<南伸坊との対話>
ああっと、おおげさなタイトルをつけちまったい。
ま、いいや。女性週刊誌よりはおとなしいから。
京都に、インターナショナル・アカデミーという、
私塾のようなものがあって、
この館長の森さんという人の父上が、
ぼくの友人の仲畑貴志の高校の校長先生だった。
ものすごく端折ると、その縁(どういう縁だろう?)で、
ぼくは、この寺子屋の講師をやるために、
年に2度ほど、京都に行くのである。
だいたい、そのうちの一回は、単独の講座、
もう一回は、だれかもうひとりのゲストとの対談形式だ。
いままでに、さくらももこさん、吉田戦車さん、
えのきどいちろうさん、宮本茂さん、大槻ケンヂさん、
小学館の名物白井さん、竹村真一さん、などなど、
自分だって聞きに行きたいというような人と、
対談をしてきた。
今回のお相手が、南伸坊だったわけだ。
シンボーとは、若いときからあまりにも頻繁に会ってたので
あらためて公開の場で話をするのも照れくさい。
でも、偶然のめぐり合わせで、
会わないでいる時間がずいぶん長く続いていたので、
こういう機会に、会ったらたのしそうだぞと、
自分のわがままで声をかけさせてもらった。
行きも帰りも、宿泊も、
伸坊と一緒のスケジュールだったので、
ずいぶんいっぱいおしゃべりをした。
*それはそうと、急に思いついたのだが、
男どうしで「おしゃべりした」というのは、
なんだか似合わない感じだ。
接頭語の「お」がいけないのだと思いついたが、
その「お」を削除すると、
「おしゃべり」は「しゃべり」になってしまう。
『ずいぶんいっぱいしゃべりをした』は、
やっぱりヘンである。
いつも、ぼくは新幹線の約3時間を、
睡眠時間として計算にいれて前日の仕事をしているので、
できるかぎり眠っているのだが、
東京駅で伸坊の三角頭を見たとたんに、
「これは、眠れないな」と観念した。
いや、「眠る」の中止を決めたのだった。
いくらでもしゃべった。
結局、新幹線で往路3時間復路3時間。
講義が、5時から7時過ぎで2時間。
鴨川の料亭に案内されて、
「キンチョー」のCMでおなじみの堀井さんをまじえて、
めし食って酒飲んで3時間。
足し算したら、11時間くらい話をしていた。
ホモ関係じゃないんだけどね。
なつかしさと、話の内容のおもしろさで、
やめられなくなっちゃうわけです。
最近は、伸坊は、赤瀬川原平さんの「老人力」などの
装幀のデザイナーとして活躍しているけれど、
イラストは本職だし、文章はうまいし、
編集者としては腕がいいし、顔マネはプロだし・・・
いろいろあるんだけれど、
「本人」が最もおもしろいのだ。
とにかく、これだけの時間があったので、
なんだか山盛りに話したのだけれど、
それを書きだしていたらキリがない。
もちろん、いま「ほぼ日」の人であるぼくだから、
インターネットの話題もでたし、
コンピュータのことも話した。
伸坊は、あることはあるらしいのだが、
パソコンは使っていない。
故・伊丹十三さんに、
「えっ! 使ってないんですか?!」と、
ものすごく驚かれてしまったという。
頭のカタチは三角だが、頭のカタイ人ではないので、
毛嫌いしているわけでもない。
驚いた伊丹さんは、非常識だと思う。
ぼくらは、ごく自然に、使っている人間と、使ってない人間
という枠組みを超えて、
コンピュータについて話をしはじめた。
伸坊や、さっきも名前のでた仲畑貴志や、
川崎徹というような親しい友人と話をしていると、
アイディアや表現が「共作」といった感じになってくる。
誰が言ったかは、物理的な事実と関係なく、
「場が考えたもの」、になっていくのである。
映画や演劇という表現も、集合の芸術かもしれないが、
「会議」や「座談」や
「だべり」や「性交」や、
「ゲーム」や「たたかい」は、
これまたうまく運んだときには、
集合の芸術と呼んでもいい世界を
堂々創っていると思うのだ。
オレとシンボーがくっちゃべってることを、
芸術だと、大ボケなことを言いたいわけじゃない。
ダイヤモンドでもガラス玉でも、指輪は指輪、価値は価値。
ガラス玉がこころからガラス玉になれた時には、
ガラス玉は、世界でたったひとつの「輝き」なのである。
なんか、テツガク的になったけど、そういうことさ。
この二日間の、伸坊との話の気持ちよさは、
しばらく会わなかったくせに、
妙にキャッチボールの相性が合ったということでした。
『コンピュータを買えばナニカが出来るようになるなんて、
絶対にウソだよな』
「だって、自由にひとりで映画がつくれるようなソフトが、
仮に発売されたとしても、
いい映画がつくれるのは、ほんの一握りの人だよね」
『ソフトがあって、簡単に使えればいいものが創れる、
ということなら、その例はかつてあったんだもん。
それは、さ、原稿用紙と鉛筆だよ。
あんなに簡単で安価で、使い道の可能性のあるシステムは
最高のものだと思うよね』
「でも、書けない。原稿用紙の紙質に詳しくなくたって、
すごい小説が書けるもんじゃない」
というようなことを話しているうちに、
東京駅に到着したのでした。
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