ITOI
ダーリンコラム

<愛の押し売りはいやなのよね>

野球のファンとか、サッカーのファンとか、
いろんなタイプの人がいるけれど、
ひとたびファンの道を歩き出すと、
妙に競争的になったりするものだ。

例えば、だけれど、
テレビで観戦し応援しているファンよりも、
球場に出向いてじかに応援する人のほうが「上」だ。
球場に行く人のなかでも、応援席にいて
たえずでかい声を張り上げている人のほうが、
黙って観戦している人よりも「上」だ。
たえずでかい声を出している人のなかでも、
声をからしてしまって、出なくなっている人のほうが、
試合の帰りに声が出ている人よりも「上」だ。
声をからしている人のなかでも、
ヘアスタイルに球団マークを入れ込んでいる人のほうが、
普通の髪型の人よりも「上」だ。
ヘアスタイルに球団マーク入れちゃってる人のなかでも、
女房に逃げられた人のほうが「上」だ。
もう、キリがないのだけれど、
まだ、続ける?
声がでなくなるまで応援していて、
頭に球団マーク入っていて、
女房に逃げられていても、
命のある人は、死んじゃった人よりも「下」だ。
ある野球チームの応援をしていたけれど、
あんまり不甲斐ないので焼身自殺して
選手の奮起を促した男!
これは、けっこう無敵であろう。

これ、読んでいる人は笑うかもしれないけれど、
世の中の「上下」ってのは、けっこうこういう構造に
なっているように思うんですよ。

「自己犠牲の程度で、愛を測る」と言えばいいんでしょうか
ひどい目に遭っているほうが、ひどくない方に威張る。

ぼくは、そういう光景をよく知っているわけじゃないけど、
居酒屋なんかで、
「あの課長は、アルミを愛してねぇんだよ」とか、
「俺はよー、ほっんとに営業って仕事に惚れてんのよ」
とか、言ってる人がいるでしょう。
だいたい、こういうケースでは、
しれっとして仕事している人とかが槍玉にあがってます。
その場にいたら、ぼくなんかも、つい
「そうそう」なんて相づちうっちゃいそうですけどね、
そうりゃ、ほんとは違うと思うんですよ。

『どっちが愛しているか合戦』は、答えもないし、
ぼろぼろになるほど強い立場に立てるから、
みんなで共倒れになっちゃいそうです。

ひとりの女性をめぐって、
複数の男が競争するなんて場合も、
そういう危険な事態になりそうだよなぁ。
おお、やだやだ。

葬式でこれ見よがしに泣いて騒いでいる
あんまり仏さんと関係ない人、なんてのも見たことあるわ。

そういうの、やめましょうね。
ぼくのところに取材にくる人とか、
この頃は少なくなったけれど、ぼくのことを
「熱狂的な巨人ファン」とか、
「紙一重のロマンで埋蔵金を掘る男」」とか、
「年間200日釣りをしていた」とか、
なんか、そういう路線で話をさせようとするんだけど、
ぼく自身は、ですね、馬鹿なことは馬鹿なことだと
思っていますからね。
自慢じゃないことってのは、自慢じゃないのよ。
ぼくが、いろんなことにのめりこむのは、
短い時間で集中的にその世界に入り込むと、
高いレベルのプロのやっていることが、
理解しやすくなるって理由があるんだよ。
それを知るのが、おもしろいから
時間や労力を「犠牲」にしたように見えるけど、
コストとして注ぎ込んでいるだけなんだよ。
巨人を愛している人も、釣りを愛している人も、
ぼく以上の人くらい、いっくらでもいる。
そんな競争したってしょうがないだろう?
究極は焼身自殺なんだからさ。

誤解されたら、めんどくさいなぁと思いつつ、
単なるほんとのことを言うけれど、
「俺に愛なんて、ねぇよ!」だよ。
自分の娘には、その真意は理解されると思うけどね。

ベイビー、愛し合ってるかい。
・・・だけど、こういうコトバも大好きさ。

2000-04-24-MON

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