ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

同じ羽の色の鳥は群れているというか

こう、なんかそのさ、アライアンスだとか、
ウインウインだとか、ファイナンスだとか、
ぼーっとした人間からすると、
油断ならない感じの単語があるよな。
もっと、じゃんじゃん例をあげたいと思ったんだけど、
思いつかないんだよ。
ビジネスばりばりできちゃうみたいな感じの、
働き盛りの、高層ビルに勤めてます的な、
そういう人たちの「用語」ってあるじゃない。

あれって、そういうことばを使っている人どうしが、
そういうことばで挨拶したり会議したり、
愚痴をいったり商売してたりするもんだから、
本人たちには自然なことなんだよね。

そうかと思えば、うぜぇだとか、かったりーだとか、
まーじでーだとか、そういうふうな単語で、
やりとりをしているグループもあるよ。
それはそれで、自然なんだよな。
で、そういう仲間に入会したいと思ったら、
イントネーションも同じにして「うぜぇ」だとか、
自然に発せられるようにすればいいんだよな。

そういえば、昔の大学生が
習いたてのドイツ語を使っていたっていうのも、
似たようなものなんだろうね。
メッチェンだとかゲルだとか、そんな単語を混ぜながら
冗談を言ってたわけだろう。
これはこれで、その人たちどうしでいる場合には、
なんにもおかしなことじゃなく、自然なことだった。

ああ、昔の左翼っぽい学生が、
つい一年前まではふるさとの方言使ってたくせに、
やたらと帝国主義的なだの、意義なーしだの、
消耗しただのとしゃべりたがっていたのも、
それはそれで自然なことだと思っていたわけだよ。

ことばって、服だよな。
階層だの、地方だの、思想信条だの、センスだの、
職業だの、社風だの、富裕度だの、趣味だの‥‥
もうね、いろいろの集団があって、
自分がどういう集団に属しているかということを、
人ってのは、服で表わしたりするものなんだよな。

「こういう服を着ている人のグループだと思ってくれて
 差し支えありませんです」
という服を着ているものさ、みんな。
なんにも考えないで着てますという人でも、
そのなんにも考えない結果が、
自分の属しているグループの「感じ」に、
ちゃーんと合ってるものなんだよね。

それと、まったく同じように
「ことば」があるんだよ。
暴走族に仲間入りしたいと思ったら、
そういう集団のなかで浮かないような服装がある。
スーツ着て仲間入りするのは、むつかしいよね。
それと同じように、ことばも、
その集団の「みえない制服」みたいにあるんだよな。
グループのみんなが「ちっす」と挨拶していてさ、
そのグループの人たちが挨拶には厳しいとするだろ。
そういう場で、「ハロー」とか言うとさ、
ぶっ飛ばされるんだよ。
「おはようでござる」とかも、怒られちゃうよ。

同じようにさ、ヴァリューがCSRでアライアンスのみたいな
高層ビルのビジネス棟エレベーターみたいな会話でさ、
「商いは、飽きないと申しますからね~」なんて言うと、
仕事先に連れてってもらえないかもしれないよ。
そりゃさ、もう服がちがうのと同じだからね。
スーツに混じった甚兵衛みたいなもんだからさ。

逆に言っちゃうとさ、
自分がどういうグループの人間かっていうことを、
速成で表現したい場合とかさ、
どっかの仲間に入りたいときは、
服とことばを習うってことなんだろうね。

でも、さ、習わなくてもいいんじゃないかね。
ほんとは、服やことばを揃えないでも
いっしょにやっていけるようなグループが、
理想なんじゃないかと思ってさ。
服やことばで、その人の「だいたいのところ」が
理解されたような感じって、
ほんとは、おもしろくないような気がするんだよね。
同じ羽の色をした鳥が群れるのは知ってるけど、
いろんな羽の色をした鳥が、
いっしょになって相談しているところのほうが、
なにか起こるんじゃないかという興味があるもんなぁ。

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