
たとえば、ベルトが外れたりするでしょ、
そうするとドラが止まっちゃって、
金平糖を焦がしちゃうんですよ。
これまた、気が抜けないんですよ」。



ベルト外れたら、すぐ駆けつけないとダメだと。
まず、ガスバーナーの火をとめるわけですね。

「そうそう。ドラの回転が止まってるのに、
火をつけてると、そこだけ金平糖が焦げちゃいますから」。

ちなみに1日何時間くらいドラを回転させてるんですか?

「だいたい朝8時か9時くらいから始めて、
夕方5時か5時半には止めてますよ。
止めるときは、まず、金平糖をある程度乾かしておきます。
で、火を消してから、さらに乾くまでは
しばらくドラを回しておくんですよ。
ちょうどいい乾き具合で
動力を伝えるベルトを外して、ドラの回転を止めます。
止めるタイミングは経験なんですけど、
最初は乾いてるんだか濡れてるんだかわからなくて……。
あとは、動力モーターの電源をオフにします。
夜は止めたままにしておきます。
たとえば、さっき完成した商品は、
やっぱり一晩おかないと、まだ金平糖が熱いから、
完成させてもその日のうちには納品しないんですよ。
一晩ねかせてクールダウンさせます。
まさに、子供を育てる感覚ですよねぇ。
だから、つきっきりで育てないと」。

こうして、熱々の金平糖は、口に入れても火傷しない
温度にさましてから、本当の完成になるわけです。
翌日、金平糖たちは一斗缶につめられて、
問屋や小売店に納品されていくんですね。

さて、次回はいよいよ最終回。
4代目、持田さんが家業を継ぐことにしたきっかけや、
ホームページを作りの話を聞いていきましょう。

(つづく)

1999-08-07-SAT

BACK
戻る