ITOI
ダーリンコラム

巨人の、あのプロ野球セントラルリーグ球団の
読売ジャイアンツのことを書くのは、ほんとにつらい。
藤子不二雄描くところの「じゃいあん」について書くほうが、
よっぽど気が楽である。

ぼくは、ながいこと巨人ファンである。
どうして、と聞かれても、はっきりした理由なんかなかった。
小学生だったぼくの夢枕に神さまが立って、
「おまえは、巨人ファンだぞよ」と言ったから、
というのが公式のコメントである。

巨人以外のチームを好きになる機会がなかったの
だけなのかもしれない。
よく話しているうちに、
昔は巨人ファンだったといいだす人がいる。
ああ、それはいい選択をしたなぁと、
ぼくは妙に納得してしまう。

でも、ぼくは、いまも巨人ファンなのだ。
「アタマでは広島ファンだけど、カラダが巨人なのよねぇ」と、
冗談めかして言うことはあるのだが、
広島と巨人が直接戦うときに、広島を応援したことがない。
いまいちばん好きな選手は、広島の大野投手なのだが、
その大野から高橋選手が
ホームランを打ったら大喜びしてしまう。
困ったものなのだ。
腐れ縁みたいに思われるかもしれないが、
それもまんざら外れじゃなさそうだ。

巨人ファンをやっているうちに、
巨人ファンを簡単に軽蔑する人々におおぜい出会った。
いわゆる「巨人・大鵬・卵焼き」という、
子どもの好きなものを、大のおとなが応援するなんて、
という非難と、
「巨人・自民党・保守反動」イコール悪い、
というステレオタイプの批判がうっとうしくて、
がんばって巨人ファンを続けてきたところもありそうだ。
いわれなき迫害が信仰を鍛えるっつーの?

子どもの好きなものを、
おとなが好きであってはいけないわけを、
説明できる人に、出会わなかったし、
自民党や保守がなぜどのように悪いのかを、
納得させてくれる人もいなかった。
「こどもっぽいから、バカだ」「保守は悪い」といった、
わけのわからない理屈を真に受けるほど、
ぼくはバカでもないし、無知でもなかったから、
「ああいうわけのわからない奴らを
ぎゃふんといわせるためにも」
巨人が勝てばいいと思っていた。

正直に、これは言っているのだが、
ぼくは巨人以外のチームのファンを認めている。
それは、ぼくを個人的に知っている人なら
わかってくれていることだ。
むろん、言い争うこともするしコノヤローとも思うけれど、
ぼくは、他のチームのファンを大事にしたいと思っている。

こんな立場で、ずうっと巨人ファンをやってきたぼくが、
いま、ほんとうにつらいところにいる。
巨人ファンではある自分でも、
このままでは巨人はダメになると思っている。
それを言わずに静かに巨人ファンをやめるのも、
ひとつの選択なのかもしれないが、
残念ながら、ぼくはまだたっぷり巨人を愛しているらしい。

巨人の機関誌とも言われる「報知新聞」に、
裏切り者と言われても、ぼくは、
巨人はこのままじゃ永遠にダメなんだ
ということを書くつもりだ。
13字50行。毎日、書きはじめてはやめている原稿の、
締め切りが、近づいている。

1998-08-16-SUN

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