ITOI
ダーリンコラム

<恥ずかしい季節はめぐるよ>

すっごく恥ずかしい詩を、ご紹介いたしましょう。
◆君が ぼくの そばにいるだけで
(あなたが 私の そばにいるだけで)
 太陽は輝く オレンジの輝き
 雲は歌うよ マシュマロの夢

すごい! 
タイピングしているだけで、やる気が失われる。
なんなんだ?!これは!
これを書いたS君は、ぼくの親しい人なので、
どうしてこういうものを書いたのかを取材してみました。
「18歳くらいの時に、書いたんです。
当時はフォークソングってのが流行っていて、
僕にもあんなのは作れるんじゃないかって思いましてね。
曲もいっしょに作ったんで、よく憶えていますよ。
歌えと言われたら、いまでも歌えますね」

いいと思って作ったわけでしょう?
「ほんとのことを言えば、僕はもっと生意気な人間でした。
でも、みんなはきっとこういう歌や詩が
好きなんだろうと思って、
口当たりのいいコトバを並べて作ったわけですよね。
ですから、『いいと思って』というよりは、
ヒット曲に似たものができるんだってことに、
満足感さえ感じていました」

でも、好きではなかったわけですか?
生意気だったあなたとしては。
「いやぁ、それがですね、何度か歌っているうちに、
いいような気がしてくるんです。
だからこそ、忘れずにいるんでしょうねぇ。
だけど、おなじ時期に、澁澤龍彦だとか読んでいたわけだし
シュールレアリズム関係だの、偉そうに語ってましたから、
ヘンですよね。何もわかっちゃいなかったんでしょうね」

太陽をオレンジの果実に、雲をマシュマロという菓子に、
それぞれ喩えたところがミソなんでしょうか?
「すみません。
これ以上責めないでください」

いま、この詩のばかばかしさについて、
自己評価はできるようになっていますか?
「はい。書きたくもないのに、
他人にほめられようとして『こんなもんだべ』と思って
書いているのが、どうしょうもないですね。
なんか、モテようとしているんでしょうね。
モテたいのなら、もっと率直に、
◆モテたい モテたい ああモテたい!
とかねぇ、書けばいいものを、
太陽がどうしたこうした言っているのが、
見苦しいです。
・・・もう、許してください」

いやいや、責めているわけじゃないのです。
こんな歌詞でも、いいと思えばいいような気がしてくる、
そういう可能性について、興味もあるのです。
「それもそうなんですよ。
あばたもえくぼじゃないけれど、
駄菓子の甘さがなつかしいみたいなことって、
たしかにあることはあるんですよね。
そのへんのところを逆手にとった表現だって、
いまはひとつのトレンドとしてありますからね」

調子に乗らないでください。
他にも、こういう恥ずかしいことはしていたんですか?
「もちろんです。
ほんとは何も知らないくせに、
自分でエロ小説を書いて印刷して売れば
きっと売れるぜ、とか、
とんでもないことを考えていましたからね。
反省しきりです。もうやめましょうよ」

その後、似たような歌詞はつくりましたか?
「似ているけれど、こういうのも作りました。
大人になってからですけれどね。

◆いまのキミは ピカピカに光って
あきれかえるほど 素敵
ボクの情熱 受けとめて くるくる踊れ

これは、CMソングとして作りましたね。
こっちは恥ずかしくないんです。
ベンチャーズが得意そうにギター弾いてるような
あっけらかんとした楽しさが出ていますから。
読者の顔色をうかがってないんですね、きっと」
 

そういうあなたが、
読者になにか言いたいことがあったら聞いておきましょう。
「人間は、すこしずつ変化して行く、ということで。
変わらない部分は変わらないのですが、
身体と同じように、精神のほうも、
不断に細胞の入れ替えのようなことが行なわれている。
そんなふうなことを、言い訳じみていますが、
言わせていただきたいと思います。
青春、かくも不自由な季節よ!」

そうですか。
いまから、何をしようとしているのですか?
「はい。このダーリンコラムというやつを書き終わったので
明日の新メニュー紹介という原稿を
書きはじめるつもりです」

ごくろうさまでした。
「ほぼ日」の編集、がんばってください。
それでは、ぼくは、少し本でも読んでから、
『80代からのインターネット入門』の
編集作業にかかります。
おたがい、がんばりましょう。
辛抱する木に花が咲く、というではありませんか。

1999-08-02-MON

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